【趣の庭】古書道楽「珍・本・版」
2009.2.23  
 
「粋人粋筆」探訪の
清水崑の粋筆

「遊歩人」で大好評連載

坂崎 重盛    
写真

この『かっぱ天国』清水崑は国民的漫画家になった。その〔第1集〕。
序文、誰だと思います? 後のノーベル賞作家・川端康成ですよ。昭和30年 東峰書房刊、定価160円。

 書店に運よくあればタダでもらえる月刊雑誌「遊歩人」(文源庫発行)でシゲモリ先生の好評連載「To Route 253=煮込み横丁逍遙」が去年の十一月で一応終了。これが一ヵ月もたたぬ羽子板市の前に『煮込み横丁評判記』(光文社刊)として刊行された快挙は私の記憶に新らしい。
 しかし、この、ディープでダークでタフ(略して「DDT」‥‥懐かしいですよね。戦争直後世代の皆さんは)な『煮込み横丁評判記』は、前評判のわりにはさほど評判になっていないようである。
 「あの文章、たしかに雑で品格に欠けるところはあるかもしれないが、運動神経に秀でた一種の名文といえるのではないか」と著者も絶賛なのだが、やれ「あの有名店のことが出てこない」とか、やれ「それぞれの煮込みの素材や味のことにあんまり、ふれられていない」とか、ニコミストからの注文も多い。
 そんなの簡単だよ。その店の歴史や煮込みの風体や味についてあれこれ文飾をもって語るのは。
 あるいは、その煮込みを前にして私小説風の物語を披露するのは。
 でも、やだよ、そんなこと。そんな才能ないもん。できたらやってるよ、とっくの昔に。
 って、逆ギレしてはいけませんね。そう、そう、話は雑誌「遊歩人」でした。この雑誌、すでに記したように、書店に置いてあればタダでもらえるし、なんかオンデマンドとか言って、そのシステムがあるところではバックナンバーをタダで(だったかな)プリントしてくれるんですって。
 いや、確たる情報じゃなくてゴメンナサイ。まるでITやデジタルとか通信に疎い私、このオンブオバケ、いや、オンデマンドというものがどんなものかわかんない。(この原稿も原稿用紙にミッフィーちゃんのキャラクターが入っているシャープペンで書いているし)。

 で、その「遊歩人」で、先の好評連載の(クドイよ)『煮込み──』が終わって、次に始まったのが大好評連載のシゲモリ先生の『粋人粋筆探訪』なのでした。
 『煮込み──』の連載終了後、「遊歩人」編集長・石井隊長、「今度はたっぷり時間を取ってしっかり準備をして始めるのもいいかもしれませんな」という友情あふるるお言葉。
 (そうか、なんの連載をしようかなぁ)などと、考えるともなく考えないでいると、机の上の電話がペロペロと鳴って「で、連載のテーマ決まりました?」とのご下問。

 「そうですねぇ、なににしますかねぇ」などと答えると、
 「締め切りは、遅くとも十五日まででよろしく。年末進行なんですよ」
 「って!? えっ、今出ている号が『煮込み──』の最終回でしょ。締め切りが今月の十五日って、『煮込み──』が終って、すぐ一号も休みなしに新連載スタートですか?」
 「まぁ、ものにはタイミングってものがありますからねぇ、変に間を置くとマズイ場合がありますしねぇ」

 って、マズイ場合もなにも、かなりこれは御無体な話ではないですか。
 「とにかく、タイトルだけでも金曜日までに決めて下さい。表紙に入れなきゃいけないので」
 って、タイトルもなにも、かなりこれは唐突な話ではないですか。
 で、満を持して苦しまぎれに切ったカード、それが『粋人粋筆探訪』、というわけです。
 この連載、これまで「1冊でも3冊でも500円」といった均一本の中から抜き出し集めてきた雑本中の雑本、軟派・軟文系の本を適当にシャッフルし、並べ直して御紹介しようという壮図である。
 これがもう、連載早々大好評で、この二月号で3回目を迎えるのですが、知り合いのO旦那と、もう一人、これも知り合いの神保町の麗人M嬢の計2名から「見ました」とだけの絶惨(?)の反応をいただいているのである。



 で、その今月号が漫画家・清水崑による装丁や装画本を紹介した。清水崑、例の「カッパッパー カッパッパー、黄桜(キーザクラー)」のCMでおなじみの(今のCMは二代目の小島功)漫画家ですね。
 清水崑描く女人がまた色っぽいんですよねぇ。まさに粋筆。彼の装丁・装画と随筆集を取り上げたのですが、雑誌6ページの誌面では、そのほんの一部しか紹介できなかった。
 しかもカラーページではないので、その艶なる色調も伝わらない。そこで、この「珍・本・版」でライブ感たっぷりにご披露しようとしたのです。
 つまり、「遊歩人」と「そら飛ぶ庭」の横断企画、お楽しみ下さい。
 あ、それと『煮込み横丁評判記』は、ぜひとも絶版前に買うべきでしょう。今なら、1200円にプラス消費税も付いてきます。



ほーう、ほら。これが清水崑の装画。色っぽいですね。とくに右の色付きの方の彼女。“秋波”“流し目”って、こういう目付きのことなんですね。この年になって、やっとわかった。この2冊、タイトルは同じでも内容は少し異る。左は昭和28年 高橋出版社刊。定価100円。右は昭和31年河出書房刊。定価100円。


こちらは清水崑のお家芸。カッパをカーバー装画に。書き文字も清水崑ならではのたっぷりとした軟らかさ。昭和30年 中央経済社刊。定価150円。


左は『かっぱ天国』と同じ東峰書房から出た雑学博士の渡辺紳一郎の『古典語典』の続刊。昭和31年刊で250円。右はこちらももちろん清水崑の装画による『酒の古典語典』。昭和36年刊、定価360円。なんか左の本と『兄弟企画』のようなタイトルですが、版元は東峰書院! うん? 左の東峰書房と右の東峰書院。発行人は同じ〔三ッ木幹人〕。木村荘八の随筆等に出てくる著名出版人である。発行所も同じ千代田区九段四丁目。ははぁ、東峰書房が具合いが悪くなって東峰書院として再出発したのかしら。なお著者は酒造メーカー「又吉」の社長。


おやおや、これは麻生さんのおじいちゃんの宰相。吉田茂ではないですか。清水崑は似顔絵にも白タビ、葉巻にステッキのダンディ。筆の冴えを見せた。『大磯清談』昭和27年 岡倉書房新社刊150円。うん? 岡倉出版「新社」? 岡倉書房に関しては書きたいこともあるが、もったいないので、ここでは略。


きました!『ホーデン侍従』。『人生劇場』の作家・尾崎士郎はまた「ホーデン劇場」でその粋筆ぶりを世にとどろかせた。この二冊もタイトルは同じだが、版元も内容の構成も異る。左は函入れで昭和24年 暁書房刊180円。装画はもちろん清水崑。左は清水崑による装丁、装画で昭和33年 垂水書房刊で250円。


ところで暁書房版『ホーデン侍従』の本表紙と装丁はなんと尾崎士郎による自装。驚くのはまだ早い。その見返しに上のような書き込みが。えっ? 漢詩の最後が「士郎狂詞」と読める。おや、これは尾崎士郎による献本サインではないか! これを荻窪の古書店で1000円で入手していた。


左は本文の第1ページ目。カウターの左のオッサンが、ありし日の尾崎士郎に似ている。右は本文中の挿画。マツタケのような人(?)がペニス大候。それに従うのがホーデン侍従。先に見ゆるのは、なにか妙な光景の“門前”である。その後ろの白い丘が気になりますねぇ。



坂崎 重盛 (さかざき・しげもり)
東京生まれ。
造園家を経て、編集者・ライターに転進。
著書に「TOKYO 老舗・古町・お忍び散歩」(朝日文庫)、「秘めごと礼賛」(文春新書)、「超隠居術」(角川春樹事務所)、「蒐集する猿」(ちくま文庫)、「東京本遊覧記」(晶文社)など。
 
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