【趣の庭】軽井沢便り
2011.5.10     
Karuizawa Journal

清水俊二、村上春樹を読み比べエッセイ

70代の行動パワー、恐るべし

荒井 久  


   写真の方は松原元信さん、75歳。「3冊のロング・グッドバイを読む―レイモンド・チャンドラー、清水俊二、村上春樹―」(ソリックブックス)の著者だ。長いサラリーマン時代を終えて、初のエッセイに取り組んだ。出版には最初の原稿から2年間も費やした。どうやら、一番愉しんでいるのは著者自身のようだが、その洒落た筆の運びに、読者も充分に愉しめる。

   僕の「軽井沢便り」はオフビジネス風のネーミングだが、そうではない。すでに多くの方がご存知のように、僕は貸別荘「軽井沢ヴィラArai」を運営していて、オンビジネスだ。とはいえ、僕の本業は出版ビジネス。まずは出版が基本にある。最初は他の大手出版社からの出版をお手伝いしてきたが、この頃は自社でも出版するようになった。

   それで昨年10月にソリックブックス第二弾で出版したのが、松原元信著「3冊のロング・グッドバイを読む」というわけだ。第一号が長野県川上村長の藤原忠彦著「平均年収2500万円の農村」だった。ちなみに、これが縁になって、長野県下の美味しいものを選んでネット販売する「採れたて長野」の運営につながった。

   さて、前述の松原元信さん。早大生の頃に仲間と同人誌を編んでいたというから、その片鱗が残されていたのであろう。それにしても、早大政経学部経済学科を卒業して、どうみてもお堅そうな東洋電機製造株式会社に入社。それ以来、71歳までその会社一筋のサラリーマン(最後は10年間、副社長)というから、文芸評論分野では失礼ながら素人であろう。

   しかも、こともあろうに、ハードボイルドの巨匠「レイモンド・チャンドラー」の名作「ロング・グッドバイ」をテーマに、往年の清水俊二訳、そして最近になって刊行した村上春樹訳を相手に、痛快にその訳の違いを愉しんでしまった。

   サラリーマン生活を終えたところに、村上春樹訳「ロング・グッドバイ」が著者の前に現れる。若い時に読んだ感動を再びと読んでみるのだが、どうもしっくりいかない。何がどう違うのか。そんな疑問をもったようだ。それをさらに刺激したのが、村上春樹氏の長い「訳者あとがき」。清水俊二さんは映画字幕が有名だっただけに、訳文はやや映像的、時に訳を端折ると言われている。それを意識してのことだろう。村上氏は、こんなふうに綴っている。

   「完全な翻訳」か「多少削ってあっても愉しく」かは読者にお任せしたい。「併せて楽しみたいという熱心な読者がいればとても嬉しい」と。どうやら村上氏は「完全翻訳」を試みたという自負があるらしい。

   となれば、原書に当たってみなければどこがどうなのかがわからない。そこで、極めて典型的なサラリーマン人生を引退して時間ができた松原さんは、70歳を超えた老体に鞭打って「3冊読む」ことに挑戦したのだった。その作業は奥深く、難儀なものではあったが、とてつもなく愉しいことだったと振り返る。さらに、いろいろと調べて車、煙草、ピストルなどのスケッチまでしてしまったというから驚く。その絵かきセンスも玄人並だ。最初は、ご自分で表紙のデザインまで描いてこられた。

   その行動力には舌を巻く。もっと売れないものかと、この頃は書店回りを始めた。自分の著書を書店に置いて販売してくれないかという、いわば行商みたいなお仕事。もともと、本が完成したら東京・銀座の道端で露店販売してみたいとも言っていた。至って紳士なオジサマなのだが、庶民的な側面も見せてくれる。自称、横町の爺さんだ。東京・六本木での出版パーティでも多くの方々が詰めかけて祝った。

   ところで、ソリックブックス第一号の著者の藤原忠彦さんも今年73歳。2年前の出版だったから71歳の時だった。川上村長として6期目で長野県町村会長としてもご活躍だったが、さらに昨年、なんと全国町村会長に推挙された。こちら藤原忠彦さんの70代パワーにも驚く。

   長野県下での信望は厚く、有志で開催された長野市での出版パーティには当時の村井長野県知事をはじめとして県下の蒼々たるメンバー約100名が詰めかけた。すでに「採れたて長野」を始めていた僕は、村井県知事に「長野県を売ってくれ!」と大いに激励されたのだった。

   さてさて、さらに。今、第三弾のソリックブックスの執筆が進んでいる。執筆者は長野県の南先端に位置する根羽村の小木曽亮弌前村長だ。この4月まで5期20年間の村長生活だったが、健康を理由に退いた。20年前の選挙で選ばれた後は選挙をしていない。それだけ村内外の評価が高かった。その前村長がこれまでの自分の経緯を語り、次世代にメッセージを送る。こちらもなんと72歳。ソリックブックスは目下、「70代パワーブックス」だ。

   根羽村は人口わずか1000人強の小さな奥深い村だ。小木曽前村長は森林事業を立ち上げ、ネバーランドを立ち上げ、いずれも黒字経営に。「ネバーギブアップ」の精神で頑張ってきた。今や、根羽杉と美味しい水で有名な豊かな村に育てた。「採れたて長野」でもネバーランドの美味しい牛乳やヨーグルトなどを販売している。

   というわけで、今回の軽井沢便りは僕の本業レポート。いずれも70代パワーに気が付いたからでもある。そうそう。70代のあなたも、自伝の執筆に挑まれてはいかがだろうか。


荒井 久
1945年、長野県生まれ。1968年、東京電機大学電子工学科を卒業して日本経済新聞社に入社。日経BP社で日経ニューメディア編集長、日経コミュニケーション編集長などを歴任。「コンピュータ・テレフォニー」「ビットバレーの鼓動」「モバイル・インターネットの鼓動」「Web2.0の鼓動」など著書多数。02年、株式会社ソリック(www.soriq.jp)を設立、代表取締役として現在に至る。09年1月、ソリックブックスとして藤原忠彦著「平均年収2500万円の農村」を刊行。08年06月から軽井沢の貸し別荘「軽井沢ヴィラArai」( http://www.karuizawa-villa.com )を、さらに09年6月からは、長野県下の名産物をネットで販売する「採れたて長野」( http://www.rakuten.co.jp/toretatenagano/ )を経営している。

 
 
 


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