【趣の庭】釣り三昧
2010.10.11

釣り三昧 Vol.63
Joy of Fishing


上総湊に雨が降る
嵐山・タコの介はイカの寿司をほうばる


樋口 正博

写真
釣ったスミイカを港の小屋でにぎって食べる幸せ

■旅館のおかみが
いきなりタコの介の尻を叩いた

 今回も「美味しい話」で恐縮です。
 内房の上総湊はマダイのシャクリ釣りで知られる。ここに嵐山光三郎とタコの介はウキウキとやってきた。スミイカ釣りである。
 9月末日。ああ、秋の高い空は気持ちがいいな。と、空を見上げると、どんよりとした雨曇り。明日は終日雨という予報だ。がっくり。
 今回はマダイも得意だがスミイカも得意な「かず丸」を仕立てての釣りとなった。参加者は嵐山・タコの介・ミノコウの精鋭3人。
例によって前泊したのは、嵐山・タコの介組。
 宿泊先は「こなや旅館」。かつて、椎名組がこの旅館に泊り、麻雀台を持ち込んでその下に毛布を敷いちゃったから、ここの名物おかみに「あなたたちいいいいい! なにをしてるんですかぁぁぁぁ!」とこっぴどく叱られた。そんな話を聞いていたので、われわれはちょっとおかみには戦々恐々なのである。
「あら、いらっしゃい。あんた、うごくんじゃないよ」
 と、タコの介はいきなりお尻をパシリと叩かれた。
「いったい、どうしたんだ、どうしたんだ?」
「いえね、大きな蚊があなたのお尻に止まってたから叩いたの。ごめんね」と、案外やさしそうなおかみである。
「この時期まで生き残っていた蚊だから、こんなに大きくなっちゃって」
 と、おかみはいう。ふーんと思ったが、よく考えると、長生きしたからって蚊が巨大になるわけはない。

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おじさんたちは並んで座って一生懸命に竿を振った。
イカを食いたい一心で


■赤いエビの疑似餌に抱きつくスミイカ

 集合は5時半。出船は6時。雨が降りそうだ。「大丈夫、オレの念力でとりあえず雨は止めといた」と嵐山さんがいう。たしかに、予報に反してまだ雨は降っていないが、いつ降ってもおかしくない雨雲がたれこめている。
「おはようございます」料理の職人であるミノコウは挨拶もきちっとしている。すでにわれわれが到着する前には着いて釣りの準備をしている。船長もいる。では、出発しますか。
「かず丸」は鈴木一雄船長が操船する仕立専門船である。われわれは左舷に並んで入った。船長は前々日にタコの介に電話をくれた。「初めて試しにスミイカをやったけど、2時間ほどで15杯。まあまあの調子だよ」ということで、期待がもてる。スミイカは9月末に始まったばかりの釣りなのだ。
 ポイントは航程15分ほどの真沖である。船長が「やって。水深は13mほど」と開始の指示を出してすぐ自分のシャクリ竿で釣りを始めた。
 スミイカは餌木というエビを似せた疑似餌を泳がせて抱きつかせて釣る。赤とピンクが大好きだ。赤い服着たのは男もスミイカも大好きだ。だが、美しいバラにはトゲがある。
 仕掛けを投入して、中オモリが着底したら、ハリス分の4mを巻き戻してそこからシャクリをはじめる。
 ただ、モクモクとシャクリを続ける。釣れないとかなり退屈する釣りである。海底のスミイカの動きをイメージできると、この釣りが面白くなるのだ。最初にタコの介が掛けた。だが、タモを使わずに取り込もうとして水面でバラした。
「だめだよ。タモを使わなくちゃ」と船長。
 つづいてまたタコの介。今度はタモを使って最初のスミイカを取り込んだ。ミノコウはこの釣りがあまり得意ではないようで、釣りよりもカメラの撮影に専念している。

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これがスミイカ。掛かっているのは餌木

■勝負は2時間で終わった

 タコの介、嵐山、タコの介、タコの介と釣れている。途中でかなり重い引きがあってタコの介が釣ったのは良型のモンゴウイカだった。「ネタが増えた」と例によってミノコウが喜んでいる。スミイカ釣りには魚の外道が掛からない。イカだけだ。「ミノ幸寿司」の本日のネタはイカ尽くしになりそうである。
 2時間ほどで7杯釣れた。時間は8時を過ぎていた。そのとき、ポツポツと雨が落ちてきた。それがあっというまに土砂降りに近くなった。
 タコの介は船長に「ここで揚がります。お願いします」と沖揚がりを宣言したのだ。「うん、いい判断だね」と嵐山さんが喜んでいる。
 釣れた数は少ないが、「ミノ幸寿司」のネタには十分である。船長はポンポンと船を走らせて港に戻ってきた。

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こちらはタコの介が釣ったモンゴウイカ。味はスミイカに軍配があがる


■雨に降り込められても
俺たちは「幸せだぁ!」

 港にはちょうど手頃な屋根付きの東屋風の吹きさらしの小屋があった。ここが「ミノ幸寿司」店となる。
 ミノコウは船にいるときから、釣れた全部のイカをさばいてしまった。スミイカというくらいだから大量のスミを吐く。港でこのスミイカをさばくのは大変だ。
 しかも、今回は酢飯まで用意してある。「昨日、仕事から帰ってすぐに飯を炊いて酢飯を作ったんですよ。現場で酢飯を作ると時間がなくて大変だということが分かったから」と、仕込みには念を入れているミノコウである。
 てきぱきと寿司の用意をして、いよいよ「ミノ幸寿司」の開店である。スミイカとモンゴウイカの握り。そして、スミイカを短冊に切って乗せた軍艦巻き。短冊を乗せた握り。ガリも用意してある。ミノコウは生姜も生のものをすって用意してあった。
「やっぱりイカには生姜だからね」。さすがに仕込みに手抜きはない。
 さて、嵐山さんが最初のにぎりを賞味する。「うまいッ! ミノコウ腕をあげたね」と太鼓判がいきなり出た。タコの介も続く。「いやー、釣り立てのイカはゴムのように硬いかと思ったけど、いいね。やわらかくて甘くて旨い」と吠えたのだ。
 しばらくは、つぎつぎとにぎる寿司を嵐山さんとタコの介はがしがしと食った。「タコの介、お茶はないか」「はいよ」とタコの介は近くの自販機まで走った。
 雨は強く降り続いているのだが、小屋のなかのわれわれは幸せ一杯だ。軽トラで通りかかった漁師さんが、「なにやってんだ?」という顔をしている。
釣りをして、すぐににぎって食べる。こんなことがとても幸せだということをわれわれは文字通りかみしめている。

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食べたくなるような美しい真っ白のイカのにぎり。
実際、食べたんだけどね

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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