【趣の庭】釣り三昧
2009.8.3      

釣り三昧 Vol.41
Joy of Fishing


息子にどうしても魚を釣らせてやりたい
Kさんの釣り始め物語り


樋口 正博

Kさんは製薬会社の
研究開発部門に在籍している

 前回に引き続いてふたたび「弥助」話である。「弥助」に、製薬会社の研究開発部門に勤めているKさんという常連客がいる。インテリのエリートである。

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最初に来た写メ。スズメダイがたくさん写っていた

 Kさんの自宅は静岡県の御殿場にある。かつて、ここに製薬会社の研究所があったので、彼はその近くにマイホームを建てた。その研究所が移転してしまった。それでKさんは新宿区四谷にある本社勤務となったのだ。

 御殿場から四谷まで通勤するのはかなり過酷なことだ。そこでKさんは会社と交渉して、会社近くに単身用のマンションを借りた。

週末だけ自宅に帰る
単身赴任者

 金曜日の夜に御殿場の自宅に帰って、土日は家族と過ごし、日曜日の夕方にマンションに帰る。これも過酷といえば過酷なのだがKさんは嬉々としてこの生活を楽しんでいる。

 というのも、平日の夜はカミさんを気にせずに「弥助」で思う存分飲めるからだ。

 Kさんは特徴的な飲み方をする。おもにホッピーを立て続けに飲んで、饒舌に常連たちと話をする。しばらくすると、ふっと沈黙する。見ると熟睡をしているのだ

 これが毎回のパターンなので、常連客は寝にはいったKさんをそのままにしておく。30分たつとKさんは完全復活をして、また饒舌になるのだ。

ある日、Kさんの息子が
釣り道具をプレゼントされた

 そのKさんから、タコの介に相談を受けた。Kさんには小学高学年の息子がいる。インテリ家庭なので、受験勉強に励む毎日である。父と子の会話は週末しかできない。

 ある日、息子がテストの成績がよかったので、塾か業者からプレゼントがあった。いろんな品物から選べるプレゼントで、息子はリール付きの竿に決めたという。
「タコの介さん、この竿でどんな魚が釣れるんだろう」

 と、ホッピーを呑みながら、Kさんが突然聞いてきた。だが、実物を見ない限りどんな釣りができる竿か分からん。

 そこで、長さはどうか。リールの大きさはどうか。曲がり具合は柔らかいか硬いか。いろいろと追求していった。

 どうやら、防波堤の釣りで使う万能竿のようだ。

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2回目の写メ。上がネンブツダイ。下はコスジイシモチ。これも食べられる

もらった釣り道具で
なんとか釣りをしてみたい

「この道具でどこに行けば釣れるのだろうか」

 と、今度は聞いてきた。御殿場から近い海といえば沼津湾である。アジとかイワシが防波堤近くまで回遊していれば、サビキで釣れる。だが、回遊しているかどうかは分からない。

 そんなときは、キスとかカサゴとか、カワハギなどになるかもしれない。

「現場に行かないとなんとも分からないよ。そんなときには、どうせエサなどを買うのだから、近くの釣り道具店に行って、いろいろ聞くのが一番だよ。仕掛けや釣り方や、いま釣れているものなど全部教えてくれるから」
 深く納得したKさん。

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ホンベラのオス。塩焼きでうまい

親父としては
息子の釣りをサポートしたい

「ところで、なんで釣りをしたくなったの?」

「きっかけは、息子が釣り道具をもらったからだけど、親父としてはなんとか釣りをしてもらいたいと思った。だけどなんにも分からない。初心者なりに釣れなくても釣りをしたくなったんだよ」

 すばらしい。こうして、立派な釣りオヤジと釣り息子が誕生するのだ。「つり丸」の読者にもなってくれる。

写メで届いた
小魚をタコの介は同定してやった

 しばらくたって、タコの介が椎名誠の雑魚釣り隊の取材で佐渡島でキャンプをしていたとき、Kさんから突然ケータイがはいった。

「いま、息子と沼津湾で釣りをしています。アジはまったく釣れません。そのかわり、なんか小さな魚がたくさん釣れました。嬉しいです。で、食べられるかどうか息子が聞いてます。写メ送るので確認してくださいぁーい」
 と妙に明るい声だった。

 しばらくすると写メが入った。見るとネンブツダイとスズメダイ。どちらも食べようと思えば食べられる。
「小骨が多いけど、塩焼きにして食べられるよ」

 と伝えた。これがその後も続いたのだ。2回目の写メは、ベラとハゼの仲間。
「ベラは塩焼きで食べられるよ。ハゼの仲間は分からないのでリリースだね」

 こうして、タコの介はKさんの釣果の確認者になったのだ。いやあ、こんな純粋に釣りにのめり込める初心者の時代が懐かしい。

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アナハゼの種類。あまり食べない

 

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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