【趣の庭】釣り三昧
2013.1.15

釣り三昧 Vol.84
Joy of Fishing


中央道・笹子トンネル事故に思う


樋口 正博


止まってから1時間。午後4時。土砂降りのなか停滞中。

■事故の3日前にトンネルを走っていた

 昨年12月2日、中央道上り線の笹子トンネル(山梨県大月市)で、コンクリート製の天井板が110メートルに渡って崩落するという前代未聞の事故が起きた。この事故では9人の犠牲者がでた。
 その日、タコの介は同い年の親しい友人を亡くして通夜に出かけていた。
 その3日前の11月29日。タコの介は信州・塩尻から東京に向かって事故のあった笹子トンネルを走り抜けていた。
 めまぐるしく人の生と死を見つめた年末となった。
 その後、12月には2回ほど信州に往復した。笹子トンネルが上下線ともに通行止めになったので、下道の20号線を走ったり、河口湖線から三坂峠を越えて一宮御坂ICから再び中央道に乗るようなコースをたどって、東京・信州間を往復していた。
 そういえば、最近松本に移住する人が多くなった。いや、タコの介の知り合いではなくて、まったく知らない人たちが松本に住みだした。それも家族を連れて。
 なぜ、こういうことをタコの介が知っているかというと、ツイッターやフェイスブックで次々とつながりができたからである。
 ある人は横浜在住で、週末になると愛犬を連れて松本の山小屋にやってくる。ある人は震災を期に前から住みたいと思っていた松本に思い切って家族で移住してきた。
 またある人は著名なライターで、これも家族で松本に引っ越してきた。自分は東京を仕事場にして、信州と東京を通う生活を選択した。
 これらの人に共通なのは、会社員ではなくてライターとか編集者とかイラストレーターといった自由業の人たちである。つまりは、タコの介とまったく同じような境遇の人たちが移住を始めている。
 まっ、タコの介は実家が塩尻にあって、根っからの信州人なのだが、かれらはまったく信州とは関係ない人たちだった。


午後4時半。上りの車が通りだした(右)。
事故ったのはタコの介の下り線。

■簡単に人が死んでゆく

 そんな彼らが移動する手段は、車だったり高速バスだったりする。中央線の特急あずさは頻繁に往復するにはちょっと高い。高速バスだったら、あずさの半額以下である。
 彼らは結局のところ中央道を走るわけで、タコの介とともに笹子トンネルの事故に遭遇する可能性もあったのだ。
 笹子トンネルは暮れの12月29日に下り線を使って対面通行で再開した。天井板を取り払い、換気ファンを設置して、片道一車線での対面通行だ。
 タコの介は翌日の30日午後、妻とふたりで年末年始を田舎で過ごすために、この対面通行の笹子トンネルを通って帰省しようとしていた。
 トンネル手前の500メートル。渋滞気味にノロノロと走っていた車列が突然完全にストップしてしまった。まったく動かない。
 天気は季節はずれの土砂降り。30分たっても1時間近くたっても動かない。
「中央道、笹子トンネル手前にいる。もう1時間以上も車がストップしている」
 とiPhoneでフェイスブックに投稿すると、さっそく返事が帰ってきた。
「どうやら、トンネル中で事故らしいですよ」
「なにっ!」
 その後、情報がフェイスブックに続々と寄せられた。
「車5台の玉突き事故らしいです」
「完全に通行止めだね」
「どうやら、トンネル内はノロノロ運転中で、事故のあったトンネル上部を見ながらの脇見運転で追突したらしいです」
 まじかよ。暮れで帰省中の車が多く、普段走りなれていないサンデードライバーが集中したのも原因のようだ。
 結局、タコの介の車は3時間以上もそこに止められたままだった。
 ようやく通行止めが解除されたときには5時すぎで暗くなっていた。トンネルを出ると路肩には大破した車が重なるように放置されていて、タコの介はそれを横目で見ながら走り抜けたのだった。
 ともかく、強烈ながんで闘病1年あまりで逝ってしまった友人も無念だったが、なんの落ち度もない、ただ通りかかっただけで事故死してしまった人の無念も計り知れない。
 とくに、シェアハウスの仲間同士でレンタカーを借りてのドライブ中の事故だった20代の男女5人の焼死には、胸を衝かれて言葉もない。
 なんの補修点検もしなかったNEXCO中日本。そして監督を怠った国交省。老朽化や震災の影響があるとはいえ、これは未必の殺人事件である。
 いったい、日本はいつから中国のような無責任社会になったのだろうか。
                                                                                   

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
釣り専門誌の編集長を経てEditor&Writer。へら師にしてフライフィッシャーマン。そしてパラ愛好家。庭、釣り、農、酒を通して社会を見つめている。通称「タコの介」。Twitterのアカウント@takonosuke7
 
 
 


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