【趣の庭】軽井沢便り
2010.5.31     
Karuizawa Journal

浅間山と木曽御嶽山
どんぐりが結ぶ20年の縁


荒井 久


郷土料理「ひだみ」のどんぐりこうひいセット

「ひだみ」が作るどんぐりパイ、どんぐりパン、ひだみサブレ

「どんぐりは、山の神様からの贈り物」
「私にはそうしか思えないんです」

連休中の5月2日に訪ねた、木曽御嶽の麓「王滝村」で。
郷土料理「ひだみ」の主、瀬戸恵美子さんはそう語る。

「ひだみ」はこの地の方言で「どんぐり」のこと。
郷土料理「ひだみ」はどんぐり専門店だ。
どんぐりを中心にした「ひだみ定食」のほか。
どんぐりパンにどんぐりパイ、ひだみサブレ、どんぐりこうひいなどなど。

どんぐりパイ。どんぐり粉だけで作ったあんをパイ生地でで包み込んでこんがり焼いた。

その技は、どんぐり食研究家と呼ぶにふさわしい。 とりわけ僕は、どんぐりパンが気に入った。 旨い。
普通では食べられない物の「食」への挑戦。 そこにはだかる大きな壁を突破した時に訪れるご褒美。 それはまさに、「神様からの贈り物」に違いない。

瀬戸恵美子さん(左)、田中初子さん(右)はいわば、どんぐり食研究家

瀬戸さんがここに「ひだみ」を開店して20年。
その2年後くらいに田中初子さんが加わり。
二人で「どんぐり食」を研究してきた。
20年の歳月が、二人をどんぐり食の「神業」に導いた。

「ひだみ料理」の中には当初、「こうひい」の発想はなかった。
この王滝村が大好きだという、ある大学教授からの提案だったという。
「どんぐり珈琲」に挑戦してみたらどうだろう、と言われたのだ。

その大学教授とは、市川健夫東京学芸大学名誉教授。
そう言われて、僕の脳裏で木曽御嶽山と浅間山が結びつく。

昨年5月9日のことだ。
軽井沢町が「どんぐり返し運動」20周年を祈念して講演会があった。
その講師が奇しくも市川先生だった。

2009年5月9日、軽井沢町での市川健夫東京学芸大学名誉教授の講演会

その講演と、翌日のどんぐり返しの報告は、ここでも書いた。
http://www.soratobuniwa.com/hobby/karuizawa/index11.shtml

今年20年を迎えた、王滝村のどんぐり料理「ひだみ」。
昨年20年を迎えた、軽井沢町の「どんぐり返し」運動。
その間を取り持つ、市川健夫先生。
森が育む人と人とのご縁だ。

ちなみに、軽井沢町の「どんぐり返し」とは。
浅間山の火山灰地にどんぐり系の木を植樹する運動。
子供たちがどんぐりを拾い集めて苗を生やし。
3年目に育ったところで、火山灰地に植樹にいく。
みんなで植樹しようという運動だ。

どんぐり運動の会会長の星野裕一さん。

どんぐりを山に返すから、どんぐり返しだ。
そのどんぐり運動の会長は、地元の星野裕一さん。
昨年までで、もう22年も続けている。
昨年も、この運動に約200人も参加した。
太陽のエネルギーを得て、どんぐりが火山灰の山を豊かな森に変えていく。
それを人間がお手伝いする。
活火山の浅間山と人間との戦いだ。

2009年5月10日のどんぐり返しに約200人が参集した。

一方の木曽御嶽山は、ウィキペディアなどのよれば依然として活火山なのだが。
774年と1892年に噴火活動があったとされる程度で。
それほど目立った噴火活動はない。
いわば、どんぐり林では浅間山の先をいく。

すぐ傍にも、どんぐりの実がたくさん落ちていた。

そのどんぐりをすぐさま茹でる。
まずは虫だしをするわけだ。
放っておけば、どんどん虫に食べられてしまう。

釜茹でされたどんぐり。陰干しする。

そして、今度は時間を掛けて天日干し。
しっかりと乾燥が進んだところで、今度はどんぐりの皮むき。
ここでは特製のどんぐり皮むき機を使っている。
木曽中部商工会の事務局長らが何かの改造品を無料で提供してくれたという。

どんぐり皮むき機

その後の努力もまた、敬意を表さないわけにはいかない。
1日8時間、4日間も煮続ける。
何度も何度も水を替えて、アク出しするのだ。

4日間もアク出ししなくては食材にならない。
気が遠くなるほどだ。

そうして干してから。
今度は粉にして、ようやく食材としての粉になり。
パンやお饅頭やパイやサブレに生まれ変わる。
だが、それぞれも混ぜ合わせる小麦粉などの選定や配分など。
美味しく完成させるには多くの時間が必要だった。

今やどんぐりパンは、年に2回、村の小中学校の給食で振る舞われる。
郷土教育の一環でもあるわけだ。

王滝村は木曽御嶽山の南側斜面に位置し、「ひだみ」はその2合目に位置する。
たたずまいも、こんなに立派だ。

郷土料理「ひだみ」(左)と木曽御嶽山資料館(右奥)

木曽御嶽山資料館にそのヒントがあった。
「ひだみ」の中もこんなに立派。
いずれも20年前に村が建築し、御嶽神社の管理。
「ひだみ」の二人が資料館の管理もお手伝いしていた

「ひだみ」の店内の机や椅子もどんぐりの楢材にこだわる。

さて、そのどんぐりと村民。
深い、深い物語があった。

そもそもどんぐりのことを、この地では「ひだみ」と呼ぶ。
なぜ、「ひだみ」か。

いろいろと説はあるようだが、瀬戸さんはこう感じてきた。
「したみ」が訛って「ひだみ」になったに違いない。

では、なぜ「したみ」なのか。
「下実」。

栗、胡桃は、いわば採ってすぐ食べられる上等な実。
それに対して、とてもじゃないがすぐに食べられない実。
どんぐりは下等な実と思われてきたというわけだ。

だから、人間は栗、胡桃を食して。
どんぐりは野生動物が食す。

だが、この地方では昔、冬場に備えて各家庭にどんぐりを蓄えていた、という。
天候不順や飢饉に備えてどんぐりを非常食として確保する。

それに、薬としての効用もあったという。
お米に匹敵する栄養がある上、お腹が痛い時に、どんぐりの粉をいただいて直したという。

だから私は、と瀬戸さんは言う。
人間が絶対、生き延びるために。
どんぐりは山の神様からの贈り物。

どんぐりと20年間向き合った、瀬戸さんならではの深い言葉だ。

そんな「ひだみ」のどんぐり食セット。
採れたて長野 でも取り扱いを開始した。

荒井 久
1945年、長野県生まれ。1968年、東京電機大学電子工学科を卒業して日本経済新聞社に入社。日経BP社で日経ニューメディア編集長、日経コミュニケーション編集長などを歴任。「コンピュータ・テレフォニー」「ビットバレーの鼓動」「モバイル・インターネットの鼓動」「Web2.0の鼓動」など著書多数。02年、株式会社ソリック(www.soriq.jp)を設立、代表取締役として現在に至る。09年1月、ソリックブックスとして藤原忠彦著「平均年収2500万円の農村」を刊行。08年06月から軽井沢の貸し別荘「軽井沢ヴィラArai」( http://www.karuizawa-villa.com )を、さらに09年6月からは、長野県下の名産物をネットで販売する「採れたて長野」( http://www.toretatenagano.com )を経営している。

 
 
 


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