【趣の庭】釣り三昧
2009.10.19      

釣り三昧 Vol.45
Joy of Fishing


“旦那さん”になった
嵐山御大ご一行様


樋口 正博

写真
小松原船長は二刀流で次々とマダイを取り込んでいった。
いよっ! 名人芸

わしらは「旦那さん」なのだ

 内房の竹岡港には、昔ながらのお大尽が釣りをして遊んだときの船宿がある。「鏡屋」という。ここは、シャクリマダイで知られている。
 シャクリマダイというのは、生きたエビをハリに付け、短い竿をヒョイとシャクってエビを躍らせてマダイにアピールして釣る伝統釣法である。
 かつては、お大尽が何日も居続けてマダイ釣りを楽しんだ。部屋も旅館のように立派。夕食も食べきれないほどの魚料理が並ぶ。
 そして、なによりも素晴らしいのは、船長が釣り客をもてなす心だ。
 まず、タコの介たち釣り客を小松原利夫船長は「旦那さん」と呼ぶ。タコの介は最初、「旦那さん」と呼ばれて後ろを振り向いてしまった。まさか自分が「旦那さん」だとは思わなかったのだ。
 嵐山御大は「ほー、俺は旦那さんか」と、痛く感動していた。スエイは「はい、はい」と2回返事をしていた。伸坊は無言でにっこりした。
「旦那さん」一行はにこやかに気分良く船長の船に案内されたのだ。ほかには「つり丸」編集部員の滝で計5人。
 仕立専門の小さな船の釣り座には、真っ白いカバーの座布団が敷いてあった。
「こりゃ、本当に旦那気分になるなぁ」
 と嵐山御大が喜んだ。

シンプルで奥が深い
シャクリマダイ釣り

写真
マダイを取り込む船長。足元にはもう1本の竿が転がっている

 船長は船を館山湾近くの大房岬へと走らせた。操船している間に、船長は1mちょっとの短い手バネ竿にハリスとテンヤ(オモリ付きのハリ)をセットしている。われわれ5人分の竿を用意した。
 大房岬にはすでに数隻の船が集まっていた。東京湾のシャクリマダイのポイントはいくつか決まっていて、そこはコマセを使った釣りは禁止されている。シャクリマダイ専用エリアである。
 船長は船を止めると、みんなを集めてエビエサの付け方から、シャクリ方まで丁寧に教えてくれた。テンヤには親バリと孫バリの大小2個のハリが付いている。親バリをエビの尻尾から胴に刺し、孫バリは頭近くに刺すのだ。
 そして「20秒間に一回程度シャクってください。タナは私がセットしてありますので、動かさないでください」と教えてくれる。
 手バネ竿にはリールがない。手元に2つの金具があって、これに道糸が巻いてある。船長はタナの長さ分だけ道糸を出して「これ以上出さないでください」と言った。
 道糸は巻き取らずに出しっぱなし。マダイのアタリがあったら、竿を思い切り頭上に振り上げてアワセ、それから竿を後方に放り投げて、道糸を両手でたぐって取り込むのだ。たぐった道糸は各自に配られた大きなオケのなかに入れていく。そうすれば道糸が絡まないのだ。手バネ竿は竹製で短く軽い。
 船長が決めてくれたタナは底近くで約40mだった。「では、やってください」の合図で、みんな一斉にシャクリ始めた。
 とってもシンプルで、だから奥が深いシャクリマダイ釣りだ。

マダイに挨拶する嵐山
後ろで踊るスエイ

写真
絶好調の嵐山さん。となりは踊るスエイ

 最初に釣ったのは嵐山御大である。最近の嵐山さんは釣りに凄みが出てきた。「つり丸」で沖釣りを始めて5年がたった。すでに立派な沖釣り師である。
 嵐山さんはおもむろに竿を後方に投げると、両手で道糸をうんせ、うんせとたぐる。そして海面に姿を見せたのは、青白くぼんやりと浮かぶマダイである。
「やー、お久しぶりね」
 と、嵐山さんが丁寧にマダイに挨拶をした。そのうしろでスエイが手拍子をとって「東京音頭」を踊り出した。
 前夜、豪華夕ご飯を「鏡屋」で食べながら飲んでいたとき、だれかが釣ったら、みんなで「東京音頭」を歌って、マダイを取り込むときに加勢をしようと約束したのだ。
 律儀なスエイは、自分の竿を放り投げて嵐山さんのところに駆けつけ、一生懸命「東京音頭」を手拍子で歌って踊ったのだ。
 最初の1枚が釣れて、船中がガゼン元気が出てきた。

船長はなんと二刀流で
次々とマダイを取り込んでいく

 続いて釣ったのはなんとまたも嵐山さん。マダイがガリガリとエビをかじるアタリがしっかりと分かるのだ。
 思い切り竿を振り上げてアワセをくれると、ほいほいと道糸をたぐっていく。後ろで踊るスエイ。無言で自分の竿先をみつめる伸坊。写真を撮る滝。スエイと一緒に踊るタコの介。
 なんとも楽しい連係プレイだ。
 船長はと見ると、左舷胴の間で操船をしながら竿を振っている。しかも2本の竿を右手にVの字のように広げてシャクっている。つまり二刀流なのだ。これぞ名人技。
 1本の竿にアタリがあると、2本の竿を脇に置き、アタリのあった竿の道糸をたぐっていく。マダイを取り込むと、エサを付けて仕掛けを海に入れる。そして2本を右手に持ってシャクる。まるで、魔術のように次々とマダイをあげていく。あっという間に10枚を釣り上げた。
「秋のマダイは数を釣れといいます。小型ですが数が釣れるんです。春は型を釣れといいまして、産卵期の大ダイが釣れます。どちらも面白い。今日は数をねらってください」
 と船長が説明してくれる。釣れるマダイは約30cmくらいだ。船長が次々と釣ったマダイは船にあるイケスに入れていく。帰りまでイケスに生かしておくのだ。しかも、船長が釣ったマダイはみんな釣り客にお土産としてくれるのだ。ありがたや、ありがたや。

踊りを止めて真剣に釣りだしたスエイ

写真
タコの介にも美しいメスのマダイが釣れた

 タコの介が釣り、滝も釣った。残るのは踊るスエイとじっと竿先を見つめる伸坊だけ。2人はなかなか釣れない。大型のカワハギやサバが釣れているのにマダイが釣れない。
「おかしいなぁ。しっかり踊ってるのに釣れないや」
 スエイがぼやいた。それを見ていた嵐山さんが言った。
「スエイくん。本当はアタリが出ているはずなんだ。それを見逃しているから釣れないんじゃないの。踊りはいいから竿先をしっかり見てアワセなよ」
 まっとうなアドバイスである。
「俺は最初から、じっと竿先を見ているんだけど釣れないんだよ」
 と伸坊が言った。伸坊は竿先を見つめすぎて眠くなって船をこいでいたのだった。
「伸坊の場合はときどき大房岬を眺めて、身体をほぐすといいよ。そうすればアタリもわかってくるから」
 じっと固まっていた伸坊が肩を回してリラックスした。すると、あら不思議、しっかりとアタリをとらえて竿を頭上に振り上げてアワせて、道糸をたぐっては初マダイを取り上げたのだ。
 スエイは踊るのを止めて、自分の竿先に集中して、「よーしッ!」とかけ声をあげて竿を振り上げた。そして、自分で歌い踊りながら道糸をたぐって1枚をゲットしたのだ。
 それぞれに、それぞれの釣り方がある。

「旦那さん、上手ですね」
と、船長が嵐山さんに声をかけた。

写真
「船長のおかげです。バンザーイ!」
右から小松原船長、伸坊、嵐山、スエイ

 嵐山さんはあいかわらず絶好調だ。それを見て船長が「旦那さん、お上手ですね」と声をかけた。
「いやね。不思議だけどアタリが分かるんだ。だからアワセられるんだけどね。でも、この釣りは初めてなんですよ」
 と嵐山さん。それを聞いて船長が「初めてにしてはお上手。センスがいいんですね」と、ほめるから、嵐山さんはますますご機嫌でシャクリまくるのだ。
「ギャー!」
 突然吠えたのはスエイだった。必死に竿を握っている。どうやら大物が来たようだ。竿を放り投げずにしがみついている。船長が飛んできた。
「竿を放して。抵抗してると竿が折れます。道糸を両手でたぐってくださいッ!」
 あわてて竿を放し、道糸をたぐろうとしたときにフッと道糸が軽くなった。バレたのだ。ハリを見ると、親バリが切れてなくなっていた。
「うーん。残念でした。たまに4、5sクラスが掛かるんです。余裕を持ってやり取りしたら上がったかもしれません」
 と船長が残念がった。
「あーあ、闘わずに踊ればよかった」
 スエイが嘆いた。
 こうして、楽しい秋のマダイ釣りが終わった。5人と船長の釣果はちょうど40枚だった。「これだけあると、奥さんにいっぱい料理してやれる。タイ茶漬けにタイ飯。それから昆布締めに。いったい何杯奥さんに食べさせてやれるんだか」
 奥さん思いのスエイが言った。いい話だ。 伸坊もタイ茶漬けを奥さんに食べさせるのだという。不良中年男たちは、急に奥さん思いに変身してしまった。

写真
闘い終わった面々の釣果。スゴすぎです

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


トップページ会社紹介著作権についてお問い合せ
Copyright (c) Flying Garden Rights Reserved.