【趣の庭】古書道楽「珍・本・版」
2008.07.28  
夏だ団扇絵だ(その2)

今回は「可愛いい」

「メデタイ」子供絵


坂崎 重盛
写真

 前回は団扇絵のなかで「美人画」を紹介した。今月は、「子供」を集めてみた。団扇絵の中に、けっこう「子供」が描かれているんですよ。
 そういえば江戸の浮世絵にも、子供が描かれている。そうねぇ、有名なのは歌麿の山姥(やまんば)と金太郎の組み合わせの絵柄でしょうか。
 豊満な山姥(といっても若い)に、子供の金太郎がしがみついている、というパターン。
 あるいは、もっとキワドイのもある。たとえば春信のワ印(ワジルシ)、つまり春画では、小さな子供を脇において、そのままズバリの行為を行っている絵柄がある。  春画は、「笑い絵」とも言った。つまり、オメデタイものなのである。男と女の結合は、生命力の発露、子孫の繁栄の象徴でもありました。
 メデタイといえば、「子供」というのも、メデタイものです。「子供」には未来がある。秘めたる可能性、希望がある。幸せ感がある。
 そこで団扇絵にも描かれることになる。
 余計な能書きはこのへんにして実物に当ってみましょう。


■緑陰の課外授業。いいなぁ。



 樹の下で、これは夏の課外授業なのだろうか。教えるのも、生徒よりは少し年長のようだが、まだ少女。黒板に「ショチュウオウカガイ マウシマス」と白墨(ハクボク)で書かれている。
 ピンクの花をつけた樹は、これは多分、サルスベリですね。いわゆる百日紅。少女たちの顔は妙に大人びて、あまり可愛くないなぁ。
 でも、全体の雰囲気は緑陰で夏らしくていいですね。



 おや、こちらは藤の花。太鼓橋が描かれているので、亀戸天神のつもりでしょう。着物姿のお母さんと一緒の子の、鯉にエサをやっている様子が可愛いい。
 ただ、亀戸天神の場合は、鯉よりは亀ですよね。太鼓橋の向うには山影のようなものが描かれていますが、あの付近から山など見えません。
 ま、団扇絵ですから、きれいで涼しそうなら、それでいいじゃないか、ということなのでしょう。
 
■戦時中の国防少年も団扇絵に



 これまた、妙にリアルな。地面に輪を描き、少女が飛んでいますね。この少女とお兄ちゃんの姿が背景の農村風景から浮き上がって見えて、トリップ感を感じませんか? 二人の影が、その効果(?)を生んでいるのかもしれません。不思議な絵柄です。



 こちらは戦時中の国防図柄。カッポウ着に日の丸の旗と『大日本国防婦人會』のタスキの女性。その後には戦争ごっこする男の子たちが。それにしても機関銃はいいとしても、刀では近代戦はムリと思うのですが‥‥‥。



 おっ、デカいキャベツ。いや、違うって。これは樽です。酒樽を「ヨイショッ」と持ち上げている一人前にハチマキ姿の子供。多分、酒屋か酒造メーカーの引き札(宣伝用のビラ)がわりの団扇絵でしょう。子供の労働姿もメデタく、可愛いらしいものです。
 
■夏の光の中にノスタルジアが



 おお、これは収穫祭か。トマト、カボチャ、キュウリ、ナス、ダイコン、カブ、リンゴ、スイカ、あれ、クワイ、サクランボ、それにバナナまである。伊藤若沖「野菜ねはん」の団扇版?
 お兄ちゃんの持っているブドウを爪先立って取ろうとしている妹。それを見て笑っている農夫、あれ? これは大黒様ではないですか。これまたメデタイ絵柄ではある。



 美人画団扇に入れてもよかったのですが、螢狩りをするシルエットに子供が描かれていたので、ここに紹介。
 女性のあでやかでありながら、いかにも涼しそうな着物姿と、モノトーン風の背景のコントラストがなかなか美しい団扇絵です。



 これはまた、季節は早や秋ですか。ススキの穂の向うには大きな丸い月が。それにしても狸の面をつけて太鼓腹で踊る二人の子の可愛らしさ。画の力量もなかなかのものです。人気のあった団扇絵だったのではないでしょうか。

 ところで、いよいよ本格的な夏、到来。「暑中お伺い申し上げます」。でも、このクソ暑い季節、私、好きです。
 夏の光の中で、時間の感覚がぶっ飛んで、妙にノスタルジアな気分になったりするのです。


坂崎 重盛 (さかざき・しげもり)
東京生まれ。
造園家を経て、編集者・ライターに転進。
著書に「TOKYO 老舗・古町・お忍び散歩」(朝日文庫)、「秘めごと礼賛」(文春新書)、「超隠居術」(角川春樹事務所)、「蒐集する猿」(ちくま文庫)、「東京本遊覧記」(晶文社)など。
 
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