【わんにゃんの庭】
2007.01.29
Vol.1 黒べえ介護の一年 車椅子で新緑の下再び散歩 黒べえ介護の1年 名古屋転勤で初の飛行機旅行も
 須見 吾郎
 黒べえは捨て犬だった。小さいとき、子供にいじめられて林の中に逃げ込んだこともある。石を投げられてけがもした。身体がおおきかったので、とうとう保険所に連絡されて、係員がやってくる寸前に、飼い主として私たち夫婦が名乗り出た。だから、最初はお散歩のときに鎖をつけられたとたん、いじめられると思ったのか、「キャオン」と鳴き出したのを覚えている。楽しいお散歩のはずなのに。
  それから17年。大手術の後、車椅子での生活を送り、ついには重病の床で亡くなった、かけがえのない家族のひとり「黒べえ」。
 
大の甘党
 黒べえは、もとはといえば野良犬で、気は小さかった。いや、小さいというと誤りがあるかもしれない。犬同士のけんかだと強いのだが、人間には優しく、無抵抗だった。
 東京で珍しく積もった雪の日にはソリを引いたこともある。そして甘いものが大の好物。シュークリームには目がなくて、それも近所の高級洋菓子店のものが特にお気に入りだった。
 散歩道。その店の前に差し掛かると、あのパブロフの犬のように口からよだれをどっと何度も流して「シュークリームがほしいよ」という表情に、体全体がなった。でも、性格からか、そこにとまって動かなくなったり、「ワン」とかいって、決して無理にねだったりはしない。ただひたすら「ぼくはたべたいんだ」という顔をするだけ。そして、ご希望のシュークリームを買ってきてやると、大きな口でぱくりと一気に飲み込んだ。
 
一人旅
 飛行機に乗って名古屋にもいった。飼い主こと私が名古屋に転勤になったので、黒べえもお供をさせられたのだ。でもこのときは航空会社の人に、なんと「活犬」と記入された札のついた檻に入れられての一人旅。たいがいのことには動じない黒べえも、この時ばかりは心細さに脱糞してしまったようだ。
 名古屋では、真っ黒くてこんもりした毛並みの黒べえは近所中にかわいがられて、代わるがわるいろんな人に散歩をしてもらった。楽しい思いがたくさんできた。
 
17歳で大手術
 その黒べえが動けなくなった。17歳になった夏のころだった。突然、真っ赤な血の尿を出した。腎臓が悪いということで大手術となった。黒べえはセッターとの雑種で、熊ぐらいの大きさがあり、運ぶのが大変だったので、先生に自宅へ往診に来てもらって手術が行われた。
  無事に終わったのだが、それ以来、身体が弱ってしまい、その年の冬には後ろ足が動かなくなってしまった。それでも立って動きたそうだし、座ったまま用を足すのも嫌がった。そのいじらしい姿に胸が痛んだ。
 
大喜び
 人づてに話を聞いて、後ろ足用の車椅子を注文した。需要が多いということで、1ヶ月ほど待たされたけれど、ようやく黒べえの身体の寸法に合わせた車椅子が我が家に到着。さっそく着用してもらった。黒べえはすっかり足が再生した気分になったようだ。
  さっそく新緑の欅並木を抜けて散歩。黒べえを連れて自宅前まで帰ってきたが、家の中に入ろうとしない。「ワン」と久々に大きな声で鳴いたあと、後ろ足に車椅子をつけたまま、家の前で行ったり来たり。散歩をさらに催促。これまで一度も無かったわがまま振りを見せた。車椅子のおかげでしばらくぶりに外の空気を吸い、歩けたのがよほどうれしかったようだ。
 
看護の毎日
 車椅子をつけることができたのは3ヶ月ほどで、その後は前足も弱り、とうとう寝たきりの状態が続く。でも、本人はずっと、きれい好きで通した。4時間おきくらいにおしっこが出るが、それは尻尾を振ることで教えた。大きいほうのときは軽く鳴いた。しかし、身体が大きいので、用をたすときはいずれも大変。二人掛かりで抱えて外に連れ出した。いつも当人はすまなそうに、神妙だった。
  ある日、誰にも言えないことだが、人手がなくてひとりでおしっこをさせたときのこと。玄関口で黒べえを下に降ろすとき、その大きさと重さに黒べえに対する私の扱いが少しぞんざいになった。その結果、弱って垂れ下がった格好になっている頭が玄関の床に当たってしまい、ごつんと音がするほどの衝撃になった。でも、黒べえは何も言わず、その目はすまなそうにさえ見えた。その時のことは今でも決して忘れることができない。
 
かけがえない家族
 ひょっとしたら、今日はもうだめかもしれない、と思う日が続き、黒べえの死という現実を直視できず、友だちを誘ってだらだら逃避の酒を夜中まで飲んでしまうこと多かった。
その日も同じくそんな気分で深酒をしてしまっていた。そしてようやく夜中の12時少し前に玄関のドアを恐る恐る開ける自分。黒べえは細いながらも息をしていた。ほっとして、風呂に入り、二階で床に着いたが、うとうとする暇も無く・・・。
下で黒べえの面倒を看てくれていた居候の通称マムシに大声で呼ばれた。呼んだというよりあれは叫んだと言った方が正確かもしれない。 
「黒べえが死んだ」。
  かけがえのない家族がひとり、目の前からいなくなった。
イラスト
偏屈おじさんのわん日記
人生、色々大変だけど、わんがいれば癒される。わんを通して世の中をみるおじさんの独り言。 詳細はこちらから
 
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