【趣の庭】古書道楽「珍・本・版」
2008.04.07
ついに重盛センセイのヒョータン部屋に闖入
坂崎 重盛
写真
昔の苦学生の下宿のような 木造・長屋アパートの角部屋

春慶塗りの小さなチャブ台

重盛センセイの本置き場

これが重盛センセイの本置き場だ。鎌倉の古道具屋で買った春慶塗りの小さなチャブ台が手書きの執筆机。しかし部屋に主(ヌシ)の姿は見えない。【写真※】

 重盛センセイ、春休みのあとも、どうやら春風に誘われて、あっちこっち、ほっつき歩いている様子。
 われわれヒョータン仲間を置き去りにしたまま、部屋の主(ヌシ)はいない。
 それなら、こちらは前回に続いて、お留守番をかねてのヒョータン・パーティ。前回は、木版、石版画組が登場したが、今回は、立体もの、つまりヒョータンの形をしたオブジェ── 硯、墨、水滴、印、筆筒といった文具系から、虫籠、水筒、酒器、あるいは各種、単なる置物といったヒョータン仲間を紹介したい。
 これらはもちろん、重盛センセイの書斎、いや本置き場に寄せ集められたもの。
 この本置き場、木造・長屋アパート(かつての苦学生が借りていたような)の一室。トイレはあるが、風呂なし、ガス・水道はついているものの、ガスは使ったことがなく、開栓しないまま。
 ガラス戸や障子のガラスは、今や、骨董ともいえる模様入りスリガラス。夏になると、外の空き地から、カツラやニガウリのつると葉がからまり、(おっ、これはエミール・ガレではないか)という、アール・ヌーボーのパターンを映しだす。

   
机の上のヒョータン仲間

机の上のヒョータン仲間。左はヒョータンにナマズ。つまり、「瓢箪ナマズ」。右はヒョータン型の硯や墨。


スダレヒョータン

部屋のスダレがヒョータンつながありであってもいいじゃないか。ガラス障子の桟にはヒョータン柄の封筒や葉書きやポチ袋が。


アロハシャツ

机の上の筆筒の彫りの、おやや、アロハシャツの柄も‥‥‥。


奥まったボロ部屋(?)の一室を “夢の空間”に変貌させる

 春は、ブロック塀の向う隣りの古木の桜が散り、夕立のときにはプレハブ倉庫のトタン屋根にバラバラと雨のあたる音がうるさいけど、懐かしい。
 ともかく、そんなボロアパート(大家さんゴメンナサイ)の一室に、自宅から追い出しをくらった本を詰め込んで、そこで本の整理をしたり、メモをねったり、ときに、雑文を書いたりしている。
 JR、京成、都営新宿線ともに駅から徒歩五分。家賃、四万円。
 最初は、このビンボー臭さが“笑いをとれる”と思って一、二年の仮部屋のつもりだったのが、更新を、もう四回したので、八年もたってしまった。
 この間、人が訪れたのは十回に満たない。つまり、年に一回あるかないか。いや、ないな。せいぜい五、六回か。もともと、人を呼べるような部屋じゃないし。部屋を借りた当初は、まだ少しはスペースがあったけど、今は、自分一人が寝袋のようなマットに横になれるくらいの空間しかない。
 寝返りなど、うてない。ほとんど永平寺の修行僧の寝姿となる。
 部屋の主の重盛センセイというご仁、自分の巣作りに関してはなかなか達者なもので、どんな条件の場合でも、それなりに自分にとって居心地のいい空間を作り出す。人間ビーバーみたいなところがあるらしい。


そばちょこ、ちょうし、水差し

スダレヒョータン

部屋のあちこち、本の上に置かれたり、窓際にぶら下げられたヒョータン。陶磁器あり、ブロンズあり、象がん細工物あり、ヒョータンそのものあり。

そばちょこ、ちょうし、水差し

棚の一角にも。こちらは、そばちょこと、ちょうし、したの段には水差しもある。美貌の女性からのいただき物もあるが、それはナイショ。


“今をときめかないもの”好き だからヒョータンと出会った

 この部屋に、われわれヒョータンが集められたのも、このボロ部屋での(大家さんゴメンナサイ)無聊を慰めるためであったようだ。
 ところで、ここのヒョータン、いつ、どのように集められたのかといえば、そのきっかけは、たびたびの中国旅行のうちに覚めたものではなかったか。
 今日の日本では、ヒョータンは、すでに、ほとんど忘れかけられたもののようではある。
 着物、帯、手ぬぐい、といった伝統的な織物、布の柄や、九谷焼、伊万里焼、備前焼といった磁器や陶器の花器や酒器には見られるが、今どき、ヒョータンを見て「キャッ。カワイーイ」というギャルは、そう多くはいないだろう。また、ヒョータン柄をTシャツに刷って、ヘビメタを演奏する連中やヒップホップを踊る若者も‥‥‥見たことない。
 “今をときめかないもの”に対して格別の愛情を抱く癖のある重盛センセイのことだから、そんなヒョータンに気づき、入れ上げることになったのだろう。
 センセイがヒョータン物を集めていることが知られるようになると、友人、知人からの寄進も増えてきた。
 ヒョータン柄の、葉書き、封筒、便箋、ポチ袋、団扇、扇子、Tシャツ、タオルケットにバンケット。お猪口、ぐい呑み、お銚子、水差し。
 

“著名作家、自ら描く 絵ヒョータンもいただく


 
銀製、花柄ヒョータン水筒と浮世絵美人

ニブク光る洋銀製、花柄のヒョータンは水筒。右の浮世絵美人はかなりの大物。抱き心地バツグン!


器と虫籠

左のブロンズはズッシリと重い水筒が酒器。北京のドロボー市で見つけた。右のランタン風は──これは何だと思いますか? じつはコオロギを入れる虫籠。この中に、も一つヒョータンを入れてブラ下げた。


アロハシャツ

右は、とある超著名文士からいただいた大ヒョータン。「隅田川をステッキを手に散歩する重盛翁」がA先生の手によって描かれている。うれしいぞ。
左は、黄ばんだ畳の上の江戸版本と文鎮かわりのヒョータン。本は「絵本太平記」。この本の表紙が、やっぱり、ヒョータン。



机の上のヒョータン仲間

スダレヒョータン
ヒョータン形した棚〔冒頭の2枚目の【写真※】を参照〕に並べられた各種ヒョータン。ほとんどはスナッフ(嗅ぎ煙草)入れ。いや、よく見ると水滴もある。ぐい呑みもある。


 もちろん、本物のヒョータンもある。ほどよく艶の出た年代物。ヒョータン・アーティストによる絵の描かれた絵ヒョータン(その一つは、著名文士によるものもあり)。
 実にありがたい。実にうれしい。こういうプレゼント。新人のヒョータンがこの部屋にやってくると、われわれ先住のヒョータン組も心強い。
 しかし……どこまで増殖するのか、この部屋のヒョータン一族。本が勝つか、ヒョータンが勝つか?
 なんのなんの、勝負は最初からついている。われわれヒョータン一族の特技、特性は、世の万物、すべてを呑み込んでしまう、宇宙卵的能力である。
 その気になれば、この部屋の雑本など、一番小さなヒョータンでも、一呼吸。場合によったら、“喰えない”重盛センセイなども、気は進まないが軽く、ひと呑み。
 センセイ突然の、失踪、行方不明となったら、まずは、部屋のヒョータンを振ってみたら、いかがなものか。コロコロと、重盛センセイの転がる音がするかもしれない。
 ところで、外は花吹雪のようですねぇ。
 
ボクら碁でも打って遊ぼ

重盛センセーがいないので、ボクら碁でも打って遊ぼ。と、その横にも、ヒョータンのふたのきゅーすが。




 【お知らせ】
 ボロ部屋の本置場など、これまで一度も人目にさらさなかったのに、センセイ、なにをトチ狂ったのか、今回、雑誌『団塊パンチ』(それにしても、なんという雑誌名なんだ!絶望的で笑いがくるぞ!)で公開。担当編集者、ライターさん、カメラマンの絶妙の「トリオ・ザ・パンチ」のキャラクターにやられた!
 
 
坂崎 重盛 (さかざき・しげもり)
東京生まれ。
造園家を経て、編集者・ライターに転進。
著書に「TOKYO 老舗・古町・お忍び散歩」(朝日文庫)、「秘めごと礼賛」(文春新書)、「超隠居術」(角川春樹事務所)、「蒐集する猿」(ちくま文庫)、「東京本遊覧記」(晶文社)など。
 
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