そら飛ぶ庭
   

【わんにゃんの庭】わんにゃん物語
2008.03.31
Vol.1 ジョンと遊んだ野山の思い出 東海道の要所の番場、醒ヶ井、柏原 忘れられない連れて帰れなかった悲しみ
長宗我部友親
 
 徳川家康と石田光成の激しい天下分け目の戦いがあった関ヶ原の近く。その戦に敗れた石田光成が逃げ込んだ伊吹山が見えるところに米原はある。
 
琵琶湖で泳ぐ
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 北陸本線は米原が始発で、最初は琵琶湖に沿っ走り、かって豊臣秀吉が城をもった長浜を通って上越市の直江津に行く路線だ。金沢方面に行く客が北陸本線をよく利用する。
 夏場などは米原で北陸本線に乗りかえて長浜にいって、琵琶湖の葦原で水泳を楽しんだりもした。琵琶湖にはフナや鱒など多くの魚がいて、釣りも楽しむことができた。
 東海道線では、大阪に向かって、米原の隣の駅が伊井大老の居城のあった彦根だったので、映画などを見に遊びに行くときは、米原の先の彦根に行った。
 
戦国時代は戦略拠点
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霊仙山

柔らかい稜線が美しい霊仙山
 
 この米原というところは、東の江戸から大阪に向かう通過点にあり、戦国時代には、重要な戦略的な要所となっていた。
 かってこの地は、番場と呼ばれていて、その西側が醒ヶ井、次いで関ヶ原の戦のあった柏原へと続く。
 この近江のあたりは、もともと京極氏が勢力をもっていた。関ヶ原の戦があったころは、京極高次の時代であった。高次は明智光秀について豊臣秀吉に追及されたりしたが、最終的には徳川家康に通じて、大津城で西軍の東上を阻む凄惨な籠城戦を行う。
 この高次をはじめ京極家の一族の墓がある京極家の菩提寺がJRの柏原駅の近くにある。徳源院で、萩の花の咲く頃は、満開の花の香りが境内を埋め尽くして、妖気が漂うような感さえある。
 
長谷川伸の名作「瞼の母」
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 この番場に住む母親が経営する食堂で、母を慕ってやってきた番場忠太郎との再会をめぐっての場面が展開されるのが、長谷川伸の作品「瞼の母」である。両親から離れて、生涯孤独で育ち、ヤクザになった番場の忠太郎がやっと母を訪ねて番場にやってくる。そして、母の顔を一目でもみたいと思い声をかけるが、母親は「ヤクザ風情が何の用だい。ユスリに来たのか?タカリに来たのか?」と、すげなく追い返す。
 忠太郎は、「ひとめおっかさんに会いたかっただけさ」「おっかさん、たった一言でいい、忠太郎と呼んでほしかった」と、心の中で叫びながらしかたなく引き上げる。
 人気の高かった長谷川伸の芝居だった。現在では氷川きよしがうたっている。
 この深網傘をかぶったヤクザ姿の番場忠太郎の銅像がJRの米原駅に建てられている。
 
水のきれいな村
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番場の忠太郎像

蓮華寺の忠太郎像
 
 この番場、醒ヶ井、柏原はともに、現在は米原市に統合されてしまったが、このJR米原駅にはどうにも忘れられない、子供のころの思い出がある。小学校の4年から6年のころまで、醒ヶ井に住んでいた。父が転勤が多く、兵庫県の宝塚からこの醒ヶ井に引っ越してきた。
 醒ヶ井は霊仙の裾野にあり、いたるところから湧き水が出ていて、水のうまいところだった。ハリヨという本当に水のきれいなところにしか棲まない魚も、透き通るような水中の藻の間ですいすい泳いでいた。空海和尚がこの醒ヶ井の水で旅で疲れた足をいやしたという、伝説の井戸もあった。
 霊仙は柔らかい稜線をもっていて、朝起きるたびにその山のなだらかな姿を見ながら歯を磨いたりした。
 
猟犬の子供を貰う
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 小学5年生のころだったと思う。自分の犬がどうしてもほしくなって、母親にねだった。「自分で散歩に連れて行って、ご飯もちゃんと自分があげて、世話するのよ」ということで許しを得た。父親が村はずれにあった猟師さんに話をつけて、シバ系の猟犬の雌の子犬を貰ってきてくれた。名前はジョンとつけた。
 それからのジョンとの生活は楽しかった。山の中に連れて行って、日当たりのよい南斜面に枯草を敷いたりして、秘密の山の家を造って、日が落ちるまでジョンとそこで寝転がったりした。ジョンはどこにでもついてきた。
 
ウサギや小鳥を捕まえる
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 ときどきジョンは一人で山の中に入ってゆくと、ウサギや小鳥を捕ってくることがあった。ウサギは鼠色の山兎で、一度ジョンがとってきたウサギを父親が料理して、食べたことがある。ちょっと気味が悪くてあまり食べれなかったが、肉は柔らかかったのを覚えている。一度キジもつかまえたけれど、目を羽でたたかれて、ジョンは逃がしてしまい、飛んでゆく逃がしたそのキジの後を悔しそうに追っかけて行く姿を見た。その時はさすが猟犬の血を引いている犬だなあと思った。
 
汽車の中まで入ってきた
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 ところがある日、事件が起こった。ジョンはすごくなついていて、僕や家族が出かけるのが分かると、目ざとく見つけていつも後についてきていた。石を拾って、付いてきてはいけないという意味で、それをジョンのほうに投げたりして、脅して返すのだが、時としてうまく網目をくぐってついてきていることがある。でも、その日は汽車にのって出かける予定だったので、思いっきり石を投げたりしてジョンを返した。そのつもりだった。
 ところが、汽車が動き出したころ、隣の車両からジョンが、思いっきり尻尾を振りながらぼくたち家族のところにやってきてしまった。
 もちろんそれは車掌に見つかって、次の米原で汽車から降ろすことになった。しかし、その米原はジョンの知らない土地だ。どうするか、悩んだ。駅の前にまっすぐにのびる国道をまっすぐ東の方向に行けば醒ヶ井には行ける。瞬間「ジョンを連れて一人で、国道を歩いて僕が帰ろう」と、思ったが、決断ができなかった。初めての土地で、地理がよくわからず一人で行くのは怖かったのだ。結局、両親の判断に従って、ジョンはそのままそこにおいて、家族は彦根に遊びに行ってしまった。
 
それっきりジョンは帰らず
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柴犬カット

 
 そして、それっきりジョンは醒ヶ井の僕の家には帰ってはこなかった。尻尾をおもいっきり振りながら、こちらをじっと見ていた、そのときのジョンの姿は、僕の目に焼き付いて、今も消え去ることはない。醒ヶ井の土地はこのジョンの事件で、僕にとっては二度と行き難いところとなってしまった。
 
長宗我部 友親 (ちょうそがべ・ともちか)
1969年、東京都出身。
親房系長宗我部家の十七代。通信社の記者を経て、現在株式会社企画の庭の代表取締役。著書に『なごやの忘れもん』、『街かど経済入門』などがある。
【写真協力】米原市 経済環境部商工観光課、滋賀ガイド
 
   
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