【特集】 コラム
2007.01.29
人生バラ色に下り坂をゆったり楽しむ
嵐山 光三郎
 七年前、自転車で「おくのほそ道」を廻ったとき、ふと考えた。五十代の身には坂道を登るのが大へんなのである。急な坂道は、自転車から降りて、引いて登った。ゆっくりとした坂は、ギアを最低スピード用にして、ふらふらと揺れながらも秒速1メートルで登った。
 そうして、下り坂にさしかかったときの快感というのは、もう、たまんないね。ペダルをこがなくっても進んでいくし、草の匂いや土の香りをかぎながら風を受けて山道を下っていく。「そうか、下り坂に至福のヨロコビがあるのだ」 と気がついた。
 坂を下りきると、また小さな坂に出会う。しかし、その坂を登るとまた下り坂になるとわかっているから、坂を登る。下り坂が楽しみなのである。つくづくそう思った。
イラスト
 人間の一生もしかりで、高齢者は、下り坂を楽しむのである。いままで坂を登ってきたのだから、そのぶん下り坂を行く。下り坂をマイナス要素と勘違いする人がいるけれども、高齢になってなお上昇志向となる人は、死ぬまで坂を登ろうとする。それは、もったいない。下り坂を楽しむことができれば、後半生はバラ色になる。
無理せず、悠々と下っていこうじゃありませんか。
「たんけん」より
嵐山 光三郎 (あらしやま こうざぶろう)
1942年、東京都出身。作家。
雑誌編集長を経て執筆活動に入る。著作『不良定年』(新講社)は、中高年の話題書となっている。2006年には『悪党芭蕉』で泉鏡花文学賞を受賞した。旅が好きで、一年の半分は国内外を旅行中。
 


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