政治時評
 政治時評
  新時代の構築に向けて



検察行政の改革急務、メディアも猛省を
  米は「鳩山―小沢」に期待感
  ―憂国の士が放談会


栗原 猛

  長かった鳩山・小沢氏の政治とカネをめぐる捜査が終結したところで、5人の老・壮・青がこんどは東京・本郷のすき焼き屋の2階で放談会をやった。酒は広島出身の長老が持参した剣菱だ。「頼山陽が日本外史を書くとき、発憤するために飲んだ。四十七士も討ち入りの時にやっている」と、前口上があった。飲むにつれピッチも上がり、話題は検察やマスコミの在り方、日米中関係など憂国の至情は広がった。(敬称略)


―大騒ぎの収支決算は。

  A 日本人は勝ち負けに割り切りがちだが、そうではなくて今回はブログ、週刊朝日、日刊ゲンダイの健闘が光った。一方の大マスコミは総崩れだ。
  B マスコミ人にとっては、現役時代に一度あるかないか、のるかそるかの局面だったと思った。
  C 日ごろ鍛えた真価を発揮するチャンスだと思ったが、「検察対小沢」というパターンで見ていた。うまく誘導された感じだ。
  A 「流星光底長蛇ヲ逸ス」の図だな。
  B 日本全体が豊になり、学生運動やベトナム戦争反対も知らない世代が社会の中堅になって、権力の怖さを知らない人が多くなっているのではないか。
  E うちのかみさんは検察と二人三脚見たいといっていた。
  D 今ごろになって「土地代の原資も壁」とか「上層部が慎重」とか、検察批判に転じている。信頼回復のために検証や猛省が先だね。

―「検察も指揮権発動は覚悟の上だ」と大見得を切っていた。

  A かつて指揮権が発動された時、検事総長はかんかんになって怒っていたが、その後3年もポストに居座わり、結局7年も勤めた。本来なら抗議して辞めるのが筋だった。出処進退について、当時、検察内部でも批判があったね。
  C 指揮権の知恵を出したのは検察高官だったというね…。
  D 政治と検察の妥協があった。今回は、指揮権が発動されても、当時のように政府批判は起きないだろうと、旧知の検事OBは言っていたな。司法や検察に対する世間の見方が変わってきているというのだ。
  E 鈴木宗男議員や佐藤優氏ら裁判中の人が堂々と、マスコミに登場して捜査の非を鳴らし、国家の将来を憂いている。それを認めるような素地があるということだな。 
  B 昨年の夏の選挙の結果は、もっと年金の不始末、天下りや税金の無駄遣いをしている「巨悪」を退治してくれということだったはずだ。
  C 検事総長や特捜の幹部がゼネコンや商社などに天下りしているね。裏金問題もある。そういえば検事総長を辞めたら政治評論家になるといった人がいた。そう願いたいね。 
  D 足利事件などここにきて冤罪事件も目立つ。横浜事件は戦前だがひどいものだ。何人も殺されている。事情聴取の可視化は急ぐべきだ。
  C 調べのテクニックだとはいっても、「四つんばいになって伏せていろ」とか、机の脚をけったりするのはひどい。米軍が事件を起こした兵を日本に渡さないのは、後進国の捜査には任せられないと言っているそうだ。
  A 日本の検察官は訴訟から捜査、ガサ入れまで欧米の検察官を上回る強大な権限を持っている。守備範囲が広い上に、有罪に持ち込むことが至上命題だから、どうしても無理が出る。事件の絵柄を描いて、それにあわせて証拠を固めをする。ところが「事実は小説より奇なり」で、世の中の方はもっと複雑怪奇で奥深い。そこを読み切れないから最高裁で無罪になったりする。欧米の検察のように訴訟一本でいくべきではないか。
  E 「国民の信頼」が「検察や司法の権威」を支えているんだがね。

― ところで今回はブログの活躍が目立った。

  C いくつかのぞいてみたが、まじめなものがあった。それに面白い。うかうかしていると重大局面では、世論はメディアでなくブログがつくるということになりかねない。
  B 中国の古典に、「政治家や役人は二つの目でものを見るが、世論は何千万という目でみている」というのがあった。ブログというのは、その人たちがすべて発信機能を持ったということだ。

― 「100年に一度の不況」なのに政治や行政は空白が続きそうだ。
  E 国会は鳩山・小沢たたきだ。景気、雇用、年金、国家公務員制度、特殊法人、特別会計の改革など山ほどある。ピッチを挙げてもらいたいね。
  C 昨年の給料は3,9%も減った。15歳から24歳までの若者の失業率は8,4%だ。JALもトヨタもどこかおかしい。財務省も日本銀行も何か手を打っているの。
  E 野党は証人喚問とか、参考人招致とかやって参院選まで引き延ばすつもりだろう。政治の空白極はまだまだ続きそうだ。
  A そろそろ「国乱レテ忠臣現レ」てもよいころなんだが。
  B 議会政治の前進という点から言うと、自民党は作戦を変えて、徹底的な政策論議をした方が、ニュー自民党を売り出せるチャンスでもあるんだがね。
  D この間、奥野誠亮(元法相)さんに会った。96歳、かくしゃくとしたものだ。戦前の政治家や官僚は、「三事忠告」という本を読んだと言っていた。中国の宋時代に宰相、検察長官など3つの要職を務めた張養浩という人が書いたもので、「結論をいえば政治家や役人に大事なことは廉直、公正、自制だ」といっている。
  B 真理は足下にありだ。
  A 西郷隆盛は、「地位とカネと名誉」がいらない人でないと国家の大事は任せられないと言った。この3つを一人で独占しようとする欲深が多すぎるから、国の財政に大穴を開けても平気なんだ。

―話が変わるが、キャンベル米国防次官補と駐日米大使が小沢に1時間も会っているね。

  B 地検の方針が出る前日だ。第6感だが「米政府は鳩山・小沢を支持している。検察もそろそろ矛を収めたら」というサインだったのではないか。
  E 日本政府には訪日の予定をもっと早くから伝えてきたはずだ。米は捜査の推移を見極めていたのだな。
  D ブッシュ政権時代のネオコン人脈、自民党や霞が関の右の勢力が連携して、安保、防衛、外交などで「鳩山・小沢」を揺さぶっているという見方がある。経世会と清和会の最終決戦だとみる人もいたな。

  D 小沢は「親中で反米」だが筋が通ってもいる。ここは一番、小沢のガバナビリティーに任せるしかないと判断したのかも知れない。米は小沢に先の訪中団を上回る代表団を連れて訪米してくれと言ってきているというし。
  E 中国も日米が良好なことを望んでいるというし、日米中はこれからますます大事になる。国際政治の舞台は、上品な二世三世では心許ない。潔癖性ばかりも言っておられない複雑で奥深いところがある。
  A 米政府にとって日本の政局が安定しないと、中国をにらんだ世界戦略が描けない。ホワイトハウスの中にも日本の国民が選んだ政権だから、柔軟に対応しないといけないのではないかという考えも出てきたらしい。民主主義の深さを感じさせるね。
  C 長く続いた「自民党外交」から「民主党外交」に、ギアチェンジする歴史的な瞬間に来ているのだろう。だからアンシャンレジームの「鳩山・小沢」引き下ろし作戦はさらに激しさを増すとみる。


  2010年2月8日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。



「鳩山・小沢の執拗な捜査」は
公務員制度改革阻止にあり


栗原 猛

   鳩山政権は4月から財政赤字の元凶といわれる特別会計の事業仕分けに入る。国民こぞって成果を期待しているところだが、実はこうした一連の改革と「鳩山・小沢の執拗な捜査」とは、底流で結びついているのではないかとみる向きが少なくない。

 鳩山政権は、特別会計、国家公務員制度改革、天下り先の特殊法人改革などを、税の無駄遣い退治の3大改革に据えている。ところが、この改革に霞が関は総論賛成、各論は絶対反対である。実は国家公務員制度改革など行政改革に取り組んで、官僚陣から揺さぶられた内閣は民主党の鳩山政権だけではないのである。

 自民党の橋本龍太郎、小泉純一郎、安倍晋三政権もそれぞれ行政改革を掲げ、霞が関から巧妙なサボタージュや骨抜き、挙げ句に個人攻撃をされたと、当時の関係者は証言している。橋本政権は省庁再編や財政構造改革など6大改革に取り組んだ。ところが橋本首相は参院選の終盤になって突然、恒久減税をとり挙げ、これが二転三転する。その結果、参院選は勝利間違いなしという前評判は覆り敗北、退陣につながった。当時、首相周辺にいた人たちは、「恒久減税は省庁再編に対する霞が関からの意趣返しだった」と言っていまでも悔しがっている。

 次の小泉改革は独特のキャラクターと大立ち回りをして、道路公団と郵政の民営化にこぎ着けたが、郵政改革は政権が交代した途端に元に戻った。小泉改革を引き継いだ安倍政権は、国家公務員制度の改革を表看板にして取り組んだ。ところが、「冷蔵庫の開閉から箸の上げ下ろしまで批判され」、安倍政権は誹謗中傷の中で退陣する。「悪口のネタもとはほとんど霞が関だったよ」と、当時の関係者はいまでもお冠だ。

 特別会計、天下り法人の削減、公務員制度の改革の3点セットは、これまでの政権が取り組んできた一連の税金の無駄遣い撲滅、公務員制度改革の締めくくりに位置する。それだけに官の反発や抵抗の嵐が予想される。巧妙な骨抜きや落とし穴も各所に仕掛けられるに違いない。鳩山政権は覚悟を決め、しかも結束して事に当たらないと改革は一歩たりとも前進しないだろう。

 財政赤字850兆円の3分の2は、5000近くある天下りのための特殊法人がつくったといわれる。また会計検査院の調査でも税のさまざまな無駄遣いが指摘されているところだ。裁判所や検察庁ですら裏金問題が指摘されている。肩たたきの慣行を含めた公務員制度の改革は日本が抱えた喫緊の課題である。国民に奉仕する官であるならば、そろそろ官の側から改革の声が挙がってもおかしくない時期だ。

 政治とカネの問題でいえば、2008年度の調査では、自民党には企業献金と、個人献金をあわせると224億円、経団連からの政治献金が28億円で、合計すると252億円になる。これに対して、民主党は野党だったこともあるが、企業献金と個人献金はあわせて40億円、経団連からの献金は8000万円の計40億8000万円である。与党と野党のハンディキャップが大きすぎるのではないか。政権交代を軌道に乗せるためにも国会はこの格差を縮める議論をしてほしい。

 いま政治とカネの問題では、鳩山・小沢コンビがやり玉に挙げられているが、岡目八目でみても、各省庁間の調整なしに競ってハコものをつくり、5000もある特殊法人に天下りや渡りなど、税金の無駄遣いの「巨悪」に比べたらまだ「小悪」ではないか。昨年夏の政権交代は「鳩山・小沢」コンビのパワーで、「巨悪」を改革してほしいという期待が込められていたと思われる。

 じつは日米外交筋によると、米側の小沢に対する評価が変わってきたといわれる。アジア、中国、EUなど世界情勢などを見ると、いま日本の政治が安定していてもらわないと困る。ガバナビリティーのある政治家は小沢しかいないのではないか」と、言っている。こうした意向は、日本政府にも伝えられているはずと言われる。

 政治とカネの問題は、捜査中で何ともいえないが、戦前は、検察によって斎藤実内閣が帝人事件でつぶれたが、事件は全く架空のものだった。戦後は昭和電工事件で民主党の芦田均内閣が崩壊したが、これは検察とGHQが仕組んだ事件だったといわれる。芦田は無罪になったが政治生命は失った。検察の歴史を振り返りつつ、捜査の執拗な長引き方といい、鳩山・小沢両氏に集中していることといい、底流では国家公務員制度改革潰しなど、政治的意図や人脈が絡んでいるのではないかと疑念を抱かずにはいられない。


  2010年2月4日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。



検察捜査に「政治的意図」?


栗原 猛

 小沢一郎民主党幹事長の事情の聴取が終わったことで、事件捜査は新しい段階に入った。異業種間交流の仲間の老・壮・青が有楽町のガード下の焼鳥屋で遅い新年会をやった。話題は鳩山・小沢両氏の政治とカネの問題から検察の在り方などに広がった。(敬称略)

 ―まず小沢の会見の印象は。
 A 傲慢さは消えていて、どこかさばさばしていたから、幹事長を辞めると言い出すのかなと感じた。説明は不十分だがともかく国民の前で説明したことは好かったと思う。
 B これからは起訴を視野に入れて攻め上っていくのではないか。指揮権発動は覚悟の上だとしきりに流れている。
 D その指揮権発動だが、昭和電工事件でこの知恵を出したのは、検察幹部だったというではないか。そのときの検事総長は7年もやっている。論功行賞かな。指揮権発動をかんかんに怒っていたのだが。
 C 考えても見ろよ。予算論議はそっちのけで鳩山・小沢問題ばっかりだ。景気対策や雇用、無駄遣い退治とか何もない。知り合いの官僚は公務員改革など吹き飛びますねと喜んでいた。
 ― リークがこんなに話題になるのも珍しいね。
 A ほぼ同じ内容の供述が同じ日の2つの新聞に出ていたこともある。
 C 報道機関はどこもリークはないと否定している。ただ辞め検(卒業した検事)の弁護士に聞くと、夜回りなどで捜査の核心に触れられたりすると、書かないでもらう代わりに、本筋から離れた供述内容などを渡して、お帰りいただくということはあるという話だ。
 C 最高裁で無罪になった長銀事件を担当検事が、今回の事件の指揮に当たっているといわれる。無罪ということは、人権を著しく傷つけたことだから、われわれの職場では責任問題になるが、検察ではその点どうなっているのかな。
 D 組織で捜査するのだから、個人に責任はないということではないか。
 E 百歩譲っても結果責任はあるのではないか。米海軍は横須賀で駆逐艦がちょっと火災を出したら、すぐに艦長を更迭している。けじめが組織の弛緩を防ぐのではないか。
 D 民主党の政治主導路線に対して、絶対反対の霞が関守旧組が検察をバックアップしているという人がいる。
B 元官僚でもある堺屋太一さんが、官僚機構の問題点は、国民のことを考えないで、天下りなど組織の利益だけを追求しはじめていることだと言っていた。国や組織が滅びる兆候だな。トインビーも「歴史の研究」の中で似たことを言っていた記憶がある。
―それにしても長い捜査だな。昨年の3月から小沢1人にかかわっている。
 B 法事で親戚筋の検察OBに会ったら「『民主党は日本にとって危険な党だ』といっていたのには驚いた。
E 憲法の下で仕事をやっているのに、議会制民主主義とか有権者の選択をなんと考えているのかな。それこそ危険思想だね。(笑い)
 C そういえばある判事から「司法はガラパゴス島だ」と聞いたことがある。
 ―財政赤字を800兆円にも積み上げてしまった方が、よほど犯罪的だと思うけど。
 B 税の無駄遣いは合法性を装っているから、政治資金規正法違犯に負けないくらい悪質だよ。かんぽの宿や全国に13もあった大規模保養施設をすべて倒産させて、1兆円以上税金に穴を開けても、誰も責任をとっていないんだ。まずこの捜査をしてほしいな。
 D 税の無駄遣いは一発で駆除できるね。
 C 検察といえば、遠山の金さんとか正義の味方だとかいわれ、格好いい商売だなとあこがれたこともあった。
 E 日本人は潔癖すぎるから、いったん悪口が報道されると、尾ひれがついてしまいには大悪人にされてしまう。山本七平さんがいう空気ができてしまう。少数意見をいう勇気が大事だね。ケンブリッジ大学に留学した友人は、徹底討論で鍛えられといっている。
 A ところで最近、日本人の順法精神とか、司法の権威が薄れているという心配がある。例えば、贈収賄で逮捕された防衛省の元事務次官が、普天間問題で新聞に堂々と登場している。その道の権威かも知れないがちょっと変だよ。掲載する方もおかしい。
 ― 欧米では政界トップがかかわるような場合はどうしているのだろう。
 C 欧米では、国の安全とか国家の利害損得という高度の判断から、捜査を先に延ばしたりする。それを国民も認める土壌がある。これは民主主義の成熟度の問題だといっていた。
 B 台湾や韓国では政権交代があると、前大統領を逮捕するなど激しいのはお国柄の違いかな。この調子だと景気対策や行政がお留守になって、日本は沈没してしまうぞ。
 D 老婆心で言わせてもらうと、検察を激励することも必要なときがあるが、戦前には政党政治に介入し、でっち上げ事件で内閣を倒すなどの歴史があった。斎藤実内閣は架空の帝人事件で崩壊させられた。戦後では民主・社会・国民協同の三党連立の芦田均内閣が昭和電工事件で潰されたが、この事件は検察とGHQのG2(参謀第二部)が、中道政権を潰そうと仕組んだと言われる。斎藤をはじめ芦田らは無罪だったが、内閣は潰されたままだ。日本の検察は、アメリカやドイツの検察と違って、公判だけでなく捜査もやれば逮捕もできるので権限は強大だ。国民の潔癖性と結びついてブレーキが効かなくなりがちだということも知っておいた方がいい。


  2010年1月28日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。



いま日本の政治に大事なことは何か


栗原 猛

  「日本人は1つの方向に動き出すと勢いの赴くまま一気呵成に流れてしまうようなところがあるから、『ちょっと待てよ』と立ち止まることが大事だな」―。生前、後藤田正晴元副総理から「これは遺言だよ」と言って、何度か聞いたことがある。

後藤田氏は中学生時代に、第一次世界大戦後の好景気と直後の大恐慌を経験。当時、生活苦から娘さんを売りに出す農家も出た。これに同情した青年将校が右翼の青年たちと結びついて、政党政治家や財界人を次々に暗殺していく。暗殺が報じられるたびに世論や新聞は喝采したという。「ちょっと待てよ」と誰もがブレーキをかけられないまま日本は、世界大戦に突入し敗戦となる。最近では郵政解散、総選挙、そしていまの政治状況に一気呵成の空気が感じられる。

大疑獄事件のように連日、「検察VS小沢」と大きな活字が躍る。1面から社会面まで、鳩山献金と小沢一郎幹事長の政治資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる検察の強制捜査で埋め尽くされている。捜査当局も3月に迫った政治資金規正法違犯(虚偽記載)の時効が迫っており、さらにピッチを挙げるだろう。その経過はリークとは言わないまでも紙面をにぎわすだろう。自民党は小沢氏が説明責任をしない場合は、議員辞職勧告決議案や政治倫理審査会に呼ぶなどさらに攻勢を強める構えだ。

しかしここでちょっと立ち止まって考えてみたい。鳩山政権になって初めての国会は、国民の暮らし、雇用、景気が脇に押しやられそうなことだ。「政治とカネ」の解明も大事だが、今国民にとって切実なテーマは、庶民の給料減、雇用不安、家計の赤字など国民の暮らしを何とかしてくれということではないか。景気が二番底に突入する懸念も指摘される。大学生の就職内定率は73・1%で前年同期を7・4ポイントも下回った。内定者の3分の1は不安定な契約社員だという。「就職氷河期」の再来に支援策も待ったなしである。

予算を成立させ必要に応じて10年度第一次補正予算を組む必要もある。GDP、輸出、輸入、鉱工業生産、食糧自給率、資源エネルギー、少子高齢化など国際比較の数値では日本の地盤沈下が著しい。有権者が初めての政権交代で選んだ鳩山政権では、こうした国家の浮沈がかかった課題への取り組みも期待されている。迅速な対応が必要なときにいくら問題があるとはいえ「政治とカネ」の問題ばかりにエネルギーを使って、政治空白をつくっている余裕は、いまの日本にあるのかということである。

今回のような場合、欧米の民主主義国では、どのように対応しているのか。在京の特派員や海外事情に詳しい学者などに聞くと、「日本人は潔癖性が強いが、さまざまな点から高度な政治判断をして国家の安全を優先させる。これは議会制民主主義の成熟度の問題でもある」と言った。

政治とカネの問題は、自民党政権時代から延々と議論が続けられてきた。そして今回、民主党の鳩山・小沢コンビに集中した格好だ。政権交代を選んだ有権者の期待は、政治主導による税の無駄遣いなど官僚機構のさまざまな分野の見直しや改革にあったはずである。だが鳩山政権が、これから取り組もうとしている国家公務員制度や特別会計の改革に霞が関は反対のようだ。げすの勘ぐりかも知れないが、そうした雰囲気も捜査を後押ししているのではないかと思えるのだ。

「政治とカネ」は、煎じ詰めると議会制民主主義、政党政治の在り方に深くかかわってくる問題だ。その都度、捜査当局を煩わせることではなく、政権の交代を機に与野党が徹底議論して、企業献金や団体献金の廃止を打ち出すぐらいの再発防止のシステム作りが必要ではないか。「政治とカネ」の報道の嵐の中で、後藤田氏が指摘するようにともかく「ちょっと待てよ」と言って、立ち止まって深呼吸してみることが大事だと思われる。


  2009年1月19日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。



変化の先を論議しよう

元旦紙面の読み比べ

栗原 猛

  雀百までで、元旦早々、地元紙を含めて7紙の朝刊を買ってきて読み比べた。各紙は、変化の先をどう見るかを競っているが、緊急なテーマがないだけに、かえって各紙の色合いの違いが出ていたようだ。ことしは日米安保50年に当たる。

 社説は比べやすいが、朝日は日米安保50年を足元から考えよう、という提案だが特に新味はなかった。かつて後藤田正晴副総理(故人)が、日米安保は軍事条約だから、敵国を想定している。それは社会主義ソ連や中国だ。しかしソ連は体制が変わり中国とは平和条約ができたのだから、30年、50年かかるかもしれないが、日米安保は平和条約に変えないといけない」といっていたのを思い出した。

 読売は「日本漂流」に対する嘆き節の感じである。日経、東京は時代が抱える問題を幅広く網羅的に取り上げている感じだ。毎日は、文化を含めた「発信力」で未来に希望を築こう、と訴えた。1面の主筆の論文も合わせて、悲観論に陥らずお説教調でもなく前向きなところが気に入った。

 社会ダネでは、小沢民主党幹事長の資金処理を読売(1面トップ)と朝日、東京が取り上げた。鳩山首相の献金問題とともに、新年は小沢城攻めにかかると見受けられた。企画記事では毎日の「ガバナンス」が鳩山政権の人事構想が財務省と妥協して急進性失った真相を描いて興味深い。別刷りは、広告事情の厳しさをうかがわせたが、日経3部「奈良遷都1300年」は歴史的意味に光を当てている。

 午後は、都心に住む仲間のマンションに往年の仲間5、6人が集まった。途中の池袋駅や東京駅は普段と同じように人出は多かったが、お正月の晴れ着の女性は見かけず、松飾りも少ない。年々お正月風景が薄れていく感じだ。

政治談義に花が咲き、「自民党は鳩山、小沢問題など攻める材料はいくらでもあるといっている」「改革路線に反対の官僚も資料を提供しているらしい」「鳩山政権は3月がヤマかな」「民主党は参院選で勝てないのではないか」「いや、いまの自民党には逆転するような勢いはないよ」といった話になった。

 いくら献金問題の解明が大事だからといって、国会でそれだけをやっていて済むものでもなかろうと、考えていたら、横合いから一番の長老が、「ちょっと待った」と、大声を出した。「君らは政治を政権抗争としか見ていない。昨年夏、衆院選で逆転して政権交代があった意味を考えてみろよ。権力闘争は面白いだろうが、そんなことばかり根掘り葉掘り報じていたら、政治もメディアも有権者から見放されるぞ。霞が関も政策の話題から国民の目をそらせようと、いろいろ自民党にリークしているという話もある」といった。

 中国は元気がよさそうだが、アメリカやEU足元を固めるために懸命だ。日本も構造改革のひずみやら少子高齢化社会に向けたグラウンドデザインづくりが急がれる。完全失業率も高い。就職が決まった大学生の3分の1は契約社員だという。まだまだ無駄の多い官の改革も避けて通れない。中央から地方への動きも加速する必要がある。間もなく開幕する国会ではこうした分野についても白熱した論戦を期待したいものだ。


  2009年1月6日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。



今度は霞が関が自己改革案を出す番だ


栗原 猛

 政府の事業仕分けについて、メディアの評判は賛否両論さまざまだが、世論調査は、どこの社も高い評価だ。共同通信社の調査では「来年度以降も継続するべき」が83%もあった。月末まで刷新会議や財務省と各省の調整が進められるが、項目を変えてこっそり復活したり、特別会計に潜り込ませたりと、まだ抜け道がある。パフォーマンスに終わらせないためにさらに目を光らせていくことが大事だ。

 事業仕分けについては、「消費税導入のためのガス抜きではないか」という見方がある。案の定、政府の審議会の大学教授が、「あれだけ切り込んで1兆6000億円の削減したのだから、これ以上無駄はないはず。消費税増是のための理解が深まったのではないか」という趣旨の見解を示した。

 ノーベル賞受賞者やスポーツ界からは、削減を見直すべきだという意見が出た。科学技術やスポーツ振興の重要さも大事には違いがないが、科学者も国家の将来とか人類のためとか肩を怒らせないで、現下の厳しい財政事情をそれなりに受け止めて、研究を続けてほしいところだ。

 こうした論議を聞いていて、1つ腑に落ちないことがある。それは有権者が政権交代を選択した背景には、政治や行政が積み上げた無駄排除があったと思われる。ところが、霞が関側から、「それでは改革に協力しよう」という声がいっこうに聞かれないことである。それどころか、公務員制度改革をはじめ天下りや渡りの禁止、給与や年金などの官民格差是正などは一進一退である。

 公務員の共済年金とサラリーマンの厚生年金を比べると、350万人参加の共済年金には補助金は1兆7000億円投入されているが、3500万人加入の厚生年金には1兆8000億円しかない。官にはこのほか職域加算など手厚い。年金一元化は30年も前から取り組まれてきたが、いまだに日の目を見ない。官僚とサラリーマンの生涯賃金を比べると、大きな差になるのではないか。

 衆院調査局によると、天下り先の特殊法人や独立行政法人は約5000カ所あり、2万8000万人が天下りしているという。しかも補助金や貸付金が12兆円投入されている。事業仕分けでは、職員より役員の数が多いこと、80歳近くになってまだ理事長などで頑張っているケースなどが指摘された。それぞれの制度には、つくられた経緯などがあるかもしれないが、このご時世、見直しは不可避である。

 片山善博慶大教授(元鳥取県知事)が、県知事時代、3500億円の県予算のなかから、200億円の余剰金を出して注目された。その片山氏が、削減の2つの秘伝を披露している。1つは初めての人を財政課長のポストに据えたこと。2つ目は、予算を余した課長を積極的に評価して、意識の変革に取り組んだことだーという。

 イギリスの軍事史家パーキンソン氏が、官僚組織を研究して有名な2つの原則を発見した。1は、組織はいったんできると仕事がなくても人員だけは増える、2は、官僚は入った予算はすべて使い切ってしまうーの2点だ。官と民をさまざまな点で比較してみると、霞が関自身が自己改革の音頭をとっても遅くはないように思われる。


  2009年12月10日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。



「公開処刑」と「刈り込み」作業


栗原 猛

 来年度の予算要求の無駄を洗い直す行政刷新会議の仕分け作業をのぞいた。会場は国立印刷局市ヶ谷センター(東京・新宿区)の体育館。地下鉄市ヶ谷駅で降り、小高い坂を10分ぐらい歩く。かつて財務省所管だったが、2003年から独立行政法人になった。会場は薄いベニヤ板のようなもので4つに仕切られ、事業仕分け作業は3つの会場で行われている。

 それぞれの会場は長方形に机が置かれ、民主党議員や各省担当者、学識経験者など約20人が対面する格好で質疑が進められる。通路を隔てて折りたたみの椅子が100脚近く並べられ、一般の人が間近でやりとりを見られるようになっている。小雨交じりの日だったが、3会場とも満員で2階の観客席にも多くの人が詰めていた。

 メディアの中に「官僚を怒鳴ったり、居丈高になったり、まるでギロチンのない公開処刑だ」「学識経験者とはいえ、権限もない人が削るのはどんなものか」という趣旨の記事があったので、3会場を行ったり来たりした。ところがどうして、若手議員は丁々発止、議論しており、予想したよりも頑張っているなというのが率直な印象である。

 例えば、特殊法人の無駄をめぐる質疑では、「プロパーの職員が3分の2も占めているのだから、外から理事や顧問を連れてくる必要はないのではないか」「常勤顧問の報酬が高すぎる」「生え抜きで十分できる仕事だ」「役員らは年間1800万円の報酬を得ている。8億円の補助金は人件費と管理費が半分以上占める」―といった具合だ。

 一般論や制度の理念などを長々としゃべって、矛先をかわそうとする官僚には、時々、進行役が「具体的な数字で」「ポイントをはぐらかさないで」と、注意が飛ぶ。これを「公開処刑」というようでは、いささか霞が関の肩を持ちすぎているのではないか。

 本来、国民から負託を受けた国会議員や官僚が腰を据えてやるべき作業を、国民注視のなかで行うことについては、違和感がないわけではない。ただ、各省庁の権益や利権、人脈などが複雑怪奇に入り組んでいて、公開の場で荒療治でもしない限り、削れなくなっているのが実態なのだろう。ではなぜ優秀であるはずの議員と官僚が国の財政を崩壊寸前までにしてしまったのだろうか。

 その問題は別の機会に譲るとして、この仕分け作業を意地悪くみると、民主党にとっては存在感をアピールする絶好のチャンスだ。一方の財務省は、世論と政治主導が背景になった刈り込み作業という形になれば、各省庁や自民党、業界、天下り先のOBなどからの風当たりは少なくて済む。ひょっとしたら民主、財務両者の二人三脚、できレースではないかと思えた。

 そんなことを仲間と話しながら、市ヶ谷の坂を下りてきたら、旧知の農水省のOB局長に出会った。「消費税導入のためのパフォーマンスです。財務省にとって一番恐いのは、天文学的に膨れあがった財政赤字の責任を、歴代幹部が遡ってとらされることです。ここは、民主党を立てておいて損はない。切り込み劇がうまくいって、消費税導入の抵抗感が薄まれば、それこそ願ったりかなったりです。だから民主党を前面に立てて、自らは縁の下の力持ちに徹しているのですよ」という。立場が異なるとまったく違った見方ができるものなのだ。

 ただ見逃せないことは、この仕分け作業は、国民の前で刈り込んだものだが、これが結論ではない。この後、行政刷新会議での議論があり、さらに財務省と各省庁と折衝が控えている。その過程でいつの間にか削ったものが復活したり、別のところに滑り込んでいたり、特別会計の方で手当をしたりと、換骨奪胎する手はまだいくらでもある。そういうことがないように国民もメディアもまだまだウオッチが欠かせない。


  2009年11月19日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 国政調査権を使ってもウミは出すべき


栗原 猛

 黄葉真っ盛りの八ッ場ダムを駆け足で見てきた。都心からは関越で渋川・伊香保インターで下りて、吾妻川に沿って走る国道145号線で1時間30分ほどだ。地元の人が「群馬の耶馬渓」と呼んでいる国指定の名勝、吾妻渓谷は、群馬県長野原町と東吾妻町にまたがる地域で、遊歩道につながる駐車場はどこも満杯で、大勢の観光客が訪れていた。

 前原国土交通相の建設中止表明以来、見物客も急に増えたとかで、町役場も週に2回見学者のツアーを企画して好評だという。有名になった橋脚と橋桁は、テレビや新聞の写真をみると、巨大な建造物をここまでつくって中止するのはもったいないという気持ちにさせられるが、大自然の中で見ると、都心を走る高速道路の橋桁を少し高くした感じだ。

 ところどころで、山裾を削るトラクターや削岩機が砂煙を上げているが、湖面だけでも30キロにも及ぶという広さで、工事の関係者から、「工事の70%は済んでいる」と、説明を受けたが、ダム本体ができていないので実感が沸かない。工事のピッチを挙げているとのことだが、「断固建設」とか「工事反対」とかの看板などは目につかなかった。

 ただし、「70%」というのは、総事業費4600億円の7割を使ってしまったという意味で、工事の進渉率ではないということだ。どうやら「ここまでカネを投入したのだから、中止すると税金の無駄使いになるので、工事は続けるべきだ」ということを言いたかったらしい。残り3割の1380億円で、ダムができるのかどうか。ダムは当初、2110億円で完成予定だったが、04年には現在の4600億円に倍増した。国や県は借金をしているから、その利子を含めると、8800億円にもなるという。ダムは特殊法人などをつくって管理、運営するから人件費なども含めると、完成後の運営費も大な額になるはずだ。

 ダムには、洪水を防ぐ治水ダムと利水ダム、多目的ダムや発電用などがあり、八ツ場ダムは国交省が管轄の治水ダムだ。このほかに農水省や地方自治体、電力会社などがダムをもっており、全部合わせると日本には3000近くのダムがある。前原国交相は、計画中や建設中のものを含めて140のダムについて、継続の是非を判断すると言っているわけである。

 前原発言をきっかけにダムや公共事業についての関心が高まってきたのは、一見脈絡がないように見える八ツ場ダムとJAL、空港、道路づくりなど公共事業には、政官業に共通する無駄や癒着構造があるのではないか、という疑念があるからだ。

 藤井財務相は先の日本記者クラブの会見で、「自民党政権時代のウミのようなものがいろいろ出てきている。民主党は少なくとも4年は政権を運営するので、これからもっと出てくるのではないか」といった。行政刷新会議の『目安箱』にも、これまで表に出されなかった省庁のデータや資料が届けられているという。藤井氏は、「こうした霞が関の微妙な変化にも政権が交代したなという実感が沸いてくる」そうだ。

 八ツ場ダム撤退は、臨時国会では与野党対決の焦点になりそうだが、前原国交相と親しい自民党議員が「おれと前原の関係を知らないで、国交省の幹部が前原のことをあしざまに言って帰った。自民党と民主党の対決の図式をつくって、反対運動を盛り上げたいのではないか」といった。いまや国会は権威を示す意味からも、国政調査権を使って、既に使われた事業費や今後の支出の明細資料などの、提出を求めてしかるべき局面ではないか。

 現地を急いで見ただけの印象では、工事を継続すべきか中止すべきかの判断はしにくいが、甘い需要データをもとにつくられた空港で赤字が続出したり、4車線の道路が建設されている公共事業全体を見渡した判断でいうと、公共事業の予算は見直すか圧縮して、徐々に「生活第1」に組み替えていくことが、時代の要請であるように思われる。


  2009年10月28日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 安心、安全、公正、豊かさを目指す
             ―自民党の再生(下) 

 「民は国家なり」―不易と流行


栗原 猛

 人材とともに大事なのは保守の理念や政策の再構築である。保守本流の政治家といわれた大平正芳元首相は幹事長時代に夜回りしたら、「人間は『貧しさを憂えず。等しからざるを憂う』ものだから、豊かで貧富の差の少ない国造りをしないといけない」と、よくいっていた。中国の古典にある「民は国家なり」という言葉が生きていたように思われる。

 政治の目指すべきものは何時の時代も安心、安全、公正、豊かさではないか。そしてその目標に向かって熱っぽく未来を語ることである。いたずらに競争をあおる社会は先進国といえないだろう。市場システムを取り入れながらも、ヨーロッパ型の福祉、医療、雇用を重視した政党に蘇らせることが大事だ。貧富の差が激しい社会は、犯罪や非行が増え社会不安になる。自殺も13000件を超えている。グローバリズムは歴史の流れだとしても、ゆっくりブレーキをかけることも必要である。

 民主党が福祉や社会保障を増やした「大きな政府」に進むのなら、自民党は「中規模の政府」を目指しながら、福祉や社会保障の手厚さを工夫して打ち出してもよい。外交で民主党が「日米対等」ならば、自民党は「同盟強化」やアジアやEUとの関係を打ち出す方途もある。万事、単純化するのは危険だが、2大政党時代は、有権者が選択しやすいように、変わるべきものと変わらざるものとの仕分けー不易流行も大事だ。

 テレビ局の関係者によると、政局番組には若手議員の出演希望が多いという。顔や名前を売るにはテレビが手っ取り早いからだろう。「日本列島改造論」をひっさげて改革を進めた田中角栄首相は、当選したばかりの若い議員に、「辻舌鋒3万回、戸別訪問5万回を欠かすな」と、よく大声を張り上げていた。有権者とコミュニケーションをすることの大事さを言ったものではないか。

 かつては地方自治や社会福祉、農村、日中国交正常化、差別問題など、生涯1つのテーマに取り組んだ「一業一筋」の政治家がいたものである。こうした多彩な政治家の幅と奥行きの広さが、自民党を支えてきたように思われる。人材の発掘や育成は、先輩たちの労苦の跡をたどり、再生へのエネルギーをかき立てることが必要だ。

 1995年5月、18年ぶりに政権を奪還したブレア英政権は、野党時代に「影の内閣」で、路線や政策を磨いて時機の到来をうかがった。幾星霜、自民党を取り巻く環境も変わり、小選挙区制が軌道に乗り、2大政党制も定着しかけている。

 先の総選挙の小選挙区の得票を見ると、自民党は2700万票、民主党は3300万票で、その差は約600万票である。300万票が民主党を離れると互角になる。そんなに急がなくても民主党は遠くに行ってしまわないだろうから、自民党も「影の内閣」をつくって政策を鍛錬し直すときである。繰り返しになるが、日本にも議会制民主主義を定着させるには、切磋琢磨する「2大政党」の存在が急務だからである。


  2009年10月19日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 人材の養成・発掘―自民党の再生(中) 

栗原 猛

自らを鍛え戒めた

 自民再生のポイントは人材の養成・発掘である。小選挙区制の選挙は、党同士の一騎打ちの選挙になる。先の総選挙もそうだったが、トップの力量や人柄、日ごろの言動、イメージなどが党の命運を左右しがちだ。したがってトップを含めて人材の養成はことのほか重要になった。

 読書家で知られた前尾繁三郎・衆院議長は2万冊の蔵書があった。漢籍にも詳しく、著書も多い。「政の心」の「保守党論」の中では、「政治的保守主義は革命は否定するが、改革や進歩は否定するものでなく、逆に改革や進歩を有効に遂行するためのもの」だ、と指摘している。「自民党」が政権奪還を目指していくには、時代の変化に応じて自らを改革・進歩していくしかない。

 所得倍増論を打ち出し、経済成長路線を軌道に乗せた池田勇人首相は、「政治家は3人の心友を持て」と言った。「1人は優れたジャーナリスト、2人目は立派な宗教家、3人目は名医」である。「優れたジャーナリスト」がなぜ大事なのかというと、首相になると耳障りのいい話しか聞こえてこなくなり、裸の王様になって、客観的な判断ができなくなる。だから直言してくれる優れたジャーナリストが大事だというのである。

 筆者も首相官邸を取材しているとき、竹下登首相が「総理になった途端に情報が丸くなった。いい情報しか入ってこない」と、嘆くのを聞いたことがある。野党やマスコミに批判されても、「権力を動かしているのだから、批判されるのはやむを得ない。謙虚に聞かないといけないんだ」と戒めていた。

 後藤田正晴・副総理は、60代のころは乞われると色紙に「天行健(天は公平に見ている)。君子は自彊(自らを鍛える)してやまず」と書いている。70代には「一日生涯」(一日一日を大切に)、80代になると「粛心」と書いた。それぞれの年代ごとに自分に課題を科していたのではないか。こうした心構えや自らを律する気持ちは、何時の時代にも大切に引き継がれていかなければならないだろう。

 自民党議員は、引退すると子や女婿に引き継がせる世襲が増えた。世襲議員にも優れた人は少なくない。地盤、看板、カバンに恵まれていて、子供の時から都心で育ち、選挙区回りは選挙の時だけという豪の者もいる。世襲は選挙区が固定化されるので、霞が関や民間企業の優秀な人材から敬遠されてしまう。候補者選びは公募とし、予備選は公開にするなど人材集めをオープンにする改革が必要である。

 小選挙区制になって政治家のスケールが小さくなったという指摘があり、この点を欧米の特派員に聞いたら「イギリスも小選挙区制だが、チャーチルやサッチャー首相など強いリーダーを生んでいる。小選挙区制は関係ない」といった。

 イギリスでは、親の選挙区から出馬は禁止だが、それ以外ならどこからでも出られる。また同じ選挙区からは3期までだが、選挙区さえ代わればOKだから、そのたびに新しいエネルギーがかき立てられる。チャーチルは選挙区を4回代わったーと言う。世襲の弊害に活を入れるには、こうした改革も欠かせない。


  2009年10月5日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 原点に立ち返る−自民党の再生(上) 

栗原 猛

立党精神に立ち戻り、先輩たちから学べ

 自民党は谷垣禎一新総裁のもとで、再生のスタートを切った。自民党に対しては、政治学者などから、「議会政治が機能するには野党の存在が大事になる」と、いう声が聞かれる。日本の民主主義の行方を左右する「政権交代」が軌道に乗るかどうかは、巨大与党をチェックする野党・自民党の再生が大事である。

 自民党は細川政権の一時期をのぞいて、一度も野党の経験がない。当時、予算編成期になっても、党本部は人の出入りはまばらで閑散としていた。「予算編成を2度やられたら干上がってしまう」と、危機感でいっぱいだった。その時は苦し紛れに社会党の村山富市委員長を首相に担ぎ出して政権を奪還した。しかし、今回は2度目、16年ぶりの野党暮らしとなる。

 自民党の懸念は、野党暮らしに耐え切れなくなって、民主党へ鞍替えする議員が出るのでないかという点である。ただ先の選挙で、民主党はほとんどの選挙区に現職議員がおり、自民党議員が他党に移ることは難しい。小沢民主党幹事長の「純化路線」による政界再編の再燃を危惧する向きもあるが、与野党の勢力が拮抗しているのならばともかく、圧倒的な与党になったいまはこれも考えにくい。

 もう1点は、政党助成金制度である。年間319億円が議員数と得票数に応じて各党に配られる。(共産党は受け取りを拒否して、各党が分けている)自民党は議員が減ったので、これまでの180億円から100億円程度になる。企業献金もこれまで通りというわけにはいかないだろうが、兵糧が底をつく心配はない。小選挙区制も政党助成金制度も政党がばらけるのを防ぐ「接着剤」の役割を果たすのではないか。したがって、党再生に専心取り組むことができる。

 自民党の長期政権の秘密は、国内の対立を巧みに乗り切り、日米基軸を大事にしながら、経済成長を軌道に乗せてきたことにある。ところが1991年のソ連の解体とグローバリズムの拡大、バブルの崩壊、長期不況と続き、小泉改革に期待されたが多くの分野で格差を生んだ。また、長期政権を支えてきた「政と官」の二人三脚も「税の無駄使いが多い」と弊害が指摘されている。

 「困った時は初心に帰れ」といわれる。歴史や伝統には、危機を切り開く知恵が詰まっているということを言ったものだろう。谷垣氏は28日、総裁に選出され、「自民党の結党宣言に立ち返る。国民の意見をもっと吸い上げたい」と語った。政党は理念、組織、運動、政策から成り立っている。結党当時とは時代も社会状況も違うが、党の歴史を振り返り、立党の精神に脈打っている先輩たちから学ぶべきことは少なくないと思われる。


  2009年09月30日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 伏魔殿の「特別会計」と一般会計の統合 

栗原 猛

 鳩山改革政権は一斉に改革路線をスタートさせた。メディアの世論調査は、まずは好調な出だしだが、正直なところまだ期待半分、懸念半分といったところではないか。

 共同通信の最新の世論調査によると、新政権に取り組んでほしい政策課題のトップは、「税金の無駄遣い一掃など行財政改革」、次いで「年金・社会保障」、「景気・雇用対策」の順だ。「税金の無駄遣い一掃」といえば、特別会計こそ無駄遣いの元凶、伏魔殿といわれながら、改革のメスが入っていない分野である。

 国の予算は、一般会計予算と特別会計予算がある。一般会計の財源は税金で、国のインフラ整備などの財政活動に使われる。これに対して特別会計は、一般会計とは別枠で設けられた予算である。財源は郵貯、年金、雇用保険、一般会計などからの繰入金、ガソリン税、登記などの手数料、空港使用料からなる。850兆円の財政赤字の大半は、この特別会計がつくっているといわれる。

 特別会計は各省庁合わせて31あり、09年度は一般会計88兆5千億円の4倍に当たる354兆9千億円だ。一般会計との重複分があり、それを差し引いても242兆円と巨額である。しかも一般会計が赤字なら、特別会計は火の車だといわれて久しい。

 不思議なことは、特別会計がこれほど巨額な赤字を抱えているのに、実態がほとんどオープンになっていないことである。所管の各省庁の縄張りになっていて、財務省の査定さえ形式的だという。また一般会計は、国会の予算委員会で2カ月近く審議されるが、特別会計は審議時間がないことを理由に、ほとんど議論されていない。

 この特別会計は、各省庁が一般会計の借金のツケを回し、一般会計では赤字になりそうなものを特別会計に仕立て、また一般会計の「隠れ借金」に使うケースなどがあることだ。しかも、多重帳簿だから複雑に入り組んでいて不透明だ。「国民が関心を持たないように、わざと分かりにくくしている」とさえいわれる。

 例えば、公的年金では、厚生年金、国民年金の各特別会計は、厚労省の所管で保険料などを財源に全国13カ所に大規模保養施設をつくったが、総て倒産、1兆円以上の巨額赤字を出した。それでも責任を問われた形跡はない。また、道路整備特別会計は国土交通省が仕切り、自民党の道路族がその資金を背景に、道路行政に大きな影響力を持ってきた。

 住宅金融公庫は77兆円、道路公団も40兆円の赤字を抱え、組織替えして名称も変えてしまった。少し前では国鉄、食糧管理、国民年金の各特別会計が大赤字を出したことは記憶に新しい。一般会計の赤字のツケを特別会計に回し、だれも責任も問われないのだったら、いつまでたっても、財政赤字は減らないはずである。

 シーリングもないから、チェックも甘い。問題なのは、特別会計予算がつぎ込まれている特殊法人や独立行政法人は、天下りや渡り先でもあるという点である。80歳を過ぎた人までトップに居座っている。いくら高齢化社会で優秀な人材だからといってもやりすぎではないか。

 特別会計は、所管官庁の縦割りの中で管理・運営されているので、各省庁の既得権になっている。しかも競って天下りや渡り先になる特殊法人、独立行政法人を増やし、一方、政官二人三脚になって族議員の既得権益の温床も広がる。特別会計こそ『官僚政治』『官僚主導』を支える金脈といわれるゆえんである。

 しかもずさんな運営、管理で積み上げた膨大な財政赤字を、「それでは消費税増税で穴埋めしてください」では、国民はたまったものではない。まず、仕組みや実態を明らかにして、改革をオープンな場で議論すること、大赤字をつくった責任を問う場面も必要だろう。国会での審議時間がないのならば、委員会を新設すればよい。そして、究極の特別会計の改革は一般会計と統合してチェックを厳しくすることに尽きる。「政官利権」の伏魔殿、特別会計の大改革こそ「税金の無駄遣い一掃」の核心部分である。


  2009年09月24日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 議会政治には存在感のある野党が重要だ 

栗原 猛

 「自民党の最大の弱点は野党の経験がないこと。ばらけないで結束していってほしい」―。こういった声が政治学者や議会制度の研究者から聞かれる。議会政治が機能を発揮するには、与党に対してこれを抑制できる野党の存在である。巨大な民主党政権が誕生したことで、日本の政治が民主一色になってしまうことは、本来の議会政治の在り方からすると気掛かりである。

 どのような立派な制度にも長所と短所があるが、小選挙区制の大きな特徴は、今回の選挙で見られるように政権交代が起きやすいことである。政権の交代によって政治に活力が蘇えり、人脈も入れ代わるから政、官、財の癒着も減るだろう。既得権益にもチェックが入り、税金の無駄遣いなどもオープンになる。政権交代が時々、必要だといわれるゆえんである。 

 ただし小選挙区制には、もう一つ特徴がある。それは首相に権力が集中しやすくなることだ。小選挙区制のもとに議会制度を発展させたイギリス政治を見ると、サッチャー首相は「鉄の女」と呼ばれるほど強権を発動し、労働党のブレア首相は、イラクに英軍を派遣する際、強烈な指導力を印象づけた。政党が違ってもトップが強い力を発揮できたのは、力量もあるだろうが、小選挙区制で選ばれた「宰相」だったからといわれる。

 なぜ小選挙区制ではトップに権力が集中するのだろうか。それは政党助成金や候補者の公認などすべて党中央の専権事項になるから、自然にトップに権限が集中するのである。どの党も党運営が組織的になると、党の盛衰は党首の力量や人柄やパフォーマンスなどに左右されるようになる。その点アメリカでは、政党が一枚岩にならないように、議会で法案を採決する際の党議拘束は日本より穏やかだ。

 首相に権限が集中すると、責任も総てトップに集まる。例えば、ブレア首相は意図的に誤った情報によってイラク派遣が決定された事実が明らかになると、国民から批判を浴びた。結局、経緯を説明して謝罪、辞任する。責任の所在がはっきりするので、国民への説明責任もこれまでより重視されるようになるのではないか。

 一方、注意しなければいけないことは、首相の権力が強大になることのマイナス面である。例えば、国民の喝采を浴びて誕生した英労働党政権も長期になると、閣僚の贈収賄事件が摘発されるなど、政治腐敗が指摘されている。「権力は腐敗する」の例え通り、民主党政権でも同じようなことが起きないとも限らない。

 そこで議会政治にとって、いま大事なことは、巨大な与党を監視してチェックする強力な野党の存在である。立場はがらりと変わった自民党に期待されることは、与党をチェックしけん制するパワフルな政党に再生することではないか。


  2009年09月14日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 霞が関の反撃がはじまった

栗原 猛

 「霞が関が反撃をはじめたな。民主党も腰を低くして世論のバックアップのあるうちに改革を進めないと足元をさらわれるぞ」―。勇退したばかりの官僚出身の自民党の長老議員がいっている。長老氏によると、「霞は関はやろうと思えば、政権をひっくり返すことぐらい朝飯前だ」という。

 先だって石原信雄・元官房副長官の記者会見が、日本記者クラブであった。タイミングがよかったためか150人以上の現役OB記者が詰めかけた。ただし異例に感じたのは、冒頭から国家戦略局、政治家100人の政治任用をはじめ、行政刷新会議、事務次官会議の廃止など民主党のマニフェストに異論を述べ、優秀な官僚と意見調整しながら進めるべきだ、と注文をつけたことである。

 石原氏は、歴代政権の官房副長官を長く勤めた。官房副長官は、首相官邸で週2回行われる閣議の前日に開かれる事務次官会議の主宰者だから、官僚機構のトップの立場にあった。今も総務省の外郭団体である地方自治研究機構の会長だ。したがって霞が関の意をたいした発言といっていいだろう。

 古手の記者から「政治家は官僚機構に手を突っ込むなという話だが、選挙結果は、年金、天下りなど『政と官』の税金のずさんな使い方に、有権者がレッドカードを突きつけたのではないか。官の方からもっと改革案を示したらどうか」という質問が飛んだ。明確な答えはなかったが、霞が関が選挙結果に神経過敏になっている感じだった。

 霞が関の「反撃」については、例えば各省で事務次官人事を急ぎ、天下り先を確保する。補正予算の執行を急いでいるのも自民党の予算関係議員は、「予算に政治家はクビを突っ込ませないぞという意思表示ではないか。精査される前に使い切ってしまおうということだ」とみる。出先機関や大学などにも「だいたいでいいから早く見積もりや研究計画を出せ」と、矢のような催促があったことからもうかがえる。

 報道されたケースでは、国土交通省が高速道路無料化の経済効果の試算をひた隠しにしていたり、役所が都合の悪い資料やデータをシュレッダーかけたり、焼却処分にしているケースが指摘された。外務省が地下で公文書類をトイレットペーパーにしているというのまであった。国民共有の財産である貴重な歴史的資料を焼却処分にするということは、まさに犯罪行為ではないか。

 霞が関はこうした手荒な抵抗もある。自民党三役を務めた議員が、国会である省の法案に反対したら、翌日朝早く業界誌の記者が訪ねて来て「先生は最近、(政治資金報告書の)修正申告をしましたね」と言ったという。この議員はとっさに「どこから聞いてきたのだ。それは国家公務員の守秘義務違反だぞ」と、にらみつけたという。「官僚は知りがたい情報をもっているから、都合次第で善用も悪用もできる。この幹部議員は政治がしっかりしないといけない」としみじみと語ったものだ。

 ただ国家公務員法の改革をめぐって、甘利行政改革担当相と激しく対立していた谷人事院総裁が最近、辞任表明したのは、民主党も「内閣の一元管理による幹部職制度の実施」をうたっていることから、「300議席」の効果とみてよいのではないか。

 後藤田正晴・元副総理は、「議会制民主主義では、政治家の役割は、法律や政策をつくり、官僚の役割はそれを誠実に履行することだ」とよく言っていた。政治家も政治主導するならその結果責任についてもキチッとさせること、一方官の側は、指摘されている税金の無駄使い方など官の改革に、もっと自浄機能を発揮してよいのではないか。先の総選挙での有権者の判断は、その一点にあると思われる。


  2009年09月11日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 どこか「フランス革命」に似ている

栗原 猛


 自民大敗について、欧米への留学経験がある自民党の長老議員は、「民意の反乱であり、その民意の圧勝だ。万事、お上意識に慣れてきた有権者が、自らの1票で政権を交代できると実感した意味はとてつもなく大きい」と語った。中堅のリベラル派議員は「年金も雇用も天下りや無駄遣いも、もとをただせば税金の使い方の問題だ。ギロチンのないフランス革命に似ている」と言う。

 歴史をちょっと振り返ってみると、民主党がモデルにしている英議会(3権分立)は、国王の過酷な課税に承諾するかをチェックするために生まれた。アメリカのイギリスからの独立戦争のきっかけも、英政府の過酷な税の取り立てが原因だ。その結果、税金の徴収や無駄遣いをチェックする議会が誕生した。

 フランス革命も財政逼迫、国王の厳しい徴税が端緒である。このフランス革命に影響を与えたのが、アメリカの独立宣言と米憲法の3権の分立の発想である。「税金は政治そのものだ」と、言われるゆえんはここにある。

 欧米の報道機関は、「日本もやっと欧米の議会制民主主義のスタートライン立った」という趣旨の指摘が目立つ。フランスのルモンドは「国会の革命だ」とコメントした。今回の選挙の主役は、年金にしても雇用、医療にしても税金の使い方にあったという点で、欧米の議会制民主主義がたどった歴史に酷似している点を指摘したのではないか。

 その欧米の議会では時々、政権が交代する。政権が交代すれば、まず政治に清新さや新しいエネルギーが蘇る。また人脈が入れ替われば、利権構造や既得権益を断ち切れるはずだ。日本の政治も政権交代が常態化するようになれば、政権党は交代した際、新政権から政策ミスや無駄使いなどを指摘されないように、ふだんから税の使い方や汚職がないように気をつける。天下りや税金の無駄遣いなども減らすことができるだろう。

 英米では7,8年に1回ぐらいの割合で政権交代がある。マニフェストを掲げて選挙をして勝てば、有権者の支持を背景に、前政権の政策や行政のミスや暗部を大胆にチェックするので政治や行政から腐敗が減ったという。また政策の変更も曖昧にずるずる変えるのではなく、国民にしっかり説明することが不可欠になる。

 ただし、どのような制度にも長所と短所の両面がある。小選挙区制の特徴をおさらいしてみると、選挙がマニフェスト(政権公約)中心になること、党首のイメージが選挙を左右するようになるので、党首や党中央に権限が集中することだ。党首はパフォーマンスを演じがちになる。例えば、ブレア前英政権では、党首の権力が強くなりすぎて独断専行の弊害が指摘された。一方で政権交代が起きやすい制度であることも証明された。

 「権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対に腐敗する」という千古の名言が指摘するように、巨大政党になった民主党とてよほど注意しないといけないのではないか。その場合、与党のブレーキ役となる野党の存在が重要になってくる。冷静かつ沈着に政治をチェックして警鐘を鳴らすメディアの役割もますます大事になってくると思われる。

  2009年09月1日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 財政赤字はなぜ900兆円にも膨らんだのか 

栗原 猛


 最近、新聞の声欄を読むようにしている。政治や行政に対する指摘に目を開かせてくれるものがあるからだ。なかには論説などよりもよほど具体的で説得力のあるものがある。それは生活に根ざし地に着いた発想があるからだろう。

 先だってはこういうのがあった。年金、医療、福祉、雇用など政策課題になると必ず、財源をはっきりさせない政策は政策ではないといった論理が展開される。しかし、財源論に集約されすぎているのではないか。政策論議は税の配分であり、限られた予算の枠内で税金の無駄遣いをやめて、国民生活に関わるところに予算をつけることだ。国民の関心事は税の使い方、配分にあるーという趣旨のものだった。

 さて、財源論の前に立ちはだかる難問の1つに、816兆円も及ぶ財政赤字がある。財政赤字については常々疑問があった。それは優秀であるはずの政治家や霞が関の官僚が、毎年、半年近くもかかって予算編成をしているのに、どうして800兆円も借金をつくってしまったのかということである。

 1兆円と言われてもどのくらいの分量なのかピントこないが、1万円札を積み上げると、8000メートル級のエベレストの山の高さになるという。したがって800兆円となると、この8000メートルの山が800本も林立することになる。

 小泉首相の改革がはじまった2001年の財政赤字は650兆円といわれた。その間、医療費が2割から3割負担増、国民年金0・9%アップ、定率減税の廃止、生保の予定利率引き下げ、配偶者特別控除、扶養控除の廃止、介護保険料の引き上げ、介護施設利用の自己負担増など、「痛み」を我慢してきた。ところが、財政赤字は減るどころか、150兆円以上も増えているのである。

 800兆円の財政赤字のうち200兆円は、地方自治体がつくった財政赤字だといわれる。ただ、地方自治の実態は3割自治とか2割自治だ。中央官庁からはしの上げ下ろしまで指示されていることを考えると、800兆円の大半は中央官庁がつくった赤字といえるのではないか。

 民主党は政権発足と同時に、政治家主導の「行政刷新会議」を設けて、予算や制度の精査を行うという。したがって、税金の無駄遣いや予算の不正な使われ方、天下りや渡りなどの実態が解明されていくはずである。

 その際、なぜ財政赤字が800兆円という天文学的な数字に膨れあがったのかの解明である。どの役所のどの分野が財政赤字を抱えているのか、予算編成の仕組みのどこにどのような問題があり、これからはどのように改めるのか、しっかりした説明が欲しいところである。国の資産は600兆円もある心配はいらないという財務省関係者もいるが、百歩譲ってよかれと思ってやった結果、財政赤字が膨らんでしまったのだとしても、800兆円といえば半端な金額ではない。財政の規律を立て直す意味からも、結果責任をはっきりさせることも不可欠である。


  2009年08月27日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 「改革政権」は最初が肝心だ 

栗原 猛


 ブレア政権が1997年に、18年ぶりに政権を奪還した直後の動きは鮮やかだった。まず、新政権の経済政策の骨格になる補正予算は、3カ月もたたないうちに成立させ、経済改革の大半は1年以内にすべて発表し、実施に移している。スピード対応で政権担当能力を内外に印象づけたのである。そして10年間政権を維持する目標を立てて、次々に政策課題をアピールしていく。

 1994年、社会党委員長で自民党と連立政権を組み、首相になった村山富市氏は、当時をこう述懐する。本会議場で首相に選ばれると、あっという間に秘書官やSPに取り囲まれ、首相官邸の執務室に連れてこられた。党の幹部と相談する暇などなかった」という。

 その首相官邸には財務、外務、経産、自治、警察庁から局長直前の4人の秘書官と50人近くの官僚が詰め、出身官庁とは水も漏らさぬ連絡網をつくっている。政治家といえば首相、官房長官、官房副長官らわずか4人。右を向いても左を向いても官僚ばかり。党の意見を聞きたくても簡単に政治家に会えない。日程も秘書官などがつくるから、首相は46時中官僚のお膳立ての上に乗っていることになる。村山氏は「なるほど、これが官僚政治というものか。よほどしっかりしないといかん」と、腹をくくったという。

 民主党政権にとって肝心要なことは、スタート時点でのブレア政権並みの覚悟ではないか。「脱官僚政治」の柱として、@ 局長以上の人事は新政権の基本方針に協力することを約束してもらう。同意しない幹部は異動するA 官房長官や首相補佐官、副大臣、政務官などの「政治任用」を、現在の約60人を100人程度に拡充B 首相直属の「行政刷新会議」、「国家戦略局」を新設して、首相周辺を「政治任用者」で固め、官僚の協力も得ながら予算を決めていくーという手法だ。

 象徴的なのは予算編成で、従来型ボトムアップ方式ではなく、トップダウン方式を採用する。まず官邸の「政治任用者」たちが総額を決め、各省庁はその枠内で項目を決めていく。ボトムアップ方式とは、各省庁が下から合意を積み上げていく政策決定方式のことで、相互に調整しながら政策をつくっていく場合は良好に機能するが、迅速な対応が必要なときには後手後手になるといわれる。そのうえ政策の枠組みを変えようとする場合は、霞が関が猛反発する。

 したがって、政権交代するような大きな政治転換期こそ改革のチャンスだといわれる。大事なことはトップダウンで決めるという方式は、議会制民主主義の本来の趣旨でもあり、欧米では多少の違いはあれ、この原則は貫かれている。日本の政治は万事、官僚に任せすぎたところがある。その結果、政治を飛び越して官僚機構の許認可権など裁量権が膨大なものになってしまった。「箸の上げ下ろしまで役所のお伺いを立てなければならない」と言われるゆえんだ。「政と官」の在り方に詳しかった後藤田正晴・元副総理(故人)は、「政策や法案をつくるのは政治家の役割、それを誠実に実行するのが官僚の役割だ。ごっちゃになっていないか」とよく言っていたが、「政と官」の役割分担が大事なことを言っていたのではないか。

 法案や政策などは閣議決定の前に、全省庁の事務次官会議で、大枠が決められている。したがって、最高決定機関である閣議は、「サインをするだけで議論はあまりない」といわれる。民主党案は、事務次官会議に「政治任用者」の政務官を出席させ、決定も参考意見にとどめるーなど、政治主導を前面に押し出している。霞が関は反対の雲行きだが、政治家が最終判断をすると決めた場合は、結果責任も政治家が取るという自らを厳しく律する覚悟も大事であろう。

 日本の今の政治経済の行き詰まりは、自民党と霞が関の二人三脚が長く続いた結果、既得権益が膨大になり、日本の財政がにっちもさっちもいかなくなってしまったことにあると言われる。しかし歴代政権は「官僚主導を改め政治主導にする」といいながら、いつの間にか官僚主導に戻っている。

 その最大の原因は、政治家は選挙区がなによりも大事で、「金帰火来」、地味な政策や立法作業は、官僚任せにしたので、官僚は次第に力をつけていったと言われる。「政治主導」が実現するかは、政策を企画、立案し、法案をつくることに一生懸命な政治家が増えるかどうかにかかっているのではないか。各党は政策スタッフを増やし、民間のシンクタンクなどが政策提言を活発化させる環境を整えることも大事だ。政治家主導の政治が定着するかは、政治の側が自覚と覚悟を持続させられるかにかかっていると思われる。またメディア側の不断のチェックも欠かせないだろう。


  2009年08月20日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 「改革政権」のグラウンドデザインは何か 

栗原 猛


 先のオバマ大統領と中国首脳との会談を機会に、米中2局構造(G2)が幕開けしたと、欧州の新聞は報じている。オバマ氏は、「米中両国は手を携えて21世紀を造って行くことになろう」と見解を示し、「ワシントンと北京の協力ほど重要な相互関係は世界に2つとない」とまで言い切った。EUも年内に「EU大統領」を新設し、存在感を示すだろう。

 世界の政治、経済地図は大きく様変わりしようとしている。

 そこで出そろった各党のマニフェスト(政権公約)をみると、雇用、医療、年金、福祉、介護、子育てなど、国民の生活の身の回りの問題に目を向けている。遅きに逸した感は否めないが、「政治、行政の要諦は国民生活にあり」と気づいたことは、それなりの進歩だろう。

 ただし、いずれも重要なテーマに違いはないが、どこか心に落ちるものがない。それはいずれも個々のシステムの改革や手直しであって、全体を通じて流れる基本的な考え方、21世紀の日本の姿、ビジョンが示されていない。大きな方向が示されていれば、国民はそのビジョンをもとにいろいろ議論の輪を広げていくことができるはずである。

 将来の目標を描くには、まず20世紀はどのような時代であったか、日本はそれにどう対応したのか。歴史の認識とその反省に立って、内外情勢を展望することが大事になる。その上で情報化社会、21世紀も国際協調、交流の活発化―などに対応できる国の在り方を考えていくべきではないか。

 日本のグラウンドデザインは、武力の不行使、平和と国民生活の向上と安定、国際貢献などを軸に描かれるべきだろう。国際政治の厳しい局面を直視せよという議論があるが、政治は理想を高く掲げて、それに向かって努力することが大事である。

 思いつくままにテーマを挙げてみると、第1は、豊かな社会づくりである。経済力はまだ強大だが、国の財政は優秀であるべき政治家と官僚が破たんさせてしてしまった。雇用も年金も社会保障も医療も不安がいっぱいだ。失業率も高い。豊かさについては議論があるだろうが、老後の不安を少しでも取り除く努力が政治には求められると思う。

 2つ目は「公正、公平」な社会を目指すべきだ。米国では1%に人が米国の富の90%を握っていると言われるが、これほど格差の大きい社会は好ましくない。世界の栄養不良人工は8億2000万人、食糧難の子ども1億8000万人もいる。こうした点もにらんで国の針路を示すべきではないか。

 3つ目は「自主、共生」である。イラク戦争で見せた小泉首相のように何が何でも米国の後に付いていくという姿勢は本来の日米関係にとって好ましいことではない。ブッシュ政権の大国主義に対しては苦言を呈するぐらいの態度が必要だった。「G2」の動きもあるが、中国、韓国、東南アジアとも協調して何でも話し合える枠組みづくりを進め、共生の道を模索する姿勢も示してほしいところだ。


  2009年08月5日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 米国の政権交代と政治任用 

栗原 猛


 静岡知事選、都議選と自民党の連敗が続き、このところ同党を支えてきた霞が関に動揺が目立つ。知らぬ存ぜぬを通してきた密約文書の存在が、幹部の口から明らかにされ、貴重な公文書やメモ類がトイレットペーパーに化けていたことも報じられた。混乱する気持ちも分からなくはないが、新政権から突っ込まれそうな文書類を焼却し、シュレッダーに掛けるというのはどう考えてもおかしい。常軌を逸している。

 政権が代わろうと、なかろうと公文書類は国家の歴史や政策を知る大事な資料である。欧米諸国は公文書類を大事に考え、政府高官の電話の会話さえ公文書にして保管している。情報公開法や、公文書管理法があるのに、勝手に処分するということは、知られたら困る資料があるからではないか。それを焼却するのは国民にとって悪質な犯罪行為である。

 自民党のある長老議員は、終戦直前、日本の敗戦が近くなり、政府や軍部が米軍の手に渡ったら困るような機密書類などを焼却し、煙が何週間も続いたことを思い出すと言った。

 その政権交代だが、大統領制のアメリカでは、各省庁の特別補佐官など多い時には8千人も交代する。オバマ政権では、民主党を応援した企業トップや大学教授や、シンクタンクの研究者などが約3千人が政治任用された。例えば、歴代の駐日米大使の多くは、大統領が任命する政治任用者たちで、職業外交官はまれだ。

 英米の政権交代を長さで比べると、戦後、米国では民主党40年(大統領7人)、共和党36年(同7人)。英国では保守党は35年(首相7人)、労働党は27年(同6人)だから、ほぼ互角だ。ただ英国では保守、労働党の他に自由民主党が約40議席、地域に依拠した政党もわずかだが議席を持っており、共和、民主両党に2分された米国とは異なる。

 政権交代でもっとも期待されることは、オバマ政権の誕生が世界中から注目されたように、政策や人脈、政治理念などが代わるから、時代の変化と将来への希望やエネルギーを生むところにあるといわれる。

 また現政権は、つぎの政権から政策のミスやスキャンダルなどをつつかれないようにと、日ごろから綱紀粛正に心掛ける。つまり政策のミスや汚職のないよう気をつけるようになり、政治や行政の透明度も増すといわれる。

 ブレア政権の船出は鮮やかだったが、オバマ政権の打つ手もはやかった。マニフェストで約束した景気対策の77兆円の出動、GMの救済、雇用創出など瞬く間に実施に移している。

 何事も最初が肝心だ。ブレア、オバマ両政権が、鳩山民主党にとって教訓になることといえば、まず日本が目指そうとするグラウンドデザイン、世界の中で果たす役割を示すことではないか。それは例えば、「公正」とか「平和」、「豊かさ」、「安心」、「自由」、「共生」とかいったものではないか。そして総選挙で約束したマニフェストを1つでも2つでも1カ月以内に実施する迅速果敢さである。


  2009年07月16日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 英国の政権交代と「政治任用」 

栗原 猛


 報道各社の世論調査は、現時点で見る限り「政権交代必至」である。財務省をはじめ霞が関の各省庁は、民主党とも接触も始めるなどあわただしい。菅直人代表代行が政権交代の先進国、英国を研究して帰国、同党の「政権移行チーム」の議論もピッチが上がってきた。

 1997年5月、18年に及ぶ野党暮らしから、政権を奪取したブレア前首相(労働党)は、発足4日後にはマニフェスト(政権公約)に掲げた金融政策の決定権を、財務相からイングランド銀行に移すと発表。1カ月後には、実行するというスピードぶりだった。

 日本では1996年に、自民党が新日銀法の議論をはじめてから日銀が独立するまでに2年もかかった。ブレア政権はさらに、改革のための補正予算を政権発足2カ月後に発表。経済改革の多くは、ほとんど1年以内に公表して実施に移している。新政権は既得権益や官僚とのしがらみがないから、一気に改革が進められたのだ。

 ブレア氏にとって初めての閣僚が首相だが、それまでの間、「影の内閣」の政策集団を率いて企画、立案の腕を磨いていた。さらに特筆されるのが、政治任用者(ポリティカルアポインティ)たちの活躍ぶりである。強力な政権でも霞が関だけに任せていたら、これほど早く改革は進められなかったろうといわれる。

 オバマ大統領が発足したときも、政権を支える「政治任用」たちが大幅に入れ代わったが、英国でもまず、「影の内閣」の閣僚が正式な閣僚に移行し、同時に党で政策を研鑽してきた与党議員が各省庁に2,30人ぐらいづつ副大臣、政務官などになって配属される。

 あるものは省の政策を企画、法案をつくる、また野党や議会との折衝役や、大臣の秘書役になって大臣の日常業務を支える。一方、専門の官僚とも協力しながら、選挙で有権者に約束したマニフェストの実施に取り組むわけである。党3役である幹事長や政調会長も閣僚になるから、強力な布陣となり、官僚主導ではない政治家主導が確立されるわけである。

 もちろん官僚陣にも協力を求めるが、これまでのような「官僚主導」ではなく、国民が直接選んだ政治家による政治、政策遂行になるだろう。実はここが政権交代の肝心要のところである。「政と官」の在り方に詳しかった後藤田正晴・元副総理は、「議会制民主主義、政党政治では本来、政策や法案をつくるのは政治家の役目、それを誠実に実行するのが官僚の役目だ。役割分担が崩れていないか」とよくいっていたものである。

 ただしそれができなかったのは、政党が政策スタッフをそろえるには膨大な費用がかかるうえ、霞が関に任せておけば大丈夫だという過信があったからと言われる。今や財政赤字は900兆円という。2001年の小泉改革がスタートした時点では、650兆円だったが、あれだけ国民は痛みを分け合ったにもかかわらず、250兆円にも増えたことになる。年金、医療、介護、雇用など緊急課題は山積になっている。政策決定のシステムも時々交代する必要がありそうだ。


  2009年07月10日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 政権交代とはどういうことか

栗原 猛


 「心のはりがすっとなくなっていく感じがする。長年続いた組織が崩れるというのはこういうことかな」―自民党の長老議員が、同党が独自で行った世論調査を見てこう言っている。厳しい結果だったらしい。報道各社の世論調査も、現時点では「政権交代必至」である。

 ただ、政権の交代があったからといって、今の不景や雇用、年金、介護問題などが一気に解決されるわけではない。それならば「一時的とはいえ政治や行政が混乱する政権が交代しないで今のままでいいのではないか」という議論になりがちである。だがそれは大いに違う。目に見えないが政治や行政の根本のところで大きな変化が起きる。見逃されがちだが、じつはここが政権交代の一番肝心なところである。

 政権が交代すると、まず政治や行政に組み込まれてきた積年のしがらみや人脈が一度見直される。これまで多くの政権が取り組んできた財政や行政の改革は、いつの間にか元の木阿弥になっているが、その最大の原因は、既得権益を手放すまいと政・官・業などから、さまざまな骨抜き攻勢があったからだといわれる。

 高度成長時代のころまでは「政と官」のシステムはうまく機能した。しかしいまや低成長へ向けて既得権益の山を改革しなければならないにもかかわらず、改革や見直しを阻む巨大勢力となっている。小泉改革の功罪が検証されることなく、次々に骨抜きになっていくのもその1つである。

 政権の交代とは政府が変わることだから、政策ばかりでなく政・官の人脈も代わることである。じつはこれが既得権益を見直し、しがらみを断ち切ることになり、政界や霞が関に新風を吹き込んで、ダイナミズムを蘇らせるきっかけになるはずである。欧米各国では数年に1回政権の交代がある。

 先の自民党長老の指摘にもあるように、霞が関には早くも、政権の交代を見越した動きが見られる。たとえば、沖縄返還交渉の際の密約の存在が次々に報じられているが、あるOBの外交官氏は「政権が代わってからつつかれないより、今のうちに公表してしまおうということでしょう」と、語っている。

 与党が圧倒的に多数の場合は、国会論戦で「知らぬ存ぜぬ」で通しても、与党が助けてくれたが、与野党が入れ代わるとそうはいかなくなる。政治や行政の真相が少しでもオープンになるということは、国民の理解や判断を高める上でも大事である。それが政権の交代で、一歩でも進めば、日本の議会制民主主義にとって大きな前進になるのではないか。


  2009年07月02日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


 支持率と選挙結果の関係

栗原 猛


 新聞を整理しながら、報道各社の内閣支持率や政党支持率を見比べていたら奇妙な相関関係があることに気が付いた。

 まず前回05年9月の衆院選挙は、小泉政権の郵政選挙、刺客騒動が話題を呼び、自民党は圧勝した。このとき投票日直前の支持率は、自民党の比例29・7%、選挙区30・6%で、獲得議席はそれぞれ77人、219人。これに対して、民主党は、比例18・3%、選挙区は17・5%で、獲得議席はそれぞれ61人、52人。いずれも自民党は民主党より支持率が高く圧勝した。

 次に自民、民主が逆転した07年7月の参院選直前の調査をみると、こんどは自民党(比例21・5%,選挙区22・1%)なのに対して、民主党は(比例27・4%、選挙区27・1%) で、いずれも民主党が自民党を上回った。選挙の結果もご存じの通り、民主は比例20人、選挙区40人で、自民党(比例14人、選挙区23人)を圧倒する。

 さらに、内閣支持率や政党支持率も選挙結果と密接に結びついている。前回の参院選の時点での、内閣支持率は29・0%(不支持59・0%)で、30%台を切っている。政党の支持率をみても自民党は31・5%なのに対して民主党は37・6%と高い。

 1社だけの調査では客観性を欠くと言われるかもしれないので朝日、毎日、読売、日経の調査をそれぞれ比べてみたら、数字こそ違え傾向は同じだった。最新の6月調査によると、内閣支持率17・5%、不支持率70・6%。自民党の支持率は19・8%、民主党の支持率は38・5%である。麻生首相や自民党が解散に尻込みする気持ちは分からなくはないが、内閣不支持率が、内閣支持率の3倍以上もあるのに政権が続いているというのも不思議だ。

 どうしてこういう数字が出るのか、政治意識調査をみてみると、「政治に不満」が83%、不満の中味(複数回答)をみると、断然トップは「税金の無駄遣い」の63%である。「政治に取り組んでもらいたい分野」では、「年金、医療、介護など社会保障の充実」が69%。以上の数字を岡目八目的にみていても、自民地滑り的大敗というデータである。

 「亡国とは亡に至ってしかる後に亡を知る」という有名な古語がある。人間は得てして大事なことに気が付くのが遅くなるーということを戒めた箴言だ。政治の最大の課題は、こうした国民の切実な願いを、政治や行政がどれだけ真剣に受け止るかの一点に絞られている。


  2009年06月28日(日)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  「景気底入れ」と大型補正と総選挙

栗原 猛


 「景気は底入れした」と日銀総裁が会見した。与謝野財務相も「金融機関の傷は浅く金融機関は健全」と「景気回復宣言」をしている。誠に慶賀すべきことで、政府の善政これにしくものはないーと言いたいところだが、どこかおかしい。

 そんなに早く底入れするのなら、なぜ大騒ぎをして15兆円もの大型補正予算をつくったのかである。麻生首相は「選挙より政策」と繰り返し、総選挙の時期を先送りにして、補正予算の成立を急ぎ、成立したなと思ったら景気底入れ宣言である。

 まず分かりにくいのは、「百年に一度の経済不況」がこんなに早く底を脱するものなのかどうか、大型補正予算をつくる判断をしたことも疑問点だ。意地悪く見れば、もともと「百年に一度の不況」というのは、嘘っぱちで、総選挙対策用の大盤振る舞いのために「百年に一度の不況」を演出したのではないかとさえと思えてくる。

 というのは政府の経済危機対策が、なんとも気前が好すぎるからでもある。政府が発表した資料は雇用対策、金融対策、低炭素対策、健康・長寿、地域活性化、安全安心等の確保など、8項目が並び計15兆円となる。一見、「景気対策に全力」のようにみえるが、各項目の実態を知るには各省庁ごとにある明細書を見ないと分からない。しかもこの明細書は国会議員でも予算委員にしか配られていない。

 ある予算関係の議員がこの明細書を計算したら、15兆円のうち6割、約9兆円が補助金だった。また、「安全・安心確保等」の項目には「4車線化(2600億円)」が入っている。道路建設費は本来、道路会社が負担すべきもので、国の税金を使うのはおかしいのではないか。また4車線化される区間は自民党道路族の地元でもある。

 07年12月の閣議で廃止が決まった「都市再生機構」に1千億円、「雇用・能力開発機構」にも140億円が付いている。今年度から生活保護の母子加算手当200億円が廃止されたが、これぐらいの税源はいくらでも工夫できたのではないか。世襲政治家が増えていることとの因果関係は分からないが、政治や行政が民意とかけ離れているように思われる。

 鉱工業生産指数は上を向き始めたというが、完全失業率はまだ5%と高い。可処分所得は減っている。日本の最低賃金は703円(1時間)で、年収200万円にも届かない。経済大国といいながら欧米の水準より低いのである。百年に一度の不況、大型補正予算、国会延長、不況脱出宣言ーの文脈を見ていると 、解散、総選挙をもて遊んでいる感じである。自民党内では、総裁選前倒し論が出始めているが、解散権を党利党略のために使うことを戒めた保利茂衆院議長の名見解をもう一度、かみしめてほしいところである。

 


   2009年06月09日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  「小沢傀儡」と政権交代

                          栗原 猛


 永田町の政治体質について、日ごろ厳し口調で批判している社会部の大先輩から、「小沢の心境は頼山陽の『流星光底長蛇を逸す』ではないか」と、電話が入った。西松建設事件では「政権党も捜査をしなければ片手落ちだ。公平も欠く」とも言っていた御仁である。

 民主党の代表選挙の報道ぶりをみていて、ちょっと気になることがある。1つは代表選を報ずる16日夕刊と17日の朝刊の一面のトップが代表選ではなく、インフルエンザだったことである。インフルエンザは人の命にかかわる問題だから、大きく報じてしかるべきだが、政府はこの直後には警戒のランクを下げている。もとより政府、与党に気兼ねをしたわけではないだろうが、代表選の方が重要度が高いのではないかと思われた。

 もう1つは、「小沢傀儡」とか「小沢依存の克服」という趣旨の解説記事は目立ったたが、その先の議論が少ない感じがした。次の総選挙は、政権交代の是非が大きな争点になると報じてきているわけだから、政権交代とはどういうものなのか、霞が関がなぜ反発するのか、英、米の政権交代はどのように行われるのかーなどについての紹介や解説が必要ではなかったか。

 東京新聞が13日付朝刊のこちら特報部で「官僚が民主復活を怖がる理由」として2ページにわたって、6項目の特集をしている。その中で、民主党が導入するという「幹部職員の政治任用」について、「『おいしい天下り』をぶち壊す制度だ」「霞が関が面白く思わないのは当たり前。官僚が自公政権を望むのは当然だ」と指摘していたが、なかなか興味深かった。その延長線上に「国策捜査」があっったのではないか、類推された。

 政権交代というのは、長い間、一党支配によって積み重なってきた利権の構造や人脈が入れ替わることである。大事なことはその際、政策のミスや税金の乱暴な使い方などにチェックが働く。政権の交代が英米のように定期的に行われると、政権を担当している間は、次期政権から政策ミスや税金の無駄遣いなどを、つつかれないように気をつけるようになる。つまり自浄機能が働くようになる。

 政治学では、「権力は絶対に腐敗する」といわれる。だから時々、有権者は投票で政権を代える必要がある。交代を繰り返していくたびに、政治や行政はガラス張りになっていく。霞が関にもチェックが働くようになる。政権の交代は、政党政治や政治主導を根付かせるうえで大事なことなのである。


   2009年05月28日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  解散権と「保利議長見解」

                          栗原 猛


 日本の政治家は外遊先で、国内政局について記者会見し、見解を披露するのが好みらしい。ある首相秘書官が、「旅先での発言は、多少ドライブがかかっても帰国後に修正しやすいから、観測気球にはもってこいなのですよ」と、明かしてくれたことがある。

 麻生太郎首相も先の連休では外遊先で、衆院解散・総選挙の時期について「衆院選と東京都議選のどちらを優先するかといったら、それは衆院選だ」と語った。同時に「09年度補正予算と関連法案の成立が最優先」「最後は私が決断する」とも言っている。任期満了の9月10日は刻一刻近づいているが、狭まった選択幅の中で自らの主導権を精いっぱいアピールするのが発言の狙いだと、各紙は報じている。

 首相の解散権は、国民が選んだ衆院議員のクビを切るわけだから、伝家の宝刀と呼ばれ、閣僚の任免権とともに首相のパワーの源泉と言われ、政敵に打撃を与えたり、野党の攻勢をけん制したりするためにも使われる。

 麻生首相の祖父の吉田茂元首相は、1952年に有名な「抜き打ち解散」をして、反吉田の急先鋒だった鳩山一郎(鳩山由紀夫民主党幹事長の祖父、元首相)の台頭を抑えようとした。福田赳夫首相と大平正芳幹事長(後の首相)が激しく主導権争いをした1977年の「40日抗争」では、福田氏(康夫前首相の父)は、解散権をちらつかせては反福田勢力をけん制した。このとき党内から「解散反対」の署名運動が起きたほどだった。

 解散権が、党内抗争や反対勢力の攻撃のために使われることを憂慮した当時の保利茂衆院議長が考えをまとめ、死後の1979年に公表されたのが有名な保利見解である。保利議長は、この中で「国会議員は、主権者である国民の厳粛な信託を受けて立法その他の権能を果たしているのであって、内閣に衆院の解散権があるといっても、内閣の都合や判断で一方的に解散できるものではないーと解散権の乱用を厳しく戒めている。

 政府与党にとって、有利な解散時期を選択することが最大の関心事かもしれないが、多くの国民にとって最大の関心事は、非正社員などの雇用対策や年金問題、景気の先行きはどうなのかなど生活にかかわる「安心」と「安全」である。解散権をもてあそんでいるわけではないだろうが、議会政治の先達の知恵をじっくりかみしめてみることが大事だと思われる。


   2009年05月07日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  「世襲」と英の腐敗防止法

                          栗原 猛


 親などの親族を引き継ぐ世襲候補について、民主党が次期衆院選挙から制限することを打ち出した。親族の範囲は「3親等以内」を軸に詰め、マニフェスト(政権公約)に盛り込むという。小沢一郎代表秘書の違法献金事件でダウンしたイメージの挽回策ともいえそうだが、民主党に限らず各党も世襲の規制に乗り出してほしい。

 現在、国会議員の経験のある父母または祖父母を持つ議員は130(衆院議員480人)人を超える。自民党は3人に1人、民主党も7人に1人の割合だ。麻生内閣の17閣僚のうち12閣僚が2世、3世議員である。平成20年間で13人の首相が誕生しているが、このうち9人、最近では小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎氏と世襲議員が続く。小泉首相が次期衆院選に次男を後継にすることを明らかにして批判されたが、民主党でも小沢一郎代表、鳩山由起夫幹事長は2世と4世議員だ。

 2世議員のなかには資質も識見もあり、パワーに溢れる議員も少なくない。問題とされるのは地盤、看板、カバンが一種の既得権益となって、さまざまな分野から人材が政界に進出しにくくなり、政治から活力が薄れ、民意に対する感度も鈍くなっていくのではないかという懸念だ。

 議会政治の先進国といわれる英国では、2世議員はいないといわれる。政治家は名誉職、奉仕活動と考えられ、「年俸や議員歳費を合わせても2000万円ぐらい」という。日本では、歳費と文書通信交通滞在費は、政党交付金、公設秘書3人の給料も合わせて年間1億円近い国費が支給される。

 もっとも英国も一気に議会政治の模範国になったわけではない。かつては選挙で買収や供応が横行して、1988年、グラッドストン政権時代に、日本でも知られている「腐敗及び不法行為防止法」がつくられ、何度か改正されて罰則なども強化され、世襲にもメスが入れられてきた。

 現在は、下院では親子は同じ選挙区から出馬を規制され、同一政治家の同一選挙区からの連続立候補も制限される。逆に選挙区を代えて当選しさえすれば政治家が続けられるわけだ。だからチャーチル元首相は4、5回選挙区を代えたといわれる。

 ブレア政権では、世襲貴族議員や一代貴族議員で構成されている上院議員1330人から659人の世襲貴族議員(無報酬)を廃止し、671人にスリム化している。腐敗防止や活力回復のための努力を重ねてきており、経済第2位の日本でも実現できないはずはない。ここに来て天下りや渡りなどを禁止する公務員制度の改革をはじめ、特殊法人改革など後退感が否めないが、日本のパワーアップのために、政治が率先して既得権益にメスを入れるなど改革の模範を示すことが必要ではないか。


   2009年04月28日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  「調査報道」と説明責任

栗原 猛  


 東京地検特捜部による民主党小沢一郎代表の公設第一秘書の逮捕について、ある官僚OB氏が「政策捜査の臭いがしますね」と興奮気味に言った。永田町では政治家にかかわる事件ではさまざまな憶測が広がるが、今回ほど検察の捜査の在り方も含めて、議論を呼んだことは珍しい。

公共事業と政治が絡んだ事件の徹底究明は大事だが、いくつかの疑念もある。1つは、日本をはじめ米欧など足並みをそろえて「100年に一度の不況」克服に立ち向かっている時期になぜという点だ。もう1つは、もう5カ月以内には総選挙があり、政権交代があるかどうか日本の政治が大事な時期にあるという点である。

共同通信社の世論調査でも、96%の人が景気が悪化していると指摘し、65%の人が失業不安を感じている。政治の空白によって、政府の景気浮揚策に支障が出るのではないかという懸念は、経済界でもよく指摘されている。日本の政党政治を長く研究しているコロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、「次期首相になるかもしれない人物の公設秘書を『政治資金規正法違反』という形式犯で、いきなり逮捕するというのは極めて異例である」(朝日新聞3月12日付け朝刊)と指摘している。

自民党の国対関係者は、「民主党との間で5月17日投票という線で、総選挙の日取りがほぼ固まっていた。なぜこの時期になったのか知りたいと言う。話題になった政府高官のオフレコ懇談も民主党は「逆指揮権ではないか」と非難する。

検察は時の政治には関係なく、事実と証拠に基づいて厳正に捜査すると言われる。信じたいがダグラス・グラマン事件などにかかわっていた検察高官から、当時、「検察も行政府の一部だから、政治に全く無関係というわけにはいかないところがある」と聞いたことがある。

永田町では事件の発端が西松建設の海外出張所だったことからCIA説もある。小沢民主党が官僚政治からの脱却を掲げて、「公務員の人事制度の見直しや幹部の取り替え、天下り、渡りなどの禁止」を打ち出していることから、「既得権益を守ろうとする『霞が関の虎の尾』を踏んだのではないか」と解説する議員もいる。

報道各社の世論調査で、民主党や小沢支持は減ったものの、麻生政権の支持率は微増だったことから、自民党内には、国民各階各層の政治に対する怒りは、もっと深い。雇用や年金問題や中央と地方の格差、官僚の天下りや渡りなどに地道にとり組むべきだという声も出ている。

今回は報道の在り方も問われている。マスコミは「関係筋によると」などという書き出しで、「事件は自民党にも広がりそう」とか「二階経済産業相にも波及しそうだ」などと、報じている。このうち立件できるものがどれだけ確認されているのかーという疑問も指摘されている。

「ジャーナリズムの可能性」の著者、原寿雄氏は 「報道する側は、検察当局の情報を鵜呑みにしないで、いまこそ調査報道に徹する気構えが大事だ」と、語っている。もとより小沢民主党の肩を持つわけではないが、捜査段階で話しにくいかもしれないが、日本の政治や経済が重大な時期を迎えている時期であること、また政治不信ばかりか、検察の中立、公正さを疑われないためにも検察首脳の十分な説明が必要だと思われる。


   2009年03月18日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  首脳外交と「100年に一度の不況」

栗原 猛  


 ロシア、米大統領と首脳会談をこなした麻生首相が、この夏に向けてさらに首脳外交を展開する。麻生降ろしの動きを封じや、支持率アップに狙いがありそうだが、外交関係者の中には「政権基盤を固めてからでないと、足元を見すかされる恐れがある」と、心配する向きがある。

 首脳外交では、5月にはロシアのプーチン首相が来日し、胡錦涛中国国家主席、李明博韓国大統領との首脳会談も調整が大詰めだ。日中会談は、昨年5月に胡錦涛氏が来日しており、今回は首相が訪中する番だ。韓国大統領の訪日もある。国際会議では、4月2日にロンドンで金融サミットが開かれる。また4月にはタイで、東アジアサミット、5月末には、北海道で太平洋・島サミット、7月8日からはイタリアでG8サミットがあり、8月までの日程はほぼ埋まった。

 首相は外相経験が長く、外国生活の経験もあり、党執行部も「内政では問題発言もあったが、外交になると生き生きとこなしている」と言う。7月のサミットまで外交日程を組んだのは、総選挙を8月以降に想定しているからではないかと、見る向きもあるが、「民主党の小沢一郎代表の事務所に、政治資金規正法違反で東京地検の捜査が入ったことで、状況は変わった。解散は早まる」との分析もある。

 これまでの首脳会談の成果だが、欧米の報道ぶりを見ると、「(オバマ米大統領との会談は)日本側からの必死の要求に応じて公式訪問リストのトップに掲げた」(ロシアのイタル・タス通信)、「(招いたのは)現首相個人ではなく、日本の首相というポストに対する敬意だ」(フィナンシャル・タイムズ、電子版)など、辛口の論評が目立つ。英国の新聞は小さい扱いだった。

 外交は国内政治の延長だとよく言われる。各国首脳は相手国の政権のパワーなどを知り抜いた上で会談に臨んでくるし、基盤が弱かったりすると、国内向けのパフォーマンスのために、前のめりになりがちなことを戒めた言葉である。

 祖父、吉田茂元首相は、マッカーサー元帥の威光を背景に、国内政局を乗り切るろうとしたが、こと外交になると、熟慮の上にも熟慮を重ねたと言われる。首相自身が「100年に一度の経済危機」と宣言しているのだから、「むしろ国内に踏み止まって、景気対策の陣頭指揮に当たった方が、指導力を印象づけられるのではないか」という見方も少なくない。


   2009年03月9日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  ご意見番の不在

                             栗原   猛


 郵政迷走発言、小泉純一郎首相の痛烈発言、GDP年率12.7%減、中川昭一財務相のもうろう発言・辞任、麻生内閣の不支持率が支持率の3倍超にー。こうした異常時には、大所高所から辛口の直言をするご意見番とか、事態打開の労をいとわない長老がいたものである。ところが、最近は「あの人が言うならば…」という役回りの人物が、政界ばかりではなく経済界、学界などにも見当たらない。
 
 調整役は豊富な経験とか知恵、それに人脈の広さなどが必要だ。修羅場をかいくぐった経験からくる迫力も欠かせない。思い出す限りでは経済界では、第2次臨時行政調査会の会長として行政改革の旗を振った土光敏夫氏(経団連会長)はうってつけだった。めざしが好物で、一度使った封筒を裏返しにしてまた使うという清貧さも魅力的だった。

 タイプは違うが安岡正篤、四元義隆氏らは、政治家の「心の指南役」いう立場である。首相は官邸の広い執務室で、ただ1人で、国の大事にかかわることを決断することもあるから、「心の師」が必要になるといわれる。四元氏は中曽根康弘元首相や安倍晋太郎元外相の指南役で、中曽根氏が難局にぶつかると、「私利私欲を捨てて大死一番ですぞ」と進言したという。

 政界では、椎名悦三郎、保利茂、福田赳夫、田中角栄、後藤田正晴、金丸信、竹下登といった首相や副総裁経験の面々がご意見番だった。イラン、イラク戦争の際、ペルシャ湾に掃海艇を派遣しようとした中曽根首相に、「(派遣は)武力行使になる必然性がある」と辞表を懐に、派遣中止を迫った後藤田官房長官の見識は今でも語られる。風圧を感じさせる人物がいたのである。

 最近、このようなご意見番的な存在が見当たらないことについて、ある議員のOB氏は「テレビの討論番組には出たがるが、野党との面倒な交渉ごとなどは敬遠しがちだ。だから先輩の知恵や交渉術、人のつながりなどが引き継がれなくなっている」と言った。

 政治の混迷が長引くようだと、国民生活にかかわるばかりでなく、社会不安が高じて、一気に問題を解決しようと過激な行動が出てこないとも限らない。混迷ぶりを見ていると、大所高所から公正に判断して、直言する知恵者がいま求められているように思われる。


   2009年02月25日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


  政治家の言葉

                             栗原   猛


 ヨーロッパから来ている東京在住の特派員が、「ノーベル賞を一度に4つもとる国なのに、政治家の発言に重みがありませんね」と言っている。オバマ米大統領の就任演説を聞いて徹夜したという自民党の中堅議員は、「政治家の演説はあれでないといけないな」と、感心している。

 オバマ氏はテロという言葉こそ使わなかったが、「広範囲に及ぶ暴力と憎悪のネットワーク」を打破するとキッパリと宣言した。「安全と理想のどちらかを選ぶーそんな間違った考えは拒絶する」とも言っている。建国以来、アメリカを築いてきた先人たちの労苦や犠牲をたたえ、人間の尊厳と歴史の将来に強い希望を訴えた。目立ったキャッチフレーズこそなかったが、かえって力強さを感じさせた。涙をためている人がテレビで大写しになったが、オバマ演説に自分たちの愛せる国を取り戻せると感じとったのではないか。

 そのオバマ氏は、71兆円と350万人の雇用創出を盛り込んだ景気対策法案をスピード成立させた。共和党の反対で調整が暗礁に乗り上げると、反対派議員の選挙区に乗り込み、得意の「草の根」の対話路線で、景気対策の重要さをアピールしている。反対派の議員も自分の選挙区でこれをやられたら、たまったものではないだろう。

 翻って、日本の政治も経済も「百年に一度」の大事な時期を迎えている。GDPが年率換算で12・7%減る見通しになったことで、政府や自民党は追加経済対策の検討に入っている。まだ景気対策を盛り込んだ本予算案を審議中だというのに、見通しが甘かったのではないか。

 自民党内には「雇用状況などを考えたら、与党内で内輪もめをしている余裕はないのではないか」という意見も少なくないが、今期限りで引退を表明した郵政改革の元祖、小泉元首相も表面に出てきて、自民党内の混迷がさらに深まった感じだ。混迷の火元は、麻生首相の郵政改革についての不用意な発言がきっかけである。

 トップの発言については、少し前の永田町には「閣僚の発言は『綸言汗の如し』でないといけない」という言葉が生きていた。閣僚の発言は、汗と同じようなもので一度発言したら、引っ込めることはできないから、注意が肝心だという意味である。マックス・ウエーバーの名著「職業としての政治」をもじって、政治家に大事なのは「地盤、看板、カバンではなくて、熱情と責任感と目測力だ」と、説いている長老議員もいた。政治家の発言は、人々に勇気や希望も与える。古来、日本では言葉には特別の霊力が宿るとされ言霊とも言われた。麻生首相はサービス精神が旺盛なのかもしれないが、大事なのは言葉の重みではないか。


   2009年02月15日(日)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


  政治と行政の劣化現象

                             栗原   猛


 自民、行政の政策対応力鈍る国会論戦やテレビの討論会でも、最近、さまざまなデータを比較した表、フリップをもとに説明されるようになった。難しい経済問題なども随分と分かりやすくなってありがたいが、最近、気になることがあった。 選挙区から国会に戻ってきた自民党の中堅議員が「地元では自民党の政策や総理、総裁をアピールしないで、自分党党首のつもりでやってきました」と言っていた。政治や行政にひと頃のパワーが感じられなくなっていることである。

 政党は理念と組織、政策から成り立っているが、実はこの3点のいずれも劣化が見られるようだ。雇用、年金、医療・福祉・介護などは、政治や行政が何よりも先に取り組まなければならない課題だと思われるが、どこか動きが鈍い。
その原因について、まず小選挙区制で自民党の人材の劣化が進んだと指摘されている。衆議院480人のうち世襲議員は3割以上になている。歴代首相を見ても、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎首相のうち父親が国会議員でない首相経験者は森氏ただ1人である。
 世襲議員はまじめでよく勉強もしているが、地盤、看板、カバンもそろっていて、東京育ちとくると、国民が政治に何を期待していて、政治は何をすべきかどいうことに疎くなりがちである。 政治家の供給源といえば、地方議員か官僚が大所だが、官僚は世襲議員の多い自民党を避けて、抵抗感なしに民主党から出馬するようになっている。自民党の活力が弱まる一方で、野党にも人材が集まる傾向が強まってきたことも挙げられそうだ。

■「保守の知恵」が枯渇

 以上のこととも関連するが、「保守の知恵」が継承されなくなっていることも大きい。安倍晋三、福田康夫氏は続けて政権を投げ出したが、「粘り強さ」とか「しぶとさ」が感じられない。かつて幹事長など党三役は、迫力を感じさせる人がいたものだが、国際舞台での差しの会談などを堂々とやっていけるのか、いささか心配だ。
 麻生首相は渡辺喜美氏の離党話を聞いて、「個人の問題」と言っているが、あるベテラン議員は「少し前の政治家だったら、『ご指摘はもっともなところもあるので、党ともよく相談してみたい』などと言って、事態を治めるような雰囲気をつくったものだ」と言っている。
 
  自民党はこれまで政・官・財の利害調整をはかりながら長期にわたって政権を維持してきた。高度成長が終わり財政赤字も天文学的になったことで、このシステムが機能しにくくなっているようだ。また小泉改革は「自民党をぶっ壊す」ことにエネルギーを注いだが、改革が目指す21世紀のビジョン、「この国のかたち」を国民に語らなかったことも大きい。

 雇用、医療、年金問題など未だに抜本策が打ち出せずにいる。年金問題といえば、厚生省元事務次官の襲撃事件に関連するが、元事務次官が課長時代に、年金の一元化の検討が始まっている。しかし、いまだに結論が出ていないのである。
与野党の勢力が拮抗する政治状況になったことで、官僚もこれまでのように自民党ばかりに肩入れしにくくなっていることも、政治や行政の動きの鈍さの背景にある。

 オバマ政権は、雇用や景気対策に次々に手を打ってくると思われる。政治は比べられる。与党と野党が四つに組んだ選挙は政治史上はじめてだ。

   2009年01月30日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


  消費税増税論の前にすべきこと

                             栗原   猛



 国会論戦やテレビの討論会でも、最近、さまざまなデータを比較した表、フリップをもとに説明されるようになった。難しい経済問題なども随分と分かりやすくなったが、どうもよく分からないのが麻生首相が、「百年に一度の不況」と叫んでいるさ中に、消費税増税へのこだわりである。
 
■ 「選挙に税」はご法度

 というのは永田町には「総選挙前に増税論はご法度」という堅い不文律があるからだ。これから春にかけて景気はさらに冷え込むと言われるから、麻生首相の積極姿勢はなおのこと理解しにくいのである。首相周辺は「言いにくいことをあえて口にした勇気を理解してもらいたい」と言っているが、どうも腑に落ちない。
 「選挙と税」の関係をみてみると、1987年、中曽根康弘首相は、前年の衆参同日選挙の大勝の勢いをかって、売上税の強行突破をはかろうとして、野党の牛歩戦術に遭って結局、断念したことがある。当時、自民党は衆参両院で圧倒的な勢力を誇っていたが、それでも難しかったのである。
 98年の橋本龍太郎政権の参院選挙では、事前の予測は自民圧勝だった。これに気を良くしたのか、橋本首相は選挙戦の終盤になって増税を示唆してしまった。ところが、党内や地方の組織から一斉に反発の火の手が上がり、慌てて軌道修正したが、時、既に遅しで大敗する。そして求心力が落ち、退陣につながっていく。当時、永田町では「橋本政権が取り組もうとしていた省庁再編に、財務省(旧蔵省)が反発して、増税を持ちかけてわざと混乱させたのではないか」と、噂さされたものである。

■ 責任すり替え

 今回も渡辺喜美元行革担当相の離党騒動など、自民党内には推進派と反対派に二分されかねない雲行きである。麻生首相のこだわりについては、雇用問題などで守勢に立っているので、話題の矛先を変えようとしているのではないかと見る向きもある。一方、「埋蔵金の活用と、消費税増税を取引したのではないか」ーと言い切る自民党議員もいる。というのは、財務省にとって増税路線が決まれば、国民の批判は財務省を通り過ぎて、与党に向けられるから財務省は、批判の矛先をかわせるーと踏んだというのである。

 真相はまだはっきりしないが、日本の財政赤字900兆円に膨れあがっている。国有資産は500兆円とも700兆円ともいわれるから、これを差し引いたとしても財政赤字は天文学的である。900兆円と言われてもピーンとこないが、1兆円を積み上げると9000メートルの高さになるという。エベレストの最高峰よりも高いことになる。それを900本も並べるとまさに「借金山脈」になるわけだ。
 日本の財政赤字は、小泉改革がスタートした2001年は650兆円と言われたが、減るどころか250兆円も増えているのだ。「三方一両損」とか、「痛み」を分かち合おうということで、国民は改革に協力してきたが、あの改革はどこかおかしいところがあったのではないか。
 民主党のある幹部は、「アメリカの共和党は、大盤振る舞いしたつけは民主党政権に回して財政再建をさせるが、自民党や官僚は政権交代あり得べしと見て、ばらまき財政の後始末を民主党政権にかぶせようというのではないか」と言っている。

 信じたくはないが、そうだとすれば「党利、党略と省利、省益あって国家、国民なし」ということになる。予算案は、毎年9月から年末まで4カ月間、じっくり時間をかけてつくられるが、実はこの編成作業にも問題があったのではないか。まず無駄をテェックして、どう改革するのかを国民にオープンにして、その上で責任体制もはっきりさせることがまず先決ではなかろうか。そうしないと増税してもまたすぐに赤字財政となり、増税を繰り返すことになるからだ。
 かつて各界のトップリーダーに「帝王学」を説いた陽明学者の安岡正篤氏は、「秀才、事を誤る。誤って責任を韜晦する」と、戒めていた。いま何よりも大事なことは、天文学的な財政を赤字にしてしまったことに対する自浄機能と、責任感を発揮させることではないだろうか。


   2009年01月17日(土)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


  政治は「非正社員切り」に迅速対応を    
  公共事業重視から転換急務


                             栗原   猛


 NHKスペシャルの「ワーキングプア」、日本テレビ系列の「ネットカフェ難民」、新聞も「横並び社会」、「偽装請負」などのキャンペーンで取り上げ、いまや非正社員問題は最大の政治問題だ。麻生首相もやっと重い腰を上げたが、政治や行政の対応はまだ鈍い感じだ。 

■ 非正社員は先進国一だ

 雇用労働者5500万人のうち1700万人が非正社員といわれるから、働いている人の3人に1人は非正社員だ。非正社員は、トヨタ、ホンダ、日産など日本を代表する自動車メーカーのケースにもあるように、真っ先に解雇される。6割は雇用保険に加入していないから、職を失うと同時に収入を失う。非正社員がいる家庭では、当人だけではなく、その両親、祖父母も孫の将来は心配である。
 
 非正社員の定義には国によって多少違うが、ドイツ、フランス、イタリアは13〜14%、イギリスは6%程度だから、日本は飛び抜けて多い。イギリスはサッチャー政権の市場化政策で、金融部門をのぞく雇用、教育、医療の3分野は荒廃したが、ブレア政権が、雇用政策を改善したのである。
 
 小泉改革を支えた竹中平蔵・元経済財政相が、非正社員が増えたことを聞かれて、「改革が止まったからだ。やめずに進めるべきだ。完全失業率(10月は3・7%9月は4・0%)は改善されており、株主の配当も増えている」と、答えているのを聞いていささか驚いた。ちょっと説明が必要だが、完全失業者とは、毎月月末の1週間、「求人活動中で、それでも仕事がなく、仕事があればすぐにもつける」ーの3条件を備えた人だ。仕事が見つからずに仕事探しをあきらめると、完全失業者にカウントされない。したがって、町に失業者が溢れていても、完全失業率は低いということもあり得る。
 
 完全失業率は改善されたかもしれないが、自民党内にさえ春先には、03年の5・5%という過去最悪を上回りそうだーという懸念がある。一部のいい数字だけを取り上げて評価すると、雇用問題の切実な実態を見おとすことになるのではないか。求人数を示す有効求人倍率は下がり続け、昨年10月は0・80倍と04年5月以来の最低になった。また39道府県で求人数が求職数下回っている。
 
■ 英紙も日本の雇用荒廃を指摘
 
  一方、公共事業費をみると、日本は6兆9000憶円で、この数字はイギリス、アメリカ、フランス、ドイツの公共事業費を合わせたよりも多い。社会保障費を2200億円を削減することですったもんだしたが、公共事業費を少し回せば済むことではないか。最近では公共事業より社会保障の方が経済効果が大きいという指摘が少なくない。 イギリスのインディペンデント紙は、最新号で「(日本の大学で)マルクス主義の本が復活していることは、世界第2の経済大国で不平や不満が増大している証だ。この国では過去10年間にわたる全面的な構造改革の中で、労働者を保護する多くのものが奪われた」と、指摘している。
 
 非正社員を含めた雇用政策で、成功例で言えば、ブレア政権は全国に職業訓練、職業紹介網をつくり雇用機会を増やした。スウエーデンやデンマークは、育児休業中の所得保障などで成果を上げるなど、各国それぞれ工夫している。雇用不安で心配なことは、凶悪犯罪など社会不安の引き金になりかねないことだ。いまや非正社員対策は厚労省だけではなく、総務、経済産業、文部科学、国土交通、農水など縦割りの壁を取っ払って、総合的な視点で取り組むべきではないか。オバマ氏は「1分たりとも無駄に出来ない」と、一気に経済、、安全保障チームの陣容を立ち上げたが、麻生政権も迅速果敢な雇用対応が急がれる。


   2009年01月09日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


栗原 猛

 政府の事業仕分けについて、メディアの評判は賛否両論さまざまだが、世論調査は、どこの社も高い評価だ。共同通信社の調査では「来年度以降も継続するべき」が83%もあった。月末まで刷新会議や財務省と各省の調整が進められるが、項目を変えてこっそり復活したり、特別会計に潜り込ませたりと、まだ抜け道がある。パフォーマンスに終わらせないためにさらに目を光らせていくことが大事だ。

 事業仕分けについては、「消費税導入のためのガス抜きではないか」という見方がある。案の定、政府の審議会の大学教授が、「あれだけ切り込んで1兆6000億円の削減したのだから、これ以上無駄はないはず。消費税増是のための理解が深まったのではないか」という趣旨の見解を示した。

 ノーベル賞受賞者やスポーツ界からは、削減を見直すべきだという意見が出た。科学技術やスポーツ振興の重要さも大事には違いがないが、科学者も国家の将来とか人類のためとか肩を怒らせないで、現下の厳しい財政事情をそれなりに受け止めて、研究を続けてほしいところだ。

 こうした論議を聞いていて、1つ腑に落ちないことがある。それは有権者が政権交代を選択した背景には、政治や行政が積み上げた無駄排除があったと思われる。ところが、霞が関側から、「それでは改革に協力しよう」という声がいっこうに聞かれないことである。それどころか、公務員制度改革をはじめ天下りや渡りの禁止、給与や年金などの官民格差是正などは一進一退である。

 公務員の共済年金とサラリーマンの厚生年金を比べると、350万人参加の共済年金には補助金は1兆7000億円投入されているが、3500万人加入の厚生年金には1兆8000億円しかない。官にはこのほか職域加算など手厚い。年金一元化は30年も前から取り組まれてきたが、いまだに日の目を見ない。官僚とサラリーマンの生涯賃金を比べると、大きな差になるのではないか。

 衆院調査局によると、天下り先の特殊法人や独立行政法人は約5000カ所あり、2万8000万人が天下りしているという。しかも補助金や貸付金が12兆円投入されている。事業仕分けでは、職員より役員の数が多いこと、80歳近くになってまだ理事長などで頑張っているケースなどが指摘された。それぞれの制度には、つくられた経緯などがあるかもしれないが、このご時世、見直しは不可避である。

 片山善博慶大教授(元鳥取県知事)が、県知事時代、3500億円の県予算のなかから、200億円の余剰金を出して注目された。その片山氏が、削減の2つの秘伝を披露している。1つは初めての人を財政課長のポストに据えたこと。2つ目は、予算を余した課長を積極的に評価して、意識の変革に取り組んだことだーという。

 イギリスの軍事史家パーキンソン氏が、官僚組織を研究して有名な2つの原則を発見した。1は、組織はいったんできると仕事がなくても人員だけは増える、2は、官僚は入った予算はすべて使い切ってしまうーの2点だ。官と民をさまざまな点で比較してみると、霞が関自身が自己改革の音頭をとっても遅くはないように思われる。


 


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