応募小説


赤い糸
                         S・M・U


  思えば、あれが私の初恋だったのだろう。
 大分昔の話にはなってしまうが、思い起こすとあの日々は輝いた_。

 当日小学校の高学年だった私は、毎日噴水のある公園を通って学校に通っていた。距離にすると遠回りだったが、特に雨上がりの朝などは、すがすがしく、さわやかな空気を感じさせてくれる、公園の道が大好きだった。

 彼女を最初に見つけたのも、春の日の、そんな朝のことだったと思う。公園に面した真っ白な家の白ぶちの窓が半分だけ開かれていた。そして、窓際に少女がひじをつき、はっとするほど美しい黒髪が風でさらさらとゆれていた。

 私は彼女の横顔を下から眺めながら、しばらく立ち尽くしていた。そして、その時に既に私は、彼女にすっかりと心を奪われていた。

 それから毎日、遅刻しそうな日でも私は公園を抜けて彼女の姿を探しながら学校に通った。大抵、その時間には彼女は窓を開け、ちょっと淋しそうな顔をしながら、ぼーっと外を眺めていた。

 しばらく時が経ち、あれは、私が中学校にあがったころだったと思う。私の通っていた中学は電車で2駅のところにあり、公園を通ることもすっかりとなくなってしまっていたのだが、ふと思い出して、小学校の時と同じ時間に公園に行ってみた。

 すると彼女がいつも開けていた窓は閉まり、家の中からは人の気配が消えていた。私は何かむしょうに気になり、いたたまれない気持ちになった。

 私は勇気を出して公園の反対側にある、彼女の家の正面に行ってみた。回ってみると、入り口は普通の家とはちょっと違う、古い田舎の小さな図書館のようなところだった。
 門には「心の家」と書かれていた。
 
 当時から引っ込み思案な私だったが、その時はどういうわけか行動的になっていて、いつもまにか、私の指はチャイムを押していた。
 
 はーい。と奥から五十歳くらいの少し太った女性が出てきた。
 
「何か用?」

 まるで「誰かお友達に会いに来たの?」と、なんだか私の行動を見透かしたようだった。
 
「えっと、いつも窓から外を眺めていた女の子のことが気になって。」
 私は正直に答えた。
 
「どうぞ。」

 その女性は少し悲しそうな顔をして私を中に招き入れてくれた。

 彼女がいつもいた部屋は少し変わっていた。広い部屋の片隅に白いシングルベットが一台おかれ、窓脇に丸テーブルが一つと椅子がおかれていた。

 その女性は言った。

「先週の火曜日ね。急に容態が悪化し、そのままだったのよ。」

 私は何のことを言っているのかサッパリわからなかった。

 話を聞いてみると、この建物は難病の子供たちが来るための病院で、学校でいじめられずに少人数での集団生活を送ることで秘かに人気があり、常時20人がキャンセル待ちリストに載っているほど、ということだった。

 そして、私は、その時に初めて彼女が難病で入院しており、つらい日々を送っていたことを知った。

 彼女は先日亡くなったという。

 私は彼女が毎朝公園を見下ろしていた姿を思い出し、少しだけ涙を流した。

 私の恋は一言声を交わさずに終わってしまった。 



短編小説応募作品です。企画の庭では今後も応募をお待ちしています。
 


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