【趣の庭】古書道楽「珍・本・版」
2007.01.29
Vol.1 シゲモリ先生と遊ぼう ついに入手したぞ 『新富町多與里』
坂崎 重盛
 長年の古書店通いの古書道楽のため手元に集まってきた、少しは珍しい本や、ときには明治や戦前の石版や木版の刷り物を紹介してゆきたい。故に、題して「珍・本・版」。
  資料的に価値があるもののたまにはあるかもしれないが、なんでこんなものを、という本や版を取り上げることが多くなるだろう。道楽優先でゆくつもりだ。
  で、幕開けは、ぼくにとってはかなりの大物、ずっとねらっていた、少雨荘こと斎藤昌三の「新富町多與里」。
イラスト
写真  この本、戦後の昭和二十五年一月一日、芋小屋山房刊。本文一八二頁。見開きに自筆の題字、署名入り。それはまあいい。ところが、表紙が並みではない。
  今は、みることがなくなった紙型に、これは亜鉛版だろう金属版で「新富町多與里」と、タイトルが逆版ではめ込まれている。
  著者の斎藤昌三は、凝りに凝った装丁で知られた道楽出版の巨人であり、“ゲテ装”の小雨装(昌三の号)を自認していた。

  この「新富町多與里」前半は斎藤による書誌「書物展望」(昭和六年七月創刊)の編集後記の中から抜粋、構成したもの。自ずと、斎藤をめぐる書痴仲間との交流、また当時の出版界、文芸界の消息が記録される。
  後半は、新聞、雑誌等に掲載された、これも書痴、書誌がらみの話、あるいは昌三の眼に映った世態風俗の話が収められている。
  斎藤昌三の生涯や仕事ぶりに少しでも関心を持った人間は、かならずやこの「新富町多與里」を手にとってみたくなるのではないか。
  そして一度、この本を何かの機会に手にしたら、なんとか保存の良いものを入手して自分の身の傍に置いておきたいと思うのにきまっている。
 
 しかし、刊行は三百部である。その三百部の「新富町多與里」が、それぞれその後、どのような運命をたどることになったかは知るよしもない。ある本は雨水で濡れ、ある本は火でこげめを作り、ある本はネズミにかじられてしまったかもしれない。
  しかし、そのうちの一冊が、ほとんど「極美」といっていい状態で、ぼくの目の前に現れたのである。
(生きていてよかった!)
と腹の底から喜び筋がせり上がってくるのは、こういう時である。

写真
 そう、書き忘れるところだった。この本、ダンボール函装。その函に自筆の肉筆原稿用紙が一枚ずつ、貼ってある。
 蛇足・斎藤昌三のことに興味を抱いた人は八木福次郎「書痴 斎藤昌三と書物展望社」(平凡社刊)を必読すべし。
 
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坂崎 重盛 (さかざき・しげもり)
東京生まれ。
造園家を経て、編集者・ライターに転進。
著書に「秘めごと礼賛」(文春新書)、「超隠居術」(角川春樹事務所)、「蒐集する猿」(ちくま文庫)、「東京本遊覧記」(晶文社)など。
 


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