【趣の庭】沖縄・黄金(くがに)の庭
2009.11.02
最西端で聞いた食の智恵
残りものにあった「福」
林 秀美
1768
与那国島のシンボルのひとつでもある立神岩。

前回、与那国島では海の幸をムダなく食べ尽くす、
……というようなことを書いたが、
もうひとつ「ムダなく利用する・賢い智恵」を教えてもらった。

それが、泡盛の酒カスの活用だ。

与那国島で「カチダイ」と呼ばれる酒カスは、
調味料として、古くから親しまれていたという。

泡盛の酒カスには黒麹菌と酵母の働きで生成されたクエン酸や
アミノ酸、ミネラルなどがたっぷり含まれているそう。

今ではその酒カスを圧搾して濾過した商品が
「もろみ酢」として出回り、健康飲料として人気を集めている。

1768
90年代半ばからブームを巻き起こした「もろみ酢」。
黒糖入りやシークヮーサー果汁入りなど、
さまざまな商品が人気を呼んでいる。
(写真は与那国島とは無関係です)

でも与那国島で聞いたのは、
手間や技術を駆使して商品化されるようになった今の話ではなく、
昔ながらの、素朴な酒カスの利用法だ。

何人かに話を聞いたのだが、
もっとも手っ取り早い使い方は
酢の代用品として、そのまま焼き魚にかけるというものだった。

それから、酸っぱいものが欲しくなるという妊娠中に、
そのままゴクゴク飲んでいたという女性もいた。
(もっとも、その人は
「そんなコトする人はほかにいない。ワタシだけよ〜」と笑っていたから、
 まあ、特別な一例ということになるけれど)

また彼女によると、
かつてカツオ漁が盛んだった与那国には、カツオ節の加工場があり、
カツオをいぶすための薪を拾って工場に持っていくと
お礼にカツオのアラがもらえたそうだ。

その帰りに酒造所に立ち寄ってカチダイを分けてもらい、
それを調味料代わりにカツオのアラを煮れば、
立派なオカズができあがったという。

戦後間もない頃の話で、苦労も多かったのだろうが、
物々交換で暮らせる牧歌的な情景は、
なんだかちょっとうらやましい。

もう少し手を加えた使い方としては
ダシなどで味を整えて刺身醤油にしたり、
酢の物には欠かせない調味料だったそうだ。

カチダイを使った刺身醤油でカツオを食べてみたが、
酢酸系の酢のようにツンとくるのではなく、
まろやかな酸味で、イケる味だった。

(作ってくれた人に話を聞くと、
どろどろのカチダイをガーゼで丁寧に漉し、
カツオ出汁と混ぜて、塩などで味を整えたうえに、
柑橘類の葉っぱを加えて香りをつけるなど
かなりの手間ヒマをかけて仕上げたものだそう)

酸っぱい刺身!? と最初は違和感があったのだが、
沖縄本島でも、刺身は酢味噌和えにしたり、
刺身醤油にワサビではなく酢を入れる習慣が定着している。

気温の高い地域ならではの食中毒予防の意味で、
ナマモノには酢、という組み合わせが一般的だったのだろう。

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蒸したタイ米に黒麹菌を混ぜて
「こうじ棚」に移して、こうじを作る。
(写真は崎元酒造所)

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黒麹菌がしっかり育つと、
真っ白だったタイ米が、こんな色に。

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発酵中のもろみ。
発酵が進むと、ボコボコと泡立ってくる。

カチダイそのものの写真はないけれど、
原料がこんな感じなので、まぁ、想像してみてください。

カチダイに悪態つく気はないけれど、
食べ物としてみたときに「まぁ、オイシソウ」とは
ちょいと言い難い色と形状(どろどろ)ではある。

そのせいもあってか、
カチダイを日常的に利用するのは酒造所の近隣の人など、
一部の人に限られていたそうだ。

今も、カチダイを
「あれはブタのエサか、畑の肥やしに過ぎない」と
言い張るオジサンにも出会ったけれど、
カチダイを与えたブタは病気にかかりにくい上、
肉質もよくなったそう。
またカチダイを撒いた畑では野菜がスクスク成長するともいう。

そんな酒カス効果に着目した沖縄本島のある酒造所が
「グレーのどろどろ」を圧搾・濾過する技術を開発。
美しい琥珀色の液体に生まれ変わらせて
「もろみ酢」として発売したのが、平成の世だ。

そして前述したように、もろみ酢は
クエン酸たっぶりの健康飲料として、大ブームを巻き起こしたのだ。

そんな状況が来るとは夢にも思わなかった時代から
与那国島に限らず、酒カスを巧みに活用していた沖縄の人々。

「残り物には福がある」とはいうけれど
どうして、酒カスに「福」があることを知っていたのだろう?


林 秀美(はやし ひでみ)
1961年、香川県生まれ。
沖縄在住・フリーランスライター。大阪〜東京の出版社勤務を経て、フリーに。97年、唐突に沖縄に転居。沖縄で初めて出くわす、この地ならではの習慣などを面白がっているうちに10年経ってしまった。主な共著に「沖縄のナンダ(シリーズ)」(双葉文庫)、「沖縄オバァ烈伝(シリーズ)」(双葉社)、「沖縄なんくる読本」(講談社)など。

 


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