【趣の庭】釣り三昧
2010.7.12

釣り三昧 Vol.58
Joy of Fishing


南房・白浜沖で「釣ってにぎって」
濃霧のなかのチカメキントキ釣り


樋口 正博

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嵐山がイサキをトリプルで釣った。背後霊はタコの介

■釣り師にしてシェフ
三野浩一、参上!

 「つり丸」8月1日号の『嵐山光三郎の釣りする旅人』。今回はチカメキントキ釣りである。魚に詳しい人でも、チカメキントキを知っている人は少ないだろうな。
 この魚は別名「カゲキヨ」とも呼ばれる。歌舞伎の景清を演じる時の衣装の赤い袖がヒラッとしているのに似ているのでこう呼ばれるようになった。
 同行者はテレビのディレクターである氏家力。それに、シェフの三野浩一。
 タコの介と嵐山、氏家は前泊。南房の千倉にある「ひまわり荘」に泊まった。ここは温泉が出ている。
 翌朝は、午前3時半起床。4時に出発して4時20分には乙浜港に到着した。今回は「惠津丸」にお世話になる。
 三野がすでに到着していて、かいがいしく道具などをセッティングしている。三野はホテルのシェフ。得意なのはフレンチ。釣りのときの雰囲気は、どこにでもいる釣りおじさんだ。
 だが、いったん動き出すとその身体のさばきが違う。調理場で鍛えた身体能力を船上でもイカンなく発揮するのだ。
 ひとときもじっとしていない。常になにか作業をして動きまわっているのだ。タコの介と嵐山は、いつもその姿をボーッと眺めている。すると、「はい、道具が準備できました。いつでも大丈夫です」と三野がいう。
 気が利く有能な釣り師というのも困ったもので、タコの介たちはますます幼児化していくのだ。「はい、ありがとう。センセイ」ともう、全部預けっぱなし。
 大塚船長が若船長とやってきた。
 港周辺、そして海は濃霧でまったく視界が効かない。このところずっと濃霧だという。

■イサキを釣ったあと
チカメキントキ五目にいく

 平日なのに「惠津丸」にはたくさんのお客さんがやってきた。今回はまずはイサキを釣って、そのあとチカメキントキを釣るリレー船である。
 われわれは左舷胴の間に陣取った。嵐山にとって、イサキ釣りは2か月前に完敗した釣りである。船長は濃霧のなか船を走らせる。まったく周囲は見えない。「大丈夫、船にはソナーがあるから衝突はないよ」と三野。船の舳先には若船長が陣取ってワッチしているので頼もしい。
 ポイントは乙浜沖から白浜沖にかけて。出船は午前5時。30分ほどでポイントについた。結局、この濃霧は沖揚がりの正午になっても晴れなかった。
 まずはイサキ釣り。アミコマセにフラッシャーサビキ。タナは20メートル前後。シャクってコマセを振って待つ。
 ポツポツとアタリがあって、良型のイサキが釣れてきた。タカベやアジ、メジナもまじってくる。トリプルもあった。以前苦戦したイサキ釣りを思うと大満足である。サイズは30センチ前後。途中雨になった。
 三野がしっかりサポートしてくれるのでオマツリになっても心配はない。

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これがチカメキントキ。釣り人は若船長

■船上に真っ赤な
チカメキントキの花が咲いた

 イサキ釣りは9時近くまで続いて、いよいよチカメキントキ釣りである。仕掛けが変わった。8本バリの胴付き仕掛けである。フラッシャーにイカの短冊をチョン掛けする。オモリは80号。
 水深は50メートル近くあるが、船長は底を切って40メートルとか30メートルとかを指示する。キントキを浮かせて釣る作戦である。雨はいつのまにかやんで太陽が出てきた。だが、霧は晴れない。
 キントキのアタリは力強い。竿先をグングンと突っ込ませる。電動リールの釣りなので取り込みも難しくはない。水面に赤いバラの花が咲いてキントキが一荷、トリプルで上がってくると、オケのなかにも赤い花が咲く。引きも魚体もすばらしい魚である。
 船中あちこちでキントキの花が舞った。氏家も嬉しそうにキントキを釣っている。

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3匹のチカメキントキみたい

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氏家も初めてのキントキを釣って嬉しそうだ

 三野は釣りの手を休めて、おもむろに包丁を握った。キントキやメジナ、アジ、タカベをさばいては開いていく。そしてキントキは3枚におろしてサクを作っていくのだ。
 三野がなぜ、船上で魚をさばいているのか。これには重大な理由があった。三野は下船後には港で「三野寿司」を開店するからだ。
 前回、新潟の直江津沖で釣りをしたときに、三野が同行してアジ釣りをして帰港後、船の上でおもむろにアジのにぎり寿司を作って、嵐山にふるまったのだ。これには嵐山は大感激した。
「連載のタイトルを変えよう。これからは『釣ってにぎって』だッ」
 つまり、以前は釣った魚は船上で開いて干物を作った。タイトルは「釣って開いて」。これは本にもなった。こんどは釣った魚をにぎり寿司にしてしまえということだ。

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三野が船上で開いたチカメキントキ。帰港後にはもう干物になっている

■「大将、キントキにぎってくんな」
「はいよッ!」

 沖揚がりは正午だった。霧のなかを乙浜港に帰港した。港にはコンちゃんが待っていた。近くでスルメイカの取材をしていてその帰りだ。スルメイカを置いて、チカメキントキを数枚持って、コンちゃんは風のように去っていった。
 われわれは、港の漁協のところで「釣ってにぎって」を始めた。まずは、パック入りのご飯をコンビニでチンして温めた。それに寿司酢を振りかけて酢飯を作った。今回の寿司ネタはキントキ、メジナ、アジ、イサキ、スルメイカと豪華版である。

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これぞ「釣ってにぎって」。ネタはキントキ、イサキ、メジナ、アジ

 キントキの身は美しい。うっすらと赤い筋があって、身は白身である。一見マダイと見間違うが、マダイよりも美しい。
 三野せっせとにぎっては皿に並べていく。われわれは「うっ、うっ」といいながらほおばるのである。イサキもほんのりと甘く旨い。「おーい、タコの介ビール!」と嵐山さん。うかつなことに買ってくるのを忘れてしまった。漁協のひとたちが「なにしてるんだ?」という顔をして見ている。われわれは幸せである。
 「大将、今度はアジとイカにぎって」
 「あいよ」
 三野がパーンと手を打ってにぎるのだ。
 ひとしきり寿司を楽しんだあとは、船上干しした干物、たくさん釣ったキントキ、そして「恵津丸」のおみやげのアジの干物をもらって、嵐山は颯爽とタコの介号で帰還したのだ。

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嵐山、大喜びです。「すし丸」の看板は自分で作りました

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「三野寿司」開店の図

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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