【趣の庭】古書道楽「珍・本・版」
2007.03.26
Vol.4 この一冊が“日本の風景”を生んだ 志賀重昴の 『 日本風景論 』
坂崎 重盛
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平背で、いわゆるソフトカバーなのに絹ひもで和とじ風。これも明治の和洋折衷スタイルか。
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大人になってよかった
 大人になって気がつくのだが、大人になるってなんて素敵なことなんだろう!ということがある。
もちろん、憂き世の身すぎ世すぎに疲れ果てて青息吐息、うなだれて地面を見て歩くこともあるが、たとえば、ある一冊の本を手に入れたとき、たった、そんなことが、(大人になって本当によかった!)という喜びを与えてくれる。
志賀重昴の 『 日本風景論 』、は私にとってそのような存在の一冊である。
明治の中期に刊行された、この 『 日本風景論 』 の原本が自分の手もとにある、などという事態は、若いころには思ってもみなかった。若いころ、とは自分が大学生のころのこと。大学では 「 造園学原論及風景計画 」 というコースを専攻した。
  そこで、日本風景論史の講義を受けたのだが、この志賀重昴の 『 日本風景論 』 が明治以降の日本人の風景観に大きな影響を与えた画期的書物であることを知る。
 
富士山のように堂々とそびえ立つ
 日本人が 「 風景 」 という言葉を得たのは、この 『 日本風景論 』 によってである、ということも教えられた。 『 日本風景論 』 は、それこそ、風景論における富士山のように麗しくも、堂々とそびえ立つ存在であった。
  私の手もとには、岩波文庫に収録された 『 日本風景論 』 (初版は1937年。私のは1976年10刷) と講談社学術文庫の上・下二刊として出版された 『 日本風景論 』 (1976年刊) があった。
 
 文庫判でも 『 日本風景論 』 の魅力は存分に伝わってくる。まず目に飛び込んでくるのは随所に配された木版による挿画である。「 雪湖 」 と号の入った、いわゆる浮世絵版画風の作品と、一部、「 天葩刀 」 という名の見える、エッチング風の細密風景画である。
  版画知識を少々身につけた今では、これは目のつまった、堅い、木口を使った木口木版画であることはわかるが、最初はエッチングによるものと思い込んでいた。
 
 もっとも、岩波文庫の解説には 『 日本風景論 』 の挿画についての言及がある。それも道理、解説者は、前回紹介した 『 浮世絵と風景画 』 の小島烏水である。(1995年の改訂版からは、これに近藤信行の解説が加わる)
  志賀重昴の 『 日本風景論 』 によって山岳美というものの存在を知り、自ら日本近代登山史のリーダー的存在となった小島烏水、また広重、北斎による風景画 (というより江戸時代は名所絵) のコレクターにして著述家でもあった烏水ならではの解説が昭和12年初版の岩波文庫版の巻頭に付された。
 
 明治の版の 『 日本風景論 』 は、向うから飛び込んできた。古書との出合いの、もっとも伝統的でもっとも喜ばしい一瞬である。
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画面左/『日本風景論』の本文中の挿画。奇観だからこそインパクトがある。右が木口木版画。まるでエッチングのようだ。【写真を拡大する】
画面右/左の如義山も奇観。しかし右の「理想上の日本」こそ、JAPANのステレオタイプの風景を決定したと思える。【写真を拡大する】
 
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