【趣の庭】釣り三昧
2011.4.5

釣り三昧 Vol.69
Joy of Fishing


海の向こうから
大震災がやってきた


樋口 正博

写真
「つり丸」で紹介した相模湾・小田原早川港(イラスト・みひ郎)

■自粛は一人でひっそりとやろう

 あの日から、すべてが変わってしまった。3・11の日から。「つり丸」は創刊以来初めて4月15日号を休刊にするしかなかった。
「つり丸」と提携している茨城・福島・宮城の各船宿は壊滅的な被害を受けた。45軒の船宿の船長は全員無事だったが、家族に犠牲者が出ている。
 クルマのガソリンがあっという間に枯渇して、どこのGSも休業になった。釣り師は釣りに行かない。船宿も2週間くらいは営業を自粛。釣具店には釣り人ではなく、乾電池や防寒着を買いに来る主婦の姿が目立った。
 被災地近くの釣具店は、努力して開店すると「なんだ、こんなときに遊びの店なんか開いて」と、詰め寄られる。
 人々は朝起きると、まず原発の放射能の拡散状況を知りたがるようになった。東電、保安院、官邸が同じ情報をバラバラに記者発表していて、市民はその裏になにが起きているのか疑心暗鬼になっている。


■お花見、上等!

 3月28日、東京に桜の開花宣言がでた。折りしも、東京では都知事選の真っ最中。石原慎太郎は会見でこう言った。
「桜が咲いたからといって、一杯飲んで歓談するような状況じゃない」
 彼は太平洋戦争を引き合いにして、「同胞の痛みを分かち合うことで初めて連帯感ができてくる」「戦争の時はみんな自分を抑え、こらえた。戦には敗れたが、あの時の日本人の連帯感は美しい」と。
 慎太郎は高みから都民に「花見禁止令」を告げた。東京都の知事ごときが言うことではない。みんな、大震災の痛みを胸に秘めている。言われなくてもやめる人もいるし、沈んだ気分を盛り上げようとやる人もいる。
 自粛とは自らすすんで慎むことであって、他人が、しかも都知事が呼びかけるたぐいのものではない。

■うつむいてはいけない

 さて、いま鋭意制作中の「つり丸」5月1日号(4月15日発売)は増ページで「震災応援号」とする。被災地の人々はもちろん、多くの釣りファンに向けて「釣りに行こう!」と呼びかける。
 船宿も自粛などまったく必要がない。現金商売の船宿や居酒屋は、客が来ないとあっという間に苦しくなる。
 釣り人が釣りをやめて、船宿や釣具店が営業をやめたら、釣り業界は存在すらおぼつかなくなる。もちろん「つり丸」もだ。できるだけ平常に戻ることが経済を回し、ひいては被災者の救援になる。
 日本人はいま全員が哀しみの底に沈んでいる。だが、タコの介は信じている。日本人は「前へ進む」力があることを。
 うつむいてはいけない。涙を堪えて、無理やりにでも笑顔を取り戻そう。

写真
「つり丸」で紹介した相模湾・湘南港(イラスト・みひ郎)

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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