【趣の庭】軽井沢便り
2012.4.24     
Karuizawa Journal

東京「谷根千」に引っ越し

小さな店がイキイキ、下町情緒を楽しむ

荒井 久  


 この3月末に、東京オフィス兼自宅を文京区千駄木2丁目に引っ越した。写真はちょうど1年前に、同じ「不忍通り」の並びに新開店した「つけもの屋」さんの「やなぎに桜」。道路に面しての店幅はなんと1間半しかない。中に入ってみると、全国の美味しい漬物が所狭しと並べられていた。もちろん、この店独自の「旬の漬物」も並ぶ。残念ながら、「採れたて長野」で扱っている「野沢菜漬」(野沢温泉村)は置いていなかった。ただ、こういう小さな小さな店の営業が成り立つ街、ということが言いたいのだ。今回はこの街の紹介といこう。


 この辺一帯は「谷根千」と呼ばれる。台東区谷中と文京区根津、文京区千駄木の3エリアが一体化した街並みである。千駄木の先には荒川区日暮里があり、こちらも同じような文化圏である。地下鉄千代田線千駄木駅付近が、その中心とも言える。とにかく小さなお店がぎっしり並び、それがとにかくみんな元気なのだ。どこぞのシャッター街とは大違い。大型店舗は皆無だ。実は1軒だけ、シャッターを下ろして店じまいした店を見つけた。
「56年間ありがとうございました。2月で閉店いたしました。 いなり寿司 いそ貝店主」。シャッターの真ん中に、そう貼り出されていた。そうか。いなり寿司だけ一筋に56年間。感慨深いものがこみ上げた。

 根津駅前の交差点角で、鶏の唐揚げ専門店を見つけた。結構、人気。僕もニンニク入りとハーブ入りの2種類を求めた。1個単位で買えるのがいい。商品数は10点足らず。これだけで商売できるのが、この街ならでは。これがなんとも美味。以前、どこの国にも鶏の唐揚げ専門メーカーがあるのだそうで、それがない日本は珍しいと聞いたことがある。日本では米国生まれのケンタッキーフライドチキンが有名だ。根津発「とり多津」が東京中に、日本中に羽ばたく日を夢見たい。


 引っ越し先は千駄木2丁目交差点近くの12階建てマンションの11階。東側に広がる住宅街の先に話題の東京スカイツリーが見える。南西側150メートル先には根津神社。その前は日本医科大学付属病院。つい最近、思想家の吉本隆明さんがここで亡くなられた。根津神社の裏側には、これまた話題の東京大学地震研究所。他よりも頑健に建造されたと記されている。確かに、地震で地震研が倒壊したら意味をなさない。地震研と病院の間で、神社がお守りしてくださっている。そう思っておこう。

 この地に引っ越して一番最初に思い出したのが「地域雑誌 谷根千」。確か、森まゆみさんという方が主宰していて、何かの折に取材した記憶が残っていた。まずは、隣のマンションの1階にある「往来堂書店」という小さな地域書店を覗いてみた。やはり、そこには多くのバックナンバーが残されていた。ただし、「もう3年も前に休刊になりましてね」と店長。最後の方の「季刊其の92号」を見つける。2009年3月31日発行だった(A5判、本文64頁、525円)。そのあとがきに、次号が谷根千最終号ですと明記されている。その後に、森まゆみさんと電話連絡が取れ、実際は94号が最後であることが分かる。「営業的に成り立つものでもありませんので」と。今はネットで活動しているという。森まゆみ著「谷根千の冒険」も出版されているそうな。今度、読んでみよう。


 この街には、この街に似合った自転車を。僕はそう思って、この自転車を求めた。千駄木駅近くの自転車屋さん。車輪が20インチで小回りがきく。色もまあまあ。珍しいのは買い物籠がハンドルの真ん中に位置していること。大きくてがっしりしている。安売りで2万円ちょっと。クレジットカードを差し出したら「現金だけ」と拒否された。もしかしてこの街ではほとんど。クレジットカードが使えないのかも知れない。

 この自転車で出かけたのが根津駅近くの裏通りにある「根津とうふ工房 須田」。ここは谷中の住人に嫁いだ姪に教えてもらった。とうふ工房がやっているランチ。席は12席のみとこじんまりしている。


 最初に濃い豆乳。続いて大盛りの出来立てザル豆腐と油揚げの田楽。そして豆腐と野菜のあんかけ、炊き込みご飯、味噌汁、お新香。最後に豆乳の胡麻プリン。すべて絶品。大満足で1050円なり。

 売り場には、豊富な豆腐製品が並ぶ。美味しい豆腐を作り、その加工品を極めている。日本が誇る食文化だ。


 自転車を得たことから、谷根千からややはみ出すところまで行ってみる。千駄木の裏通りから右に延びる谷中銀座商店街。車は入れず、そこに70軒もの個人店が繋がる。その先の突き当たりは山手線日暮里駅。もうそこは荒川区だった。駅のすぐ手前にある不思議なトルコレストラン「ザクロ」。座って食べる空間に惹かれた。

 入ると、食べ放題のセットで2000円という。とにかくトルコ料理中心にエスニックな料理が山ほど出される。店主のエンタテナー振りにも感心。途中で30分くらいベリーダンスの踊り手が入る。これは別途500円。やや怪しげな踊り、お客も引っ張り出されて大パーティに。とにかく楽しい。


 さてこちらは、和の空間で洋を演出する「千駄木 露地」、イタリアンだ。築80年の日本家屋を改築したのだそうだ。こちらは家に近いこともあって、まだ入っていない。結構な賑わいをみせている。

  この地を散歩していて、小さなカフェの多さに驚く。それぞれにそれぞれの特徴がある。近くにある「おにぎりcafé 利さく」。ランチでもおやつでも良い、おにぎり。なかなかのアイディア。


 入口に「ご注文をいただいてから握ります」とあった。約20種類のおにぎりが1個200円か230円。この日の旬の握りは「桜」。ひとつオーダーして珈琲を楽しんだ。


 すぐ、その反対側にあるのが「books&café BOUSINGOT」。ぶーざんごと読む。店長厳選の古本を楽しみながら(売っている)の珈琲。洋書、写真集が多い。そこはまるで、パリの路地裏の一角のような佇まい。

 通常の営業時間は午後5時から深夜11時。たまにはゆっくりした静かな夜を過ごしたい方にはお勧めだ。

 他にも、美味珈琲で有名な「森の珈琲」を飲ませてくれる店や、珈琲豆専門店がその2階で珈琲を飲ませてくれる店など、その数は極めて多い。なにせ、当マンションから千駄木駅まで400mの不忍通りに8軒ものカフェがポツポツと並ぶ。

 この街ならではと思ったのが、こんな店。和風の紙を利用した紙細工、風呂敷など、珍しい商品が並ぶ「大福帳」。そして、焼き煎餅の専門店。それぞれ、なんとも伝統を感じさせてくれるお店だ。

  とにかくこの街は少ない紙面(Web面ですか)では語り尽くせない。最近の解説はアスペクトムック「上野・谷根千を極める!」に譲りたい。



荒井 久
1945年、長野県生まれ。1968年、東京電機大学電子工学科を卒業して日本経済新聞社に入社。日経BP社で日経ニューメディア編集長、日経コミュニケーション編集長などを歴任。「コンピュータ・テレフォニー」「ビットバレーの鼓動」「モバイル・インターネットの鼓動」「Web2.0の鼓動」など著書多数。02年、株式会社ソリック(www.soriq.jp)を設立、代表取締役として現在に至る。09年1月、ソリックブックスとして藤原忠彦著「平均年収2500万円の農村」を刊行。08年06月から軽井沢の貸し別荘「軽井沢ヴィラArai」( http://www.karuizawa-villa.com )を、さらに09年6月からは、長野県下の名産物をネットで販売する「採れたて長野」( http://www.rakuten.co.jp/toretatenagano/ )を経営している。

 
 
 


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