【趣の庭】釣り三昧
2010.11.22

釣り三昧 Vol.64
Joy of Fishing


常連さん限定。
居酒屋「弥助」で
「きのこ鍋を囲む会」が開かれた


樋口 正博

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山育ちのきのこをたっぷりと使った「きのこ鍋」が出てきた

■山育ちのきのこで鍋大会をするのだ

 気がつくと秋が終わって初冬になってしまった。
「タコの介さん、あれいつやるの?」
 と「弥助」のマスターが心配そうに何度も聞く。「あれ」とは「きのこ鍋」のことである。
 タコの介は20年以上も懇意にしている、信州・野沢温泉村の「丸中ロッジ」から、山育ちのきのこを取り寄せている。
 ロッジの主人はなるべく天然のきのこの風味がでるように、山奥を選んでそこできのこの栽培をしているのだ。山の滋味いっぱいのきのこは、ナメコでも傘が直径10センチにも成長する。
 風味は抜群で、鍋のザクは豆腐と白菜だけで余計なものは入れない。それをとっておきの日本酒を飲みながら、ハフハフとほうばるのだ。常連客からお代わりが相次ぐ人気鍋である。

■常連客がぞくぞくと集まってきた

 ところが、今年の猛暑は9月いっぱいまで続いた。その後は雨も降ってきのこにはよい気候になったのだが、収穫は10日以上も遅れた。タコの介は何度も「丸中ロッジ」に確認を入れて、開催日が二転三転することになってしまった。
 ようやく決まったのが11月9日だった。「弥助」に段ボール入りのきのこが届いた。
 夜、6時半。タコの介はまだ編集部で仕事をしていると、つぎつぎと電話が入る。「もう始まってるよ。すごく旨いよ。早く来ないとなくなっちゃうよ」
 この日を楽しみにしていた常連客がぞくぞくと集まっている。タコの介はたまらずに、仕事を残したまま「弥助」に急行した。
「弥助」にはなじみの顔が集まっている。へらぶな釣り専門誌「へら専科」の熊谷貴幸発行人と、名手田口力也夫妻も来ていた。

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常連さんがわれ先にと「きのこ鍋」に群がった

■「うみへら会」に参加希望者が続出

 へら師のわれわれはひとつのテーブルに集まった。そこにまったくへらぶな釣りを知らない新ちゃんが紛れ込んだのでややこしくなった。
「タコの介さん、例会ってなんですか。毎月集まって飲む会ですか?」
「あれ? 聞いてたの?」
「聞くもなにも、『うみへら会』というへらぶな釣りの会を始めたって話をずっとやってたじゃないですか。釣り会は分かるんですけど、例会ってのは釣り会のことなんですか?」
「そうだよ。毎月メンバーが集まって一緒に釣りをすることを例会っていうんだよ」
 そんな初歩的な話をして、なんとか繋いだあと、「うみへら会」の話にまた戻った。会長はタコの介。副会長はライバル誌「つり情報」編集長の沖籐武彦。幹事長は「へら専科」発行人の熊谷。ほかに名手の田口力也、それにイラストレーターで超初心者の岩永修一。
 たった5人だけのささやかな会である。ところが、このおじさんだけで楽しむ小さな会に参加希望者が続出してしまった。タコの介はただただ呆然とするだけである。
「なぜだ?」
 と何回も熊谷に聞いた。
「参加希望者が多いのは、やっぱり『うみへら会』のポリシーだと思うんですよ」
 ポリシーたってなにもない。あえて言えば「腕を自慢しない」というタコの介好みのポリシーか。経験年数だけは多いが、タコの介は技術の差が歴然とでるへらぶな釣りでは「へぼ」である。会長なんかに祭り上げられているが、腕はさっぱり。さらにへらの深い知識も、へら師の人脈もほとんどない。
 だが、熊谷の話をきいていて、「まてよ」と思うことがあった。

■人よりたくさん釣っちゃダメ

 へら師の会というのは千差万別。数もものすごくたくさんある。名人や名手が200人以上も集まって腕を競う大きな会、釣り場を変えずに一年中同じ場所で釣りをするご近所の会、巨べらを求めて遠征をする会、初心者に優しい会など。
 性格はそれぞれだが、ある種の傾向はある。それは趣味の釣りを楽しもうという凝り性のへら師が集まるので、どうしても人よりもたくさん釣りたがる。すると、そこにいろんなバイアスやらストレスが加わって、楽しいはずの釣り会がそうじゃなくなってしまうのだ。
 その点、「うみへら会」のポリシーは明確である。「人をけ落として自分だけたくさん釣っちゃダメ」というのがみんなの了解なのだ。
 むしろ、「釣れないねー」と周囲に嘆きながら、にこにこと楽しそうに竿を振る。じつは、これができるのは簡単なことではない。口惜しさをぶちまけてはいけない。釣りができるだけでうれしい。そういう気持ちが大事なのだ。
 タコの介はへぼではあるが、これができる。簡単とはいわないが、苦労しなくてもできる。だから、「うみへら会」でもさわやかに笑顔で楽しめるのだ。
 そんなことを「きのこ鍋」をつつきながら話していると、部外者の新ちゃんが言った。
「それは、ただ釣りの高みを目指さない、ある意味、脱力系というよりも、脱落系になっているだけじゃないですか」
「うまいッ! まあ飲め」
 とタコの介は、口惜しさを片鱗も見せずに、新ちゃんに大吟醸の日本酒を注いだのだ。口惜しくなんかないもん。

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名手・田口力也がお土産に持ってきてくれた
「大吟醸 越後杜氏」を「つり丸」の升で堪能した

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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