古書道楽「珍・本・版」
2007.08.27
明治中期の「少年少女」本当時一流の文人・画工が健筆をふるう
坂崎 重盛
 
写真

「風俗画報」
明治28年4月25日号当日の人気挿画家・尾形月耕描く汐干の図。竹篭の中はハマグリのよう。後ろの男たちは魚を捕えようとしているのかハシャいでいる。
 

 前回は、明治22年2月に創刊された「風俗画報」の創刊号と2号目を見てみた。今回は明治も半ば過ぎ、明治28年から2,3年きざみで「風俗画報」をのぞいてみたい。
 まずは明治28年4月25日号。表紙絵は尾形月耕描く「汐干狩の図」。次の巻頭カラー口絵が山本松谷による「現今各商店図其六こと問団子」。
 私がこの号の「風俗画報」を入手したのは、この口絵のためだったにちがいない。今日も向島の老舗として残る「言問団子」と、そのすぐそばの「山本屋・長命寺の桜餅」の様子が彩色石版画で描かれているのだ。

写真

同じ号に掲載の山本松谷描く向島墨堤の老舗、言問団子と山本屋・さくら餅。この二店とも現在も盛業中。
写真をクリックすると拡大写真がご覧いただけます。
(画面を閉じる際はブラウザのボタンで閉じてください)
 

 この口絵によって、往時の「言問団子」の店がまえや「長命寺の桜餅」の周辺の様子が手を取るようにわかって、実にありがたい。
 明治18年の春の桜満開の向島の光景に接しながら、それから百年ちょっとたった、現在の向島を思い浮かべる。今年も桜橋脇に、向島のきれいどころ(芸者)による茶屋が出た。一枚の石版画が、過去と現在の時間の往き来を可能にしてくれる。

写真

同号掲載の「上野公園桜丘の花見」。徳川家ゆかりの上野のお山は本来無礼講は禁じられていたはずなのだが。
 

 ページをめくってゆくと、
おや、「上野公園桜ヶ丘の花見」と題する、これも松谷による絵がある。当時の花見を楽しむ人々の風俗、表情が興味ぶかい。三味線を手にした人物もいるし、ひょうたんを背負った人もいる。明治の、このころまで物見遊山などの外出には、ひょうたんが酒入れ、また、水入れとして用いられていたことが、この絵からもわかる。

写真

「風俗画報」明治30年8月10日号美人の緑陰の読書は夏の定番的画題。年下の彼女の手には「風俗画報」らしき雑誌がチラっと見える。ちょっとした遊び心。
 

 この号には、他に、初代豊国描く「文化年間江戸髪結床実況」がある。豊国の人物や動物の描写の魅力もあって、まさに髪結床の「実況」となっている。また、坪井正五郎による「コロボックル風俗考」(図入り)がこの号から始まっている。

写真


同号の松谷による「目黒不動の滝の図」。明治時代の目黒にこんな滝があったとは。そのころの東京は今よりもかえって過ごしやすかったのかもしれない。

写真をクリックすると拡大写真がご覧いただけます。
(画面を閉じる際はブラウザのボタンで閉じてください)
 

 次は、明治30年8月10日号。さて、なんでこの号を買ったのだろう。表紙「緑陰読書の図」は特別、私の興味をひくものではない。見開きの口絵を見る。なるほど、これか。山本松谷による「目黒不動滝の図」。
 明治の東京で滝といえば、まずは、王子の滝だろうが、目黒不動の境内にも滝があったのか。滝に打たれる人、滝の近くで滝をとる人々の情景。洋装の紳士、子供もいる。
 明治の人、和装も洋装も相当オシャレである。細部を見れば見るほど、明治という時代の空気になじんでいってしまう。
 本文ではすべての口絵に対する解説がある。「目黒不動尊境内の浴瀑」と題する、山下重民による解説文がある。ここに、東京市内外の瀑(たき)の紹介があり、参考になる。
 もう一つ、見開きカラー口絵がある。「京都御所園の弁天池の真景・京都金閣寺蓮」。8月号ということで、京の蓮池二ヵ所を掲げている。
 おや、モノクロではあるが見開きで「入谷水の谷松源分店の図」がある。これはまた……今の台東区入谷が、こんな水の都だったとは。もちろん、当時から入谷は朝顔で知られた町でもあった。

 
写真

「風俗画報」明治43年1月31日号新春の出版社風景。このころはまだ江戸の絵双子屋の雰囲気が残る。
 

 その他、口絵の量も創刊時からくらべるとぐんと多くなっている。手にした感じでもボリュームがある。そのはず、創刊号では28ページだったが、この号は38ページとなっている。
 さて次は、明治34年1月31日号。表紙にフセンが貼ってある。目次には「初売の図」とあるが、これは明治の出版社(「風俗画報」の版元の東陽堂?)の正月の光景である。小さな子供までもが、店内で本をかかえて働いている。いわゆる丁稚(でっち)さん。

 巻頭口絵は「美人観雪竹図」。いわゆる、季節美人風俗画。
 ああ、本文中に写真版が出ている。江戸時代からの木版画、そして明治の銅版画、石版画に取って替わって登場するメディアの最新兵器・写真版である。写真版があれば、手間のかかる木版や、銅版、石版はもういらなくなる。
 この写真版の登場で一世を風靡した明治の石版印刷は、その短い生命を終えることになる。
 といっても、この号にはまだ石版口絵のページは多い。しかし、どこか絵に精彩がない。「風俗画報」を舞台に活躍した山本松谷も表紙以外は一点しか筆を取っていない。しかも、はっきり“手抜き”の仕事といっていい。
 これは写真版の登場によって、石版画工たちが(われらの時代はすでに終りか)という気分になってしまったのではないか、と私には思われる。


同号の口絵。風景は洗石、人物は洗蝶(?)の合作。江戸錦絵の風景は広重、人物は豊国の伝をならったか。

同号に掲載された写真ページ。当時最新のメディアではあるが、この写真版の登場により明治石版は衰退を余儀なくされる。
 
  続きを読む
 
 


トップページ会社紹介著作権についてお問い合せ
Copyright (c) Flying Garden Rights Reserved.