【趣の庭】釣り三昧
2009.1.13      
「無限カレー地獄」の恐怖!
 新島のキャンプ番  (その2)
樋口 正博

 テント大崩壊騒動も一段落した。ただ、アマノのメールオーダー米国製テントとナカモトの国産安売りテントだけは、修復不可能なまでに無惨に散った。
 ほかの隊員たちは、そんな悲惨な状態にはまったく無関心。「ハラへった!」とわめき続けている。よしよし、「雑魚釣り隊」炊き出し部おばさん班のタコの介は宣言した。
「カレーができてるぞッ!」


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豪華、晩餐会の準備は着々と進む

■「カレーしかない」と椎名さんが言った。

 やっぱり大人数でのキャンプの定番メニューといえばカレーしかない。鍋をのぞいた椎名さんが言った。
「タコの介、なんで大鍋ふたつなんだ?」
 タコの介はセッセと大鍋ふたつにカレーを作っていたのだ。使ったルーはハウスの「こくまろカレー〈辛口〉」。キャンプのカレーはいつも「こくまろ」だ。  使った量は14箱。計60皿分。たしかに、「なんで大鍋ふたつだ?」という量である。

「えーと、みんな大食いだし、明日の朝はカラーうどんだし…。多分、明日の朝には終わると思うし…」
「カレーは大好きだから嬉しいけどさ、心配もあるんだよ。昼カレー、夜カレー、朝カレー、昼カレーとなっていくカレーまみれじゃ」

 ちなみに、キャンプは2泊3日。スタートが昼からだから、食事は昼・夜・朝・昼・夜・朝・昼と7回はある。カレーがたっぷり残っていたら、椎名さんのいうように、ある意味「無限カレー地獄」に陥る可能性は高い。

 だが、キャンプで料理番はエラいのだ。土壇場で、なにを文句いっても始まらない。タコの介がヘソを曲げたら、なんにも食い物がない、いわば極限状態なのだ。
 隊長の椎名さんは隊長だから、ことの成り行きを心配している。だが、ほかの隊員たちは十分分かっていた。「文句言うやつは食うな!」という激しい現実を。
「ま、たぶん、遅くても明日の昼にはなくなりますよ。まだ余っているようなら、デブのアマノがいるから大丈夫」

 ドレイの竹田が場を収めようと必死だ。ほかの隊員も「うんうん」とうなずいている。ということで、「無限カレー地獄」問題は収まったのである。

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これはサバの竜田揚げの仕込み中。
椎名隊長が思わず写真を撮った

■サバのご馳走と涙のくさや攻め!

 今回、アラスカ在住の準隊員のマキエイが1年振りに参加した。マキエイは大男で大声、ヒゲ面。アラスカでは写真を撮り、アウトドアのガイドとして金を稼いでいる。

 新島とはいえ冬なので寒い。だが、マキエイは「いやー、快適な気温ですね」といいながら、ランニングシャツ1枚で、大声で怒鳴っている。

 そのマキエイが、あることを始めた。じつは、翌日隊員たちはかつてない釣果に恵まれたのだ。ニシザワがカンパチ。カイジンがマダイ。そして多くの隊員が大量のサバを釣った。その数、わからんほど。群れが防波堤に寄ってきて、入れ食い状態となったのだ。

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野人・マキエイが特製の燻製釜を作った。
いよいよ火入れ式である

 みんなが釣りをしていたとき、タコの介はただひとりキャンプ場で、料理おばさんとなって夕飯(まだ、カレーは残っていたが…)の準備をしていた。そこに隊長以下隊員たちが意気揚々と帰ってきた。

「お帰りなさい」
「おお、タコの介。大漁だぞ。すごいぞ。サバ地獄だぞ!」
 と地獄の好きな椎名隊長が言った。見ると、クーラーに入りきれないほどのサバだ。

「あら、よかったわね。さっそく締めサバでょ、サバ味噌煮でしょ、サバの塩焼きでしょ、サバの竜田揚げでしょ、サバハンバーグを作るわね」
「うっ……」
 椎名隊長が思わず喉を鳴らした。

「じゃ、ぼくはサバの燻製を作りますよ」
 とマキエイがこのとき参戦してきたのだ。それからマキエイの苦闘が始まった。キャンプ場の炊事場で周囲にあったレンガや石で燻製の釜を作り出した。ああでもない、こうでもないとやること1時間。見るととんでもなく立派な釜が出来上がっていた。

 マキエイはこれで素晴らしく旨いサバの燻製を作ってしまったのだ。さすがは、アラスカの野人だ。

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さあ、晩餐会の始まりだ。椎名さんの後ろはデブでドレイのアマノ


■その夜の晩飯は、涙がでるほど豪華


 その夜の晩飯は、涙がでるほど豪華だった。編集部のコンちゃんが島の北端、若クまで車を走らせて、島特製のくさやを買ってきた。たっぷりの身の厚いムロアジと、トビウオである。
「うっ……」
 椎名隊長がまた喉を詰まらせた。

 椎名隊長はくさやが大好きで、「くさやがあれば、あたしゃ身代棒に振る。カネもいらなきゃオンナもいらぬ。くさやの2本もあればいい」
 というほどのくさやフリーク。

「うむ、うんむ、ぬぬぬ……」
 と、作家なのに言葉をなくして感涙にひたる椎名隊長なのである。おしまい。

 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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