【知の庭】
2009.04.20      
「われこそは長宗我部の直系なり」
長宗我部元親の銅像除幕式にやってきた男
歴史の裏側こそ、複雑なエネルギーが渦巻く

長宗我部 友親

 かさねがさねとなるが、決していま書いていることが正しいということを主張しようとしているのではない。誤解しないでほしい。こういう角度からの歴史もありうるのではないか、といういわば仮説を語っているのである。

長宗我部元親の墓
元親の墓をスケッチしたものとして、わが家に残っている

■人間の生こそたくましい
 たまたま、表に伝わっている歴史とは違う記述をした文書が残っていたため、それにひとつのよりどころを求めて、歴史の、奥の深さ、言い換えれば人間の幅 広い生や、執念といったものなどを探ってみたいと思ったまでのことである。そのように割り切って、物事を考えてみると、歴史というものがいろんな方向に広 がって楽しくなるのである。
 また、私の先祖の血のつながりがどうこうと思っているわけでもない。しかし世の中にはいろんな人がいて、「お前さんの家系は長宗我部の正統ではない」と繰り返しいってくる人もいる。でも、どれが正統であり、そうではないかなど、何百年もたった今判別できるわけがない。

秦神社
秦神社−長宗我部信親と戸次川で亡くなった人々を祀っている

■若宮八幡宮
 高知の若宮八幡宮というところに、その神社の神主さんが長宗我部元親の銅像を建てたいということで、寄付が集まって、その銅像の除幕式をした。その末席 に参加させていただいたが、その時に面白いことが起こった。山内家の当主も参列していた盛大な式典からすると些細なことであったのだろうが、その時の出来 事にわたしは興味を覚えた。
 
 その神社の神主さんあてに、一本の電話がかかってきたのである。その電話を社務所まで行って受けた神主さんは興奮して式場に帰ってきた。そして、「長宗我部の直系などいない」と怒っているのである。

■歴史から消えた
 聞いてみると、その電話は、自分が長宗我部の直系子孫だから、高知駅まで迎えにこい、という趣旨だったそうだ。
 司馬遼太郎さんが長宗我部元親の一代記を書いた「夏草の賦」は、最後の一文に、「大坂夏の陣の結果、長曾我部家はあとかたもなくなり、歴史から消え た。」と書いて、この小説を終わっている。この文章を読んだ時、わたしは複雑で、そして何かむなしい気分に襲われた。ショックであった。
 しかしである、長宗我部盛親は、長く浪人生活を京都で送っている。その間に血族ができたことも考えられるし、なにせ没落した一族である、どのようにその流れが続いているのか定かなことは分からない。
 そして、逆に考えると、大坂の陣の後、徳川家という巨大那権力が構築されたわけである。それゆえに、その権力の影で、一族を残そうといするエネルギーが 働いたはずであり、またその一方でそう簡単に長い歴史を持つ一つの一族が消え去っていくわけがない、とも思ったのである。そして実際に、徳川幕府も長宗我 部に縁のある春日局は長宗我部の血族である香宗我部家などを手厚く残している。これは後述する。

元親の肖像
長宗我部元親の肖像、秦神社に祀られていた

■苦渋の生活、何百年
 わたしの家に残っている書付を見ても、数は少ないが必死に、流れを語ろうとしていたことはよく分かる。一言で、「直系はいない」といってしまうのはどうか、と思う。
 また、非常に嫌な思い出もある。ある大手の出版社の編集者と称する人がやってきて、いろいろ聞いた後で「けれどあなたは長宗我部家とは血のつながりはな いのでしょう」。とぶしつけにもいった。「それでは、あなたはどのようにそのことを取材されたのでしょうか」、と切り返したかったがそんなことをいくら議 論しても詮ないことである。
 けれど、そんなに簡単に言われるとしたら、わたしの家の先祖が何年間も、「長宗我部公由縁のもの」として、牢獄に入ったり、山内家に「差出」を無念だっただろうが、提出したりして残してきたものは一体何だったのだろう、と考えた。その編集者の顔はいまだに忘れられない。

牛丸添え書き
長宗我部家に伝わる宝刀「牛丸」の由来が書かれている

■血のつながり
 血のつながりが実際あるのかないのかなどをわたしは詮索してみても意味はあまりないと思う。そんなことより、なんとかして歴史のひとすじを残してゆこう とした人々の足跡を追いながら、その人々の気持ちを思い起こすことで、人間の歴史をいろんな角度から見ていくことこそ、面白いし、苦労して、書き残してき た人々の気持ちにさかのぼることができる、と思う。「大日本史」しか信じていないと思えるような大手出版社のその編集者の心が、その時ひどく寂しく思え た。


 
イラスト 長宗我部 友親  (ちょうそがべ・ともちか)
親房系長宗我部家の十七代。通信社の記者を経て、現在株式会社企画の庭の代表取締役。著書に『なごやの忘れもん』、『街かど経済入門』などがある。
 
 
 


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