【趣の庭】釣り三昧
2009.1.18

釣り三昧 Vol.49
Joy of Fishing


爆発的人気!
マダイのテンヤバリを作る

樋口 正博

写真
テンヤ。ハリにオモリが付いている。ハリは親バリと孫バリの2本。このハリにエビを付ける

沖釣りにも変革はあるのだ

 沖釣りの世界というと、年配のさえないおっさんが汚い格好をして、船にのって不機嫌に黙々と釣りをする。そんなイメージが強い。
 とくに寒さの厳しい今どきだと、地味な防寒着でだるまのようになって、寒さに震えながら何が楽しくて釣りをしているのかわからんことをやっている。
 釣りものもシーズンの旬の魚を狙うといっても、やっていることは毎年同じ。道具も仕掛けもずっと変わらずに使っている。
 たぶん、沖釣りのことを知らない人たちから見ると、船の釣りは進歩も改革も交代も仕分けもないに違いない。そうだ、そうだと、思っているに違いないとタコの介は思う。
 ところが、どんな世界にも変革や進歩というものはあるのである。とくに好きが高じて熱中している釣りの世界では、日々これ工夫と研鑽の日々なのである。
 考えてみれば、去年のカワハギ釣りと今年のカワハギ釣りは違う。どこが違うかはそれぞれで、最新鋭のカワハギ竿が発売されて釣法が変わった。感度抜群の竿が出たおかげで、敏感なアタリを取って合わせるという釣り方になったということはごく普通にある。
 エサも変わった。だれか知らないが特エサ(従来にない特別釣れるエサ)が開発されて、そのエサを使うと釣果が倍増した。

「つり丸」が普及させた
ライトタックルの釣り

 もっとダイナミックに変わる例もある。これは「つり丸」が発信源になった例で、沖釣りの世界に「ライトタックルの釣り」という一ジャンルが出現してしまったのだ。
 従来の沖釣りは電動リールが普及して、道具が重く大きくなる傾向にあった。使うオモリも重い。それでも、多少道具が重くなっても電動リールが糸を巻いてくれるので、釣り師には負担にならない。
 ところが、この重量化路線には思わぬ落とし穴があった。竿が固く重くなり、道糸も太くなった。すると、釣りの一番の醍醐味である、繊細なアタリを取って、それを合わせて釣るという面白みがなくなってしまったのだ。
 そこで「つり丸」が注目したのが、技術革新の成果で強度のある新素材の道糸だった。従来5号の道糸を使っていたところを、半分以下の2号の道糸を使う。するとどういうことが起きるかというと、オモリも半分の重さですむようになる。

オマツリも起きずに
魚の引きがダイレクトなLT

  つまり5号の道糸で80号のオモリを使っていたのが、2号の道糸で30号のオモリでも大丈夫なのだ。
 なにが大丈夫かというと、船の釣りは水深50mや80mの深さを船中15人の釣り師が、それぞれに仕掛けを付けて底に落とす。隣の釣り師との距離は1・5mしかない。
 どうしてこんなに過密な状態で隣の道糸と絡まないのか。不思議でしょ?
 じつは、もちろんオマツリ(仕掛けが他人と絡んでしまうこと)も普通に起きるのだが、過密な状態のわりにはそんなにオマツリは起きない。
 というのも、船長が仕掛けや使うオモリを全員に統一させているからだ。こうすると、仕掛けやオモリが全員一斉に同じ方向を向くのでオマツリにならない。
 だから、船中が80号のオモリを使っているのに、自分一人が30号のオモリを使っていてオマツリが起きると、一斉に非難が集中する。つまり、みんなと同じオモリを使わないお前が悪いということになるのだ。
「つり丸」では、船長に直談判して、細い道糸を使えば軽いオモリを使っても重いオモリの人とオマツリすることはないと説得したのだ。
 こうして新しい釣りが始まった。これを「つり丸」は「ライトタックルの釣り(LT)」と命名。誌面で大々的に紹介した。
 LTにすると、小さい魚でもアタリと引きが敏感で手元にダイレクトにくる。大きな魚はもっとダイナミックに伝わる。そして、リールも竿も軽量コンパクトになった。重い電動リールなど必要がない。コンパクトな両軸の手巻きリールでも100mくらいの水深でも簡単に巻き上げができる。
 それなら、LT専用の竿も必要ではないか。目端の聞く釣具メーカーは次々とLT専用竿を開発していった。船宿でも釣りものの看板に「LT五目」「LTマダイ」といったジャンルができたのだ。こうしてLTという新しいジャンルが確立した。

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「ひとつテンヤ」の釣りにハマった「つり丸」編集部員のイカ(恩田というが、イカ釣りが好きなのでタコの介はこう呼ぶ)はテンヤ作りに夢中だ

昨年からブレイクした
「ひとつテンヤ」のマダイ釣り

 似たようなことが昨年、マダイ釣りの世界に起こった。「ひとつテンヤの釣り」という。これは小さなオモリのついた「テンヤ」というハリを使う。そして道具はLT。テンヤには冷凍のエビを付ける。
 細くて敏感な道具で底にテンヤを落として、エビをマダイにアピールさせながら食わせるのだ。テンヤ以外はとてもシンプルでなにもない。しかも釣り方も静かにテンヤを底に沈めさせるだけ。誘いもしない。
 すると、ガツンと大型のマダイがヒットするのだ。この釣りにベテランもビギナーも差がないので、一挙に「ひとつテンヤの釣り」はブレイクしたのだ。道具はLTなので、マダイの引きがダイレクトに伝わる。もちろん、アタリも明確だ。
「ひとつテンヤの釣り」がブームになって、専用の竿やリールも登場した。そして、熱心な釣り人は自分でオリジナルのテンヤを自作するようになった。作る楽しみ。釣る醍醐味。そしてシンプルで簡単に釣れる喜び。釣りのおいしい部分が全部詰まった「ひとつテンヤの釣り」は、ブレイクすべくして爆発したのだ。
 変わらないように見える沖釣りの世界。それでも、毎年のように新しい釣法、仕掛け、道具が目白押しに出てくる。それだけ熱気と情熱に溢れた世界なのである。

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イカの作ったテンヤ。タコの介はこれを少しずつもらって使うのだ

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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