【趣の庭】釣り三昧
2011.6.21

釣り三昧 Vol.72
Joy of Fishing


芦ノ湖、雨中の巨べら師たち


樋口 正博


ため息がでるほど美しいボディの芦ノ湖の巨べら

■「おっ、いるぞ、いるぞ」

 5月下旬、9人の男たちが箱根の芦ノ湖に集結した。雨が降り続いている。湖岸には深い霧が立ちこめていて、先が見えない。
 男たちというのはヘラブナを釣るへら師である。タコの介が会長を務めるヘラブナ釣りの会、「うみへら会」のメンバーだ。
 5月の例会が芦ノ湖で一泊二日の日程で開催された。全員、気合い十分である。
 というのも、この時期はヘラブナの乗っ込みで、大型のへらが岸近くに集まってくる。普段はめったに出会えない巨べらを釣る絶好のシーズンなのである。
 しかも雨。待望の雨が降り続いている。雨は巨べらの警戒心を弱めて、ますます釣れるチャンスが高くなるのだ。
 さっそく、元箱根のボート乗り場のあちこちを偵察してみた。すると、まっ黒な巨べらの群れが悠然と泳ぎ回っている。ときおり、沖目でバッシャンと跳ねる。へら師はこれを「もじり」と表現する。
「やったー! いるね、いるね」
「おおおお」
「どうしよう、どうしよう!」
 興奮のあまり、意味不明の言葉をわめきちらしている。、ほとんどビョーキの男たちの集団だ。

写真
巨べらを手にする名手、田口力也。左バックは芦ノ湖名物海賊船

■巨べらはミリまで正確に測る

 雨のなか、それぞれがお気に入りの場所を見つけて湖岸に散っていった。タコの介は元箱根の「鈴木ボート」の浮き桟橋で竿を出した。そこに一緒に入ったのが名手、田口力也。力也は実力を発揮して、40センチ前後を連発した。
 ちなみに、巨べらは全長寸で記録する。このサイズの測定はシビアで、ミリ単位まで正確に出す。力也はこの日のトップで42.7センチ。ちなみにタコの介は5位で37.5センチ。40上(40センチ以上)は9人のうち4人いた。
 その夜はホテルで大宴会。自己記録を自慢したり、巨べらを釣るテクニックの披露、明日にかける自己記録宣言など、果てることもなくオヤジたちの夢語りは続いた。

写真
へらのサイズを正確に測る検寸台。42.7センチ

■タコの介は思わず叫んだ
「もう、いいッ!」

 翌日、相変わらず雨が降り続き、ときおり風もまじっての嵐である。関東でもとびきりの観光地である箱根なのに、観光客はまばらだ。こんな嵐の日にくる客は少ない。
 反対に巨べら狙いのへら師はウキウキ、ズキズキ、むれむれ、むんむん。つまり、正気じゃない。
 午前中、タコの介たち4人は元箱根のボート桟橋のあいだに入った。すると、タコの介が突然釣れだして、もう一人横綱状態。だれも追いつけない。白鵬の再来。
 40上を連発してしまい、とうとう自己記録更新か。という事態になってしまった。ちなみにタコの介の自己記録は山中湖での42.8センチ。とうとう41.3センチが飛び出して、自己記録は目前になった。
 と、とたんにあんなに食っていたへらまったくエサを食わなくなった。地合いが終わったのだ。名手力也は40.1センチ止まり。
 ところが、湖尻(元箱根の反対側)で釣っていた連中にとんでもないことがおこっていた。43センチ前後を連発していたのだ。
「会長、もうだめ。腕痛いっす。もう45枚も釣っちゃった。全部40上です。こんなことがあっていいんでしょうか。ぼくは自己記録を13回も更新てしまいましたぁ。ぐふふふふ」
 これがへら歴1年の小倉。
「もういいッ。勝手に釣ってなさい。タコの介は帰る!」
 日暮れでもうウキも見えない。タコの介はその暗がりで釣り続ける小倉の姿をじっと見つめていたのだった。

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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