【趣の庭】軽井沢便り
2009.5.25     
Karuizawa Journal

20年続く、どんぐり返し
軽井沢の森と人を育む
荒井 久
市川健夫東京学芸大学名誉教授が記念講演
今年は200人が参加、500本のどんぐりを植樹した。

もう10年ぐらい前のことかも知れない。
軽井沢在住のある作家さんに誘われて参加したどんぐり返し。
どんぐり系のミズナラ、コナラの木を軽井沢の山に植える、どんぐり運動の会だ。

今年はちょっと目を惹いた。
「どんぐり返し20周年記念事業」とあったからだ。
記念事業の講演会が5月9日にあり、翌日の10日は20年前に植えたどんぐりの木を見学してからの「どんぐり返し」だった。

それにしても20年も続けられていたとは。その先見性に驚く。
9日は市川健夫東京学芸大学名誉教授の講演だった。
題して、「軽井沢の風土と森林」。森の持つ神秘性に魅せられた。

軽井沢に棲みつくツキノワグマ、アナグマ、狸、テン、鹿、ウサギ、サルなどなど。多くの動物たちにはどんぐりという主食が必要だ。
なにより、どんぐりの葉は、大雨でもたくさんの水を含んで山を守る。
そして、森は豊かになり、豊かな海を育む。

20年前に植樹したどんぐりの木。立派な林になった。   環境省自然環境計画課長の渡邉綱男さん一家。左端は農学博士で現在は軽井沢野鳥の森「ピッキオ」で活躍の横山昌太郎さん。かつては渡邉氏の部下だったという。

10日午前9時半、筆者はどんぐり返しの会場、小瀬地区の国有林に到着。
この日集まったのはなんと200人。
家族ぐるみが多い。天気にも恵まれた。

20年前の植樹記念木の前で、お母さんと思われる方が、子供みたいなポーズを取る3人の男子青年を撮影していた。
筆者は思わず「ご一緒にいかがですか」と声掛けた。
後ろにいたお父さんも加わって、一家5人のワンショットとなった。
聞けば、23歳の一人は20年前、3歳の時のポーズを再現していたのだとか。昔の写真を何度も見ていたに違いない。

後に、この一家、とりわけ父親が、このどんぐり返しに重要な役割を果たしていたことが判明する。
現在、環境省自然環境局自然環境計画課課長の渡邉綱男さん。
20数年前はこの地の自然を守るために、霞が関から派遣されていた技官。この森の護り人で、どんぐり返しにも深く関わっていた。

どんぐり運動の会は23年前に始まり、地元の子供たちが拾い集めたどんぐりの種を蒔いた。
渡邉さんにとっては、23歳の息子が生まれた年だ。
そして、その3年後。どんぐりは立派な苗に育ち、それを植樹するどんぐり返しが始まった。

どんぐり運動の会の会長を22年続ける星野裕一さん。   今年4月28日には、自然環境功労者環境大臣賞を受賞。

そしてさらに20年が経ち、渡邉さん一家は今年、20年振りのどんぐり返し。東京から駆けつけた。
どんぐり運動の会の会長、星野裕一さんに誘われたというが。
自分たちの足跡を振り返り、「自然への恩返し」になったに違いない。

会長の星野さんは、あの星野温泉グループの重鎮。
会が発足して2年目から会長を引き受け、もう22年にもなる。
この4月28日には、自然環境功労者環境大臣賞を受賞した。
山を守る、森を守るひたむきな努力が評価されたわけだ。
それはまた、子供たちの心を育むことでもある。

3年物のどんぐりの苗。子供たちの心が宿っている。   筆者も植樹に参加した。それほど難しい作業ではない。

ところで今年の苗は3年物と8年物を合わせて約500本。
これを参加した200人で植えた。
もちろん筆者も植樹に参加。それぞれ1本ずつ植えた。
8年物は根付く前に風で倒れる可能性があるため、3本の棒で支柱を作った。なんだか凄く、愛着を感じる。
「立派に育ってくれ」

表面から10センチぐらいの深さからは軽石。   多くの家族が植樹を楽しんだ。

植樹のために土を掘り起こしてみて、その大事さに気がついた。
なんと、豊かな土地に見えた山だが、わずか10センチ以下は軽石の山だった。
基本的に浅間山の噴火でできた山であるからだ。

こんな山であるからこそ。
どんぐりの木を育てる。
そして実が落ちて、葉が落ちて。
実は動物たちが食べて糞を出し、微生物を育てる。
葉は落ちて腐葉土を作る。

この10センチの豊かな土を作るのに、どれほどの年月を費やしたことか。
どんぐり返しの重要性を、改めて認識することとなった。

子供たちが活躍。いい思い出を刻んだに違いない。   参加者全員に配布された記念品。

四方に2メートル離れたところならどこでもいいですから。
スタッフの説明で、参加者同士も和気あいあい。
とりわけ子供たちの活躍が目立った。

そういえば、このどんぐりの木。
もともとは子供たちが拾い集めたどんぐりを苗にまで育て。
その苗を山に返してあげる。
だから、どんぐり返し。山にお返しするのだ。
自然循環系の意味合いもあるのだろう。

お昼は持参のお弁当、おにぎりで和気あいあい。   例年のサービスというトン汁が、ことのほか美味しかった。

こうしてみんなが一汗流して。
お腹も空かして。いよいよ昼食タイム。
手作り弁当、おにぎり。青空の下で、なんでも美味しい。

大人気だったのが、巨大鍋で作ったトン汁。
ボランティアらしき人達が振る舞ってくれた。
「これが美味しくて、参加が楽しみなんです」という家族も。
トン汁につられて、毎年参加しているという。
森の中だからか。旨さ倍増だった。

初代会長の遠山英紀さん、68歳。   その先見性に、改めて驚く。

「どんぐり返し」とは、いい名前を付けたものだ。
22年間率いてきた星野会長も立派だが。
初代会長はどなただったのか気になった。
やっぱり、お見えになっていた。

その初代会長は遠山英紀さん、68歳。
地元の農家の方だ。
「農業は地球を破壊しているということを認識しなくてはならない」
そう語りだした。
「化学肥料や農薬が確実に蓄積されるからね」
「将来の子供たち、孫たちに向けて、かなり綱渡りの選択をしているんだよ」
有機農法に励む遠山さんならではの言葉だ。

不自然な芝生に農薬漬け。
「こんな場所にゴルフ場なんか、いいわけがねえ」
「だから仲間は誰もゴルフなんかやらねえ」

軽井沢ヴィラAraiの南側に広がる軽井沢72ゴルフ場。
「あれは元々、広大な原生花苑だった」
「残されていれば、世界遺産に登録されるような自然だった」

笑顔で話す遠山さんのお話に心打たれ、再会を約束させていただいた。
やや華やかな面を持つ軽井沢で、果敢な有機農法への挑戦。
農家、遠山さん宅を訪ねるのが楽しみだ。


荒井 久
1945年、長野県生まれ。1968年、東京電機大学電子工学科を卒業して日本経済新聞社に入社。日経BP社で日経ニューメディア編集長、日経コミュニケーション編集長などを歴任。「コンピュータ・テレフォニー」「ビットバレーの鼓動」「モバイル・インターネットの鼓動」「Web2.0の鼓動」など著書多数。02年、株式会社ソリック(www.soriq.jp)を設立、代表取締役として現在に至る。09年1月、ソリックブックスとして藤原忠彦著「平均年収2500万円の農村」を刊行。08年06月から軽井沢の貸し別荘「軽井沢ヴィラArai」( http://www.karuizawa-villa.com )を、さらに09年6月からは、長野県下の名産物をネットで販売する「採れたて長野」( http://www.toretatenagano.com )を経営している。

 
 
 


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