【趣の庭】釣り三昧
2009.6.22      

Joy of Fishing

スルメイカは手釣りに限る。
ウンセ、ウンセと腕力勝負だッ!

樋口 正博

釣りをしないと
感覚がズレるよ

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名手コンは快調にスルメイカを乗せていく。嬉しくて笑っている

 「樋口さん。最近釣りしてないでしょう。そんなことでは、釣り雑誌の編集長として感覚がズレてしまいますよ。すぐ釣りしましょう。明日行きましょう」

 編集部でボケッとしていたら、コンが突然言い出した。

 「ほら、前に樋口さんが言ってたでしょ。『ああ、スルメイカを釣りたい。手釣りで釣りたい。船上干ししたスルメを焼いてビールを飲みたい。飲みたい』って。行きましょ、スルメイカ。最近ご無沙汰している『春盛丸』の沼田孝章船長が待ってますよ」

 たしかに、釣りはというと毎月嵐山ご一同の釣行をセッティングしてはいるが、そこはそれ。気持ちよく嵐山御大や南伸坊さんに釣りをしていただくために、タコの介は裏方に徹する。最近では自分で釣りもしなくなった。

 好きな釣りをしたいなぁ!

 ある日、ある晩。行きつけの居酒屋「弥助」でコンとコバと飲んでいるときに、不覚にもタコの介は遠い目でつぶやいてしまったのだ。

 そんな複線がタップリあったので、「いや、今日の明日はないでしょう。それに深夜の2時半に家を出なくちゃならないんだよ。手釣りの道具も部屋のどこにあるか分からないんだよ。探すの大変なんだよ」と、ぶつぶつ言ってはみたものの、行かない理由なんかにはならない。

夏のスルメと
ガチの勝負だッ!

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これがタコの介の手釣り道具。たったこれだけで、あとは腕力勝負

 そんなわけで、タコの介は3年ぶりに三浦半島の長井漆山漁港にでかけた。うーん、久しぶりの潮の香りはうまいなー。

 スルメイカは夏のイカである。シーズンが6月に始まったばかりだ。スルメはイカのなかでもどう猛で、長い足で絡みついては噛みついてくる。型も大きく引きも強い。

 この釣りの面白さは、そのパワフルなスルメとの体力勝負にある。10本以上のツノにどれだけたくさんのスルメを乗せるかが勝負だ。

 乗ったら最後、ウンセ、ウンセとスルメと釣り師がパワープレーをする。

 以前は竿もリールも使わずに、手釣りでスルメを釣った。こうなると本当のパワープレーで、大汗をかきながら、腕がギシギシと悲鳴を上げながら釣ったのだ。

 ところが、最近は電動リールが普及して、イカが乗ったらスイッチポン。あとは手ぶらでイカが上がってくるのを待つだけ。

 それじゃ、イカンでしょう。と吠えたら、
 「じゃ、樋口さんは手釣りね。ぼくは電動リール」

 と、コンが言った。ちなみに、コンは「つり丸」編集部でもイカに関してはずば抜けて上手い。名手といってもいい。なにしろ、釣り専門チャンネルの「釣りビジョン」では、イカ釣りの先生として出演し、若い女の子を相手にやりたい放題。って、釣りだけど。

 タコの介は覚悟を決めた。手釣り一筋でやるぞ。竿なんか持って行かないぞ。

イカおやじが
待っている

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孝章船長も操船の合間にガンガン釣る

 「久しぶり! ちっとも来てくれないんだもの。冷たいんだから」

 と孝章船長は、まるでクラブのチーママのような口調でタコの介を迎えた。

 「今日は手釣りだけで頑張るからね、せんちょ!」
 「えっ? 最近、手釣りをする人はめっきりいなくなったよ。石田さんだって、板垣さんだって、みんな電動リールだよ」

 そうなの。石田さんは「春盛丸」の常連さんで元旅客機のパイロット。いつも竿頭を取る凄腕の「イカおやじ」だ。数年前、タコの介は石田さんから手釣りを教えてもらったのだ。もう80歳近くになるかな。

 「イカおやじ」とさり気なく言ったが、これは尊敬と憧憬を込めた呼び方だ。腕がたち、人柄がよく、親切で、動作に無駄がない。こういう常連の凄腕イカ師を「イカおやじ」と呼ぶ。

 嵐山さんにこのことを話したら、「ああ、俺のようなタダのおやじとは違うんだな。イカおやじ。俺もなりたいッ」と叫んだっけ。

タコの介以外は
みんな電動リール

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コンはいいやつだ。釣りの合間にイカを開いてはせっせと干していく

 ともかく、船にはわれわれを含めて11人が乗り込んでいた。で、手釣りはタコの介たったひとり。

 水深100メートルまでオモリを沈め、ウンセ、ウンセと道糸を両手で手繰りながらイカを乗せる。これが手釣り。

 本当に腕がギシギシと悲鳴を上げる。片や電動リール組は涼しい顔してポンポンとイカを乗せてはスイッチポン。

 結局、まったく勝負にならずタコの介は撃沈した。でも、名手コンが53杯(トップは板垣さんの90杯)も釣って、釣りの合間にイカをさばいて船上干しを作ってタコの介に持たせてくれた。

 コンはいいやつだ。今晩はこの半生のスルメを炙ってビールだッ! ちなみにタコの介の釣果は6杯。ぐすん。

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ずらり並んだイカの船上干し。イカ師の勲章。晩のビールの肴

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
 
 


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