古書道楽「珍・本・版」
2007.11.26
明治中期の「少年少女」本当時一流の文人・画工が健筆をふるう
坂崎 重盛
 
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 今回の見出しは、はからずも、いや、わざとらしく、俳句になってしまった。カッコ内の「露骨」というのは「好色」に対する説明ではなく、もともと私の俳号。
 たまたま駄句と俳号が、付きすぎてしまっただけ。しかし、我ながら、どうかと思う。文人ぶって俳号などを持ったりして。
 ま、そんなことはどうでもいい。
 読書の秋も終わろうとしている。先日の神保町の古書祭りも、ほとんど雨で気の毒でしたね。もっとも私は、お祭りのときは、神保町をザッと流して、本じゃなくて、主にそこを行き来する人間を観察に行くだけだけど。
 古本も面白いけど、古本を買いに全国から神保町という町に集まってくる人々の風体の種々相が、いっそう興味深い。
 若い女性(とくに美形の)などが、古本の台をのぞき込んでいるのを見ると、なぜか、訳もなく、同情を禁じえない。
 (あーあ、こんな若いみそらで古本さがしとは‥‥。なにか、もっとワクワク、ウキウキと心躍ることがないのかしら。世を捨ててるなあ)と、勝手に気の毒に思ってしまうのだ。
 とまあ、こんな話も、どうでもいい。
 話は、蔵書票である。

 
 
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 「EX−LIBRIS」(エクス・リブリス)とも表記される。
 自分の蔵書の「扉」や「見返し」にペタンと貼って「○○の本」という所有のしるしとする。
 日本でも古来から、所蔵する本に、自分の印などを押す習慣はあったが、わざわざ「票」という印刷物まで作って貼るというのは、ヨーロッパの伝統ではないだろうか。
 蔵書票の歴史、文化にうといので、そのへんのところはわからない。関連の図書も何冊か持ってはいるが、本置き場のどこかにモグリ込んでしまって、今、手元にない。
 いいんです。今回、私がやろうとしていることは、蔵書票の中の、単なる一ジャンル、好色、エロティックなデザインの、いわゆる「好色蔵書票」をここに紹介しようとしているだけ。

 
 
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 古本さがしなどしているとき、たまーに、こんな物件と出合える。箱の中に投げ入れられている場合もあるし、引き出しに「こっそり」という感じで納められていることもある。
 その所在に気づき、秘めやかに一枚一枚めくり、選ぶときの、胸のときめき。体も“ぽっ”と、ちょっとあたたくなったりして。
 そうして集めた「蔵書票」の一部を(といっても、本格的なコレクターではないので、コレクションの真似ごとにもならぬ数なのだが)紹介しよう。
 ちなみに、これら蔵書票は、著名版画家によるオリジナル作品。ほとんどが、数寄者からの注文によって制作されたもの。こういうオリジナル版画の蔵書票を実際に自分の本に貼るとしたら、よほどの本でなければ似合わないでしょうな。
 実際に蔵書票の貼ってある古本を私も何冊か入手したことがあるが、なぜか「負けた!」という気分にさせられるものです。(この人、ぜいたくな蔵書、ぜいたくな読書生活をしていたんだなあ)と、いやでも思わされる。

 
 
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 ということで、ここに掲載した「好色蔵書票」の簡単な注(ネーム)を付しておこう。まあ、私の注などまさに蛇足。じっと作品を見ていただき、これを制作した版画家、また、この作家に発注したクライアントの姿、心理を思い浮かべていただきたい。
 蔵書という陰微さと、作品のエロティシズムがあいまって、なかなかけっこうな世界がかもしだされてくるのです。掲載の蔵書票はほぼ原寸です。

 
1. エロティックな作風で著名な銅版画家・多賀新によるエクスリブリス。女性を拘束するマシンによって彼女の下腹部からは、なにか妙な気流が。その行きつく先に、男性と思われる自動人形っぽいオブジェが立つ。
2. 蒲池清雨作。美女の裸体に、シッカとからみつくタコ。タコと美女の取り合わせは北斎の錦絵が有名。左上のヒトデ(?)もなにやら無気味な動きをしている。蒲池清雨は好色蔵書の世界では超有名な作家。
3. 佐藤宏光の作。シンプルな描線で、しかも量感のある女体を表現した。ちょっと一九三〇年代前後の雰囲気のある作品。いいですね、こういうカンジも。
4. 坂東壮一作。この人も著名な版画家。キワドいエロティシズムには距離をおき、格調の高い作風。だから人気もあるが、だから物足りない、というドギツ派コレクターもいるだろう。
5. 風景木版画で著名な徳力富吉郎作。(ああ、この人も、こんな蔵書票を制作してたんだ)と、ちょっと驚きながら入手した記憶がある。
6. 宮下登喜雄作。猫好きのクライアントによる発注か、作者自身が猫好きか。上の「CATS」の猫の目の中の影が、人の形にも猿の形にも見える。
7. 古沢岩美作。ちょっとした美術好きなら誰でも知っている超メジャーな画家。古沢の女体、女体の古沢といわれるほど沢山の女体を描いた。古沢岩美の蔵書票を自分の本に貼る(貼らないでコレクションする人もいるだろうが)人は、どんな蔵書家なのだろう。その書斎を拝見したい。

 というわけで今回は、好色蔵書票のうち、日本の作家を取り上げた。次回は、海外作家編。これが、じつにキワドイ。大丈夫かなあ、掲載して。
 
 
坂崎 重盛 (さかざき・しげもり)
東京生まれ。
造園家を経て、編集者・ライターに転進。
著書に「秘めごと礼賛」(文春新書)、「超隠居術」(角川春樹事務所)、「蒐集する猿」(ちくま文庫)、「東京本遊覧記」(晶文社)など。
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