【趣の庭】沖縄・黄金(くがに)の庭
2009.9.21
日本最西端の酒造所で味わう
60度の花酒
……与那国島だけに許された酒……
林 秀美
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緑の風景の中、ぽこぽこ歩いているのはヨナグニウマ。
町の天然記念物に指定されている在来馬。
小柄でおとなしく、かつては過酷な農作業もこなしてきたそうだ。

与那国島との酒といえば、
アルコール度数60度の「花酒」が知られている。

これは泡盛の蒸留初期にできる度数の高い酒のことで、
原材料も製法も、泡盛そのものだ。
ただ、酒税法で泡盛は
アルコール度数が45度以下と定められているので
60度の酒は「スピリッツ・原料用アルコール」という、
なんだか味気ない表示が義務づけられているのだ。

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花酒には、こんな表示がされている。
「火気に注意してください」の注意書きは、シャレではない。
火を近づけると、ぼわっと青い炎を揺らめかせ
怪しくも美しく燃え上がるのだ。
薬が手に入りにくかった時代、この花酒に火を付け、
炎ごと手で掬い取って患部につけて、痛み止めにしたという。

「花酒」は、一般的な泡盛とは一線を画する特別な存在で、
大きなお祝い事や儀式に用いられる、最高級品である。

その最高級品が、今、まさに目の前で生まれ出ようとする瞬間。
(いくつもの酒造所を見学したが、
蒸留のまっただ中に出くわしたのは、幸運な初体験!)

恐る恐る、そーっと頼んでみる。
「あのー、出来たてのところを、
 ちょこっといただくわけには……」
「あ。いいですよ」

あっさりOK。
さすが、国境の島(…のせいか?)、太っ腹!

パイプからタラタラと滴り出る透明な液体。
けれど真っ先に出てくる酒は、荒くて飲むのに適さないとのこと。
その部分の酒は別の容器に移し、さあ、いよいよ花酒が……。
アルコール度数計が、ググッと沈み込む。
(ここの度数計は、度数が高くなると沈み込むタイプ)

「うわっ、70度の線より沈んでますよぉ〜!」

水を加えてアルコール度数を調整し、
60度のスピリッツとして市場に出回っている「花酒」なら
飲んだことはあるけれど、生まれたての70度は初めての経験だ。

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ちょっと分かりづらい写真で恐縮だけど、
もろみが沸騰しはじめたらフタをする。
フタには冷却器への菅が取り付けられていて、
この管を通って花酒が生まれ出るのだ。

小さなおちょこに注がれた液体を
そーっと舐めてみる。

瞬間、甘〜い米の香りが口いっぱいに広がる。
うわぁ、旨〜い! と思った直後に
ガツンと強い衝撃(おおげさ)のようなものがあり、
アルコールが揮発するのを感じながら、
喉の奥に落ちていく、という感じ。
(個人的な味覚の体験を、うまく言えなくて、申し訳ない!)

想像以上に濃厚な味わいと香り、強烈さは、
口の、というより脳のどこかにガツンと刻み込まれたのだろう。
その後、一日中、何度もふわぁ〜と、その味がよみがえり、驚かされた。
特別なときだけの、特別な酒というのも、よく分かる気がする。

……にしても。
なぜ、この「花酒」が与那国島だけに許されているのだろう?

その答えは、次に向かった酒造所「入波平酒造」で判明した。
入波平酒造の三代目社長である、入波平浩伸さんによると
「うちのオヤジが申請したからですよ」とのこと。

聞けば、復帰から2年後の1974年、
古くから島で愛されてきた伝統的な花酒を与那国島の特産品として、
全国に広めたいとの思いから、入波平浩伸さんの父・毅さんが
『どなん 花酒60度』の銘柄特許申請をしたという。

そして戦後も伝統的な手法で
花酒を造り続けてきた実績が認められて、
与那国の「花酒」が認可されたのだ。

復帰以前、与那国島の酒は当時の酒税法によって
島外への移出が禁じられていたが、花酒が認可されたことで、
復帰後は全国を視野に入れた積極的な販売活動を行ったという。

その際、酒瓶をクバの葉で巻いて、付加価値をつけることも
入波平さんのアイデアだそう。

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クバ(「ビロウ」と呼ばれるヤシ科の常緑高木)は、
沖縄では神様が降りてきた神聖な木とされている。

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クバ巻き名人の島のおばあちゃん。
クバの木を前に、一升瓶を包むのに適した葉っぱ、
三合瓶に適した葉っぱを瞬時に見分けて、サクサク収穫していく。

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手慣れた様子で包まれる花酒。「民芸品」と呼びたくなる美しさ。

島には島の伝統を生かした、独自の戦略があるというわけだ。
国境の酒は、心して、心ゆくまで味わおう。


林 秀美(はやし ひでみ)
1961年、香川県生まれ。
沖縄在住・フリーランスライター。大阪〜東京の出版社勤務を経て、フリーに。97年、唐突に沖縄に転居。沖縄で初めて出くわす、この地ならではの習慣などを面白がっているうちに10年経ってしまった。主な共著に「沖縄のナンダ(シリーズ)」(双葉文庫)、「沖縄オバァ烈伝(シリーズ)」(双葉社)、「沖縄なんくる読本」(講談社)など。

 


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