【趣の庭】釣り三昧
2010.6.7

釣り三昧 Vol.55
Joy of Fishing



オヤジたちの新潟遠征釣行


樋口 正博

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さわやかな初夏の風に吹かれて、船上干ししたアジとホッケが揺れている

■ダメなものはダメです

「どうするんだよ?」
「どうするって、相手は天気ですよ。タタカイになりませんよ」
「でも、ツヨシは東京から新幹線と鈍行を乗り継いで来ちゃったし、おれだって金沢取材の途中下車で来たんだよ。これで釣りができなければ、なんのための直江津集結なんだよ」
 最後の方は涙声になっている。
 涙声は嵐山光三郎。「知りませんよ?」とクールな対応をしているのはタコの介。場所は、新潟県上越市のビジネスホテル。
 マダイ釣りに来たのだが、今年はマダイの乗っ込みが遅れていてNG。ではと、最近好調のオキメバルに前日出船したが、大風のため1時間で敗退。夜やる予定だったヒラメも当然のように流れた。
 で、その午後、突然ヒマになったわれわれはホテルで途方に暮れていたのだ。

■新幹線と鈍行を乗り継いで
ボクはなにしに来たんだか…

 今回、新潟・上越の「さとみ丸」に集結したのは金沢からの嵐山。東京からのツヨシ。ツヨシは『週刊朝日』の敏腕記者。日曜日と月曜日が休日である。さらに、川崎からは「つり丸」でおなじみの料理人釣り師、三野浩一。そして信州経由で走ってきたタコの介の4人。
 旅先で突然ヒマになるというのも困ったものだ。かといって映画とか見に行くのも釣り師の行動としては不適切だ。昼から宴会もできない。
 そこで、嵐山の部屋に集まって、缶ビールを飲みながら千秋楽を迎えた大相撲をだらだらと見ていた。
「ぼくは東京から新幹線に乗って越後湯沢まできて、そこから特急に乗り換えようとしたら強風のために運休だったんですよ。で、しかたなく鈍行で駆けつけてきたのに。結局、ホテルでビール飲みながら相撲観戦ですか。いったい、なにしに来たんだか……」
 と、ツヨシは泣き上戸である。
「おれなんか、取材旅行で家を出てから一週間たってるんだ。今回の釣りで有終の美を飾るはずだったが、こんなテイタラク。おい、タコの介、なんかいいチエはねーのかよ」
 嵐山御大のグチグチは続いている。
「まあ、篠原船長がダメって言ってるんだから、ダメなんですよね」
 と冷静な三野。
「そうだな。ダメだな。宴会して帰るか」
 と諦めだけはバツグンにいいタコの介。
「ええー? ぼくは新幹線と鈍行に乗ってやってきたのに、釣りではなく宴会でおしまいですか? ぼくはなにしに来たんだか」
 言わずと、泣きが入るツヨシ。

■やることは宴会しかない
もう、飲んだくれてやる!

 その晩は「さとみ丸」船長の家族も集結して、高級居酒屋でヤケ気味の大宴会となった。翌日は強風と雨の予報である。ま、当日になって出船するかの判断を船長がするのだが、たぶんムリ。ほとんど絶望的な予報ではある。
「午後には風が収まるようだから、11時くらいに港に集まりましょう」
 と篠原船長がいう。ということは、いつものように午前4時とかに起きなくていいわけだ。
「ぐふふ……」
 と、含み笑いをしたのはだーれだ? はい、タコの介でした。いったい、取材費をかけて大勢で新潟まで来ているのに、その脱力系はなんなんだ。
「天気には勝てません。それよりも、明日の天候回復を願って、ハイ、カンパーイ!」
 タコの介、だめだこりゃ。
 こうして、ヤケクソ気味な大宴会は延々と続いて、翌日起きたら午前9時だった。
 天気は回復していない。南の強風が吹き荒れていて、雨もまじっている。ロビーに集まった情けない釣り師たちはため息をついた。
「ダメだね」
「そうだね」
「絶対にだめだね」
「絶対だね」
 そこへタコの介が登場。
「ともかく港に行きますよ。はい、気合いを入れて。よーしッ!」
 なぜかやる気満々である。港につくと、船長がやってきた。だめだよね。
「出るよー。大丈夫だよー」
「えっ?」
「あっ?」
「……!」
「ヨッシャーッ!!」
 オヤジたちの雄叫びが有間川漁港にこだましたのだ。

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「どうだッ! ひさしぶりの爆釣だぁ」三野さんもサポートしてる

■三野シェフによる
船上寿司店開店なり!

 風は南風。ということは陸から海に向かって吹いている。小さな半島の先にアジのポイントがある。ここは風裏になるので釣りができるのだと船長はいう。
「とにかく40センチを超える大型のアジばかりです。みんなでコマセをまいて船にアジを寄せてから釣りましょう。がんばるぞ。オッー!」
 男、篠原船長のゲキが飛んだ。「さとみ丸」は波を巻き上げ、シャワーのように降り注ぐなかを果敢に突進した。船は左右前後に揺れ、タコの介は身の危険すら感じた。
 篠原船長はポイントで小刻みに群れを探すが、なかなか食わない。三野さんが塩漬けにしたイワシをエサに仕掛けを入れていたら、なんとヒラメが釣れてしまった。
 これを機にコマセが効いてポイントにアジが集まりだした。しかも魚探が真っ赤っかになるほどに。「樋口さん、見てよ。真っ赤っか。船にアジが付いた。こうなったらもう釣り放題ですよ」
 その通りになった。20メートルくらい仕掛けを沈めるとコマセをまかなくてもすぐに食ってくる。入れ食い状態だ。3本バリのパーフェクトの連続。ツヨシもモタモタしながら釣っていたが、徐々に手慣れてくる。
 嵐山さんなんか久しぶりの爆釣なので笑いが止まらない。手も止まらない。オケはあっという間に満杯になった。強い引きがあるとイナダだ。サバも掛かる。良型のホッケも来た。

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良型アジとイナダが掛かると取り込みに大騒ぎ

 夢中に釣っていたが、タコの介は冷静に時間を見ていた。もう揚がろう。これ以上釣っても持って帰れない。時間は午後2時近くになっていた。
 そのとき、三野さんはアジをさばきだした。開きにするもの。刺身用のサクをつくるもの。船上での料理テクニシャンの爆発である。
 港に帰っても三野さんの動きは止まらない。ヒラメをさばきだした。「どうするの?」「船の上で寿司屋を開店します」というのだ。ヒラメ、アジをネタにした寿司が作られる。ご飯のパックをチンして、寿司酢で酢飯を作る。手早い。そしてネタを握りだした。みんな集まってきた。
「うまい!」
 船上で開いたホッケ、アジが船上のロープに吊られて揺れている。三野さんのおかげでとびきりのステージが完了した。ありがとう。

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出ました。本邦初公開の船上寿司店の開店! 
ネタは釣ったばかりのアジにヒラメ。うまいです

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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