【趣の庭】釣り三昧
2012.5.15

釣り三昧 Vol.80
Joy of Fishing


娘の結婚式


樋口 正博


花嫁の父

■段取りは全部二人だけで

 5月5日、こどもの日に長女・綾の結婚式があった。綾は昨年、突然に「紹介したい人がいる」と彼を自宅に連れてきた。タコの介はちょっとドキッとして彼を迎えたのだが、彼は「娘さんと結婚させてください」というもっとも肝心な言葉を語らずに、世間話をして帰って行った。
「なんなんだ? なにもいわずに」
 とタコの介は妻に毒づいた。すると悦子はこういったのだ。
「あら、あなただって岡山の実家まできて、なんにもいわずに帰ったじゃない」
 ええっ! そうだったか?
 オレたちは同類であったか。だが、ヤツは酒が飲めないじゃないか。と、タコの介は少々不満である。
 そして、綾と彼は相手の両親との顔合わせの場をセッティングし、その場で婚姻届を書き、綾はさっさと家を出て行ったのだ。結婚式ばどうすると聞いても、「彼、そういうの苦手だからしないかも」と言っていた。
 そんな綾が「式やるからきてね」と言ってきたのは、今年の3月ころだった。GWなのに、吉祥寺のちいさな式場を予約できたという。出席するのは両親と共通の仲間数人だけだという。


仲間と

■「やっちまったか!」

 そして当日。タコの介夫婦と下の娘、みづきの3人は吉祥寺の街中のちいさな教会式の式場にでかけた。雨続きだったGWだったが、この日だけはきれいに晴れ上がって、吉祥寺の街は人で溢れていた。
 式は教会式の神父の前で宣誓をして、ケーキカットをしておしまい。みんなで写真を取り合って、近くに用意されたレストランで親族だけで会食となった。
 お酒を飲めるのはタコの介夫婦と新郎のお父さんだけ。タコの介はせっせとビールを飲んだ。お父さんは「めでたいから、いっぱい飲もう。焼酎はないかな」と前回会ったときとおなじことを言っている。
 その後、JR吉祥寺駅で「では、元気でやりな」と綾たちに挨拶をして、タコの介たちは中央線で立川に向かった。
 そしてちょっとした事件が起きてしまった。
 タコの介は電車のなかで急に気分が悪くなった。途中で下車。悦子とみづきがつきそう。トイレに駆け込んだ。吐き気はしない。昼ビールだから酔ったのかと思った。グラス6、7杯だった。タコの介の実力ではたいしたことのない量である。おかしいなぁ。
 またホームに戻って電車に乗った。すると、また気分が悪くなって「西国分寺駅」で下車。
 今度はホームで足にまったく力が入らない。歩けない。近くの壁に寄りかかったまま動けなくなってしまった。
 悦子が「救急車呼ぼう」という。タコの介はただ、回らない口で「らいじょーぶ。らいじょーぶ」というのがせいいっぱい。
 酒に酔っただけではないようだ。足が動かない。ひょっとしてやっちまったか?
 悦子の友だちのダンナが脳梗塞をして不随となっているという。「お酒は控えないとあぶないよ」といつも言っていた。
 タコの介は相変わらず、よだれを垂らしながらへへへ、と笑うだけだ。内心「やばいな。とうとう、俺も終わりか」と思っている。

■脱水症状?

  駅員を呼んで車いすに乗って駅事務所で待つ。少し時間がたって救急隊員がストレッチャーを引いてやってきた。いろんな質問をする。どういう状態でこうなったか。既往症はないか。タコの介は病人らしくなく、全部はきはきと答えた。「隊長」と隊員たちが呼ぶその人がリーダーで、いろんな指示を与えていた。頼もしい。
 人混みの注目を集めながら、タコの介は救急車まで運ばれた。みっともないので目をつぶっていた。悦子たちも付き添いで救急車に乗った。
 そこで運び込む病院を決める。決まったのは東京都立多摩総合医療センターのER(救急救命センター)だった。
 あとで分かったことだが、ここは嵐山光三郎さんの自宅のすぐ近くだった。そういえば、新しい大きな病院が建築中だったな。一年前に完成したという。国内でも随一といわれるERだった。
 診断してくれたのは20歳代半ばのイケメン医師。いろんな診断をしたあと、腹部に機械をあてた。
「脱水症状がありますね。ひょっとしたらこれが原因で足が動かなくなったのかも知れません。点滴をしましょう」
 ということで点滴が始まった。水分不足か。
 そのときに、このところ朝起きるときに頻発してるめまいについて先生に聞いてみた。
「耳が聞こえにくいこともないですか?」と聞く。たしかに何回も聞き直すことが多くなった。
「脳ドッグ」にかかったほうがいいかも聞いた。すると、先生はこう言ったのだ。
「脳ではなくて耳の問題ではないかと思います。なでしこの澤選手のような症状です」
 というではないか。メニエール氏病に近いという。澤選手は「良性発作性頭位めまい症」と診断されている。
 頭を振ったり、枕で頭の位置を変えるとめまいが起こってしまう。人によってはすごく気分が悪くなったり、実際吐いてしまうともいう。まったくその通り。
 そんなことで、多摩総合医療センターには2時間近くいることになった。帰りに6000円ほど払って、悦子、みづきとともにタクシーで帰った。こちらは4000円なので、一万円コースとなった。
 よりによって、娘の結婚式の帰りかよ。あー、びっくりした。

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
釣り専門誌の編集長を経てEditor&Writer。へら師にしてフライフィッシャーマン。そしてパラ愛好家。庭、釣り、農、酒を通して社会を見つめている。通称「タコの介」。Twitterのアカウント@takonosuke7
 
 
 


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