【趣の庭】釣り三昧
2009.12.21    

釣り三昧 Vol.48
Joy of Fishing


「つり丸」編集部で
ブリの解体ショーをやる

樋口 正博

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上野は大男なので、ブリが小さく見えるが9キロを超えている。腹が太い

「タコの介さん、ブリいる?」

 新潟・上越の「さとみ丸」の船長、篠原弘からケータイに連絡が入った。夜の10時を過ぎていた。
「タコの介さん。いまブリが釣れたから送ろうか? どこに送ればいい?」
 暮れのこの時期、海が荒れてなければ上越沖はブリ釣りににぎわう。夜間、ライトを照らしての釣りである。
 寒い。極寒の日本海である。ブリ釣りは男の釣りだ。豪快に釣る。
 篠原船長は操船しながら自分でも竿を出してブリを釣る。そのデカさも半端ではない。優に1メートルを超える。
 ブリは日本海を津軽方面から南下してきて上越に到達する。そしてここにしばらく止まったあと富山湾に向かい、ここで定置網のブリ漁となる。このブリが「氷見のブリ」でブランド品である。
「体長は1メートルちょっとだけど、腹がぶっといんで、体重は9キロ以上あるよ。腹身は霜降りの脂が乗って、むしゃぶりついたらたまらないよ」
 ピューピューの風音にまじって篠原船長の怒鳴り声がケータイから聞こえた。

ギャラリーがどんでもない数になった

 翌日、「つり丸」編集部に巨大な長さの発泡スチロールが届いた。ブリである。編集部員はもちろん、「なんだ、なんだ!」と、ほかの編集部の社員も集まってきた。
 最初、タコの介はこのブリを解体してブロックにし、編集部員と知り合いだけで分けようと思っていた。だが、実物を見たほかの社員は黙っていない。
「食べたーい。いますぐ食べたーい!」
 と経理の塩原裕子はいやいやを始めた。
「じゃー、ここでブリの解体ショーをやろう。それをみんなで刺身にして食おう!」
 とタコの介は宣言したのだ。
「おー! よーし!」
 みんなの歓声が上がった。
 包丁をにぎったのは「つり丸」の上野英輝。テーブルに新聞紙を敷き詰め、そこで豪快にさばく。篠原船長がしっかり血抜きをして締めてあったのでほとんど血が出ない。
 腹にすーっと包丁を入れると、包丁を押し出すように白い腹身が現れた。びっしりの霜降りである。
「うわー。すごい脂身」
「脂身じゃなくて、霜降りの腹身だよ」

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腹を割くと白い霜降りの腹身が現れた


 みんな夢中である。上野はまるで回転寿司屋か魚河岸の男たちのように解体ショーを続けていく。
 半身にして、さらに5枚におろすと、となりで大川恵子がサクを刺身にしていく。ほかの編集部員が小皿に秋田「小玉醸造」の杉樽仕込み「三年しょうゆ」を注いでいく。
「よーし、できたところから食べてくださーい」
 タコの介がいうと、あちこちから箸をもった手が伸びた。
「……!」
「……!?」
 声がでない。
「うまーい!」
 ようやく塩原裕子が叫んだ。
 それに呼応するようにあちこちで、歓声が沸き起こる。
「つり丸」編集部はあっという間におまつりのような熱気に包まれたのだ。
 何十人いただろう。めったに話をしたこともない社員たちが大勢詰めかけて、さらにまだ詰めかけてくる。時間にして約30分。9キロもある巨大なブリはあっというまになくなってしまった。
 ちなみにタコの介は2切れ食べただけ。それでもおなかがいっぱいになるような霜降りの腹身だったのだ。篠原船長ありがとう。

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女性陣が最初に賞味をはじめる。
あっという間にブリの刺身がなくなっていく

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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