【趣の庭】軽井沢便り
2010.1.24     
Karuizawa Journal

研ぎ澄まされた信州人の心が

絶品の豚まん、あんまんを創る

荒井 久


「軽井沢便り」は筆者が軽井沢で貸し別荘を営むことがきっかけだった。
今は少し商売を拡げて、軽井沢から全国に発送するネットショップも運営している。「採れたて長野」がそれだ。
長野県佐久市出身の筆者が、長野県内の美味しいものを探し続けている。その中で、これぞという名品を「採れたて」で提供しているわけだ。

実は「天空の川上レタス」をネット販売するのが当初の目的だった。ところが今や、米、蕎麦、餅、おやき、酵母パン、どんぐりパン、味噌、無農薬野菜、信州牛、馬刺し、佐久鯉、果物、ジュース、菓子、漬物、珈琲、ジャム、蜂蜜、調味料などなど150種類以上に上る。

ここに至るまで約2年近く。広くてけわしい信州・長野の山間までも訪ね歩いた。北信州の隣は新潟県であり、南信州の隣は愛知県豊田市だ。長野県はなんと8県に接している広い県なのだ。その行脚は今でも続く。それでもなお、まだまだ新しい発見がある。

今回の豚まん、あんまん。
研ぎ澄まされた信州人の心とこだわりが生んだ傑作とみた。
開発してから4年にもなるが、まだまだ世の中にはそれほど浸透していない。そんな開発物語をこの場で語れるのは嬉しい。



南信州豚を炙って作りこんだ豚まん2種。
それと今や珍しい鬼胡桃入りのあんまん。



予め、味見していた筆者は突然、飯田市の同社を訪ねてみることに。直前に近くから電話を入れた。主旨を聞いた電話の女性がこう答えた。
「総務の私でよろしければお出でください」。受付の女性かと思ったのだが、とにかくきっかけを作る必要があった。

お会いしてみると、なんと取締役総務部長、開発チームの宮下千文さんであった。しかも、話が弾むうち、社長の宮下茂樹さんも登場して驚く。運がいい。柔和な表情の中にも、目はキラキラと輝くのが印象的だった。



「氷屋が肉まん、あんまんを作るんですかとよく言われます。私たちの心で、ここ信州飯田の環境を活かした特産品を創りたい。その一心で永年の研究を続けてきた結果なのです。私たちは東山道というブランド名を付け、商品をほかまんと呼んでいます」。

古代、大和朝廷によって作られた岐阜から長野、そして東北に続く道が東山道であった。中でも長野・岐阜の県境にある神坂峠が交通の難所であり、要衝。その古代の道にちなんでブランド名を決めたという。

東山道のほかまんには、3つの商品がある。評判の高い南信州豚を「炙った」しお豚まんと甘辛しょうが豚まん。伊那谷自生の「鬼胡桃」を使ったあんまん。いずれも、どこにもない逸品の「豚まん」と「あんまん」だ。もちろん、いずれも合成保存料、添加物、着色料などを一切使っていない。



「伊那谷に自生する鬼胡桃にこだわったのは私なんです」。
そう語るのは、開発を担当した宮下千文さんだ。信州生まれの年配者にとっては懐かしい鬼胡桃。実が堅くて小さいから、中身を取り出すのが極めて困難。しかも、取り出せたところで、身は小さい。だが、その味は濃厚で抜群に美味しい。

食料事情が変わった今時、そんな鬼胡桃を採集する人達もいなくなった。古くから伊那谷の川べりに自生していた鬼胡桃。この地の化石でもその存在は知られる。

どうしても鬼胡桃が欲しくなった宮下千文さん。地方事務所の農政課に相談したところ、職員の方のご協力で話はまとまった。
お年寄りの冬場の暇仕事に、なにより健康のためにもなる。
そんな千文さんらの努力で、何とか確保の筋道ができた。
それを上品な厳選中華餡とともにふっくら生地で包んだ。
これで、地方色豊かで美味しいあんまんが完成した。



豚まん、あんまんの開発に中心的役割を果たしたのは、もう一人の実力女性。宮下千文さん(写真右)同様に食にこだわりを持つ前沢洋子さん(同左)だ。この二人の美味追及に会社全体が引っ張られていった。

豚まんについては、製造過程での水分が課題だった。そこであみ出したのが旨みを封じ込める「炙り」手法。そして、その炙りに合う「しお味」と「甘辛しょうが味」の2種類が生まれた。

一つ目は、新鮮な南信州豚を「しお」で熟成。その後にさっと炙って間髪を入れずに冷やして締める。その手間ひまかけた技で、炙りの香ばしさと旨みをふっくらとしたお饅頭に閉じ込める。これで、シンプルなのに飽きない「南信州豚炙りしお豚まん」が出来上がる。

一方の炙り甘辛しょうが豚まん。
こちらは、新鮮な南信州豚を甘辛のタレに漬け込んで熟成。その後にさっと炙り、間髪を入れずに冷やして締める。炙りの香ばしさと甘辛しょうがのコンビによる旨みを、ふっくらお饅頭に閉じ込める。これで上品で懐かしい味の豚まんが完成する。

ちなみに、この甘辛しょうがにも開発チームのこだわりがあった。しょうがは通常、調味料として使うのが一般的。だが同社は、千切りのしょうがを具材として使う。開発の過程で、すり下ろししょうが(調味料)と千切りしょうが(具材)では、豚肉と合わせた時の旨みが格段に違ったという。

開発チームや宮下茂樹社長からは、研ぎ澄まされたような心構えが漂う。それは、永年の製氷事業で培われてきた企業文化に違いない。

同社の歴史を紐解いてみると、すでに創業から110余年の歴史がある。明治33年(1900年)創業の氷屋「宮下氷問屋」がその前身だ。南信州の大地と共に企業風土を創ってきた。

中央アルプスと南アルプスの中間部、いわばその谷間に位置する同社の信州飯田工場。その地下150メートルには、質・量ともに恵まれた、中央アルプス系の天然水に辿り着く。環境省の名水百選に選ばれた「猿庫の泉」の下方に眠る地下水脈だ。

環境に恵まれた南信州。その「宝物」を掘り当て、事業、商品の高度化を続ける同社。加えて、不純物を99.99%除去するという高度な製造技術が、名品「信州の氷」「純氷」を生んだ。

炙り豚まんと鬼胡桃入りあんまんの開発も、その延長線上にある。

荒井 久
1945年、長野県生まれ。1968年、東京電機大学電子工学科を卒業して日本経済新聞社に入社。日経BP社で日経ニューメディア編集長、日経コミュニケーション編集長などを歴任。「コンピュータ・テレフォニー」「ビットバレーの鼓動」「モバイル・インターネットの鼓動」「Web2.0の鼓動」など著書多数。02年、株式会社ソリック(www.soriq.jp)を設立、代表取締役として現在に至る。09年1月、ソリックブックスとして藤原忠彦著「平均年収2500万円の農村」を刊行。08年06月から軽井沢の貸し別荘「軽井沢ヴィラArai」( http://www.karuizawa-villa.com )を、さらに09年6月からは、長野県下の名産物をネットで販売する「採れたて長野」( http://www.rakuten.co.jp/toretatenagano/ )を経営している。

 
 
 


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