【趣の庭】釣り三昧
2008.11.10      
食って悶絶!
釣って極楽


内房・富浦沖のカワハギ釣り

樋口 正博

 タコの介が、日ごろからあまりにも「カワハギ釣りは面白い。だが、この釣りは技術の差が歴然と出る。素人さんが手を出すと火傷をする。それでもやるのか。カワハギ釣り」と、脅しをかけているので、嵐山さんは躊躇していた。

 でも、「ああ、食いたい。肝和えカワハギの刺身。なんとしても食いたい。ああ、夢にまで見る。あのカワハギの肝和えを皿に並べて、ザザザーッと10センチの長さ分箸で絡め取って、思う存分食いたいッ!」という嵐山さんの思いはタコの介には十分伝わっているのだが、これまで、たった1回しかカワハギ釣りをしていない。

写真
「釣りチャンネル」の嵐山さんの番組「極楽釣り日和」の
タイトル画(現場描き)

 嵐山さんが「つり丸」で連載を始めてすでに3年と半年。この期間にたった1回しかカワハギ釣りをしていないのだ。
 そのたった1回は、真冬の寒風吹きすさぶ熱海でのことだった。すぐ近くにホテルが立っていた。そのホテルの窓辺に灯りがともっている。このときの心境を、嵐山さんは「つり丸」で次のように書いていた。

《「フトンのなかでアベックが抱きあっているんだろうな」
 とうらやましく思った。
 こちらは強風のなかで、かじかんだ指でアサリの餌をつけているのに、アベックは暖かいベッドのなかでいちゃいちゃしている。朝のイッパツてのもあるし、おめーら、どうせ不倫だろう。課長さんと入社三年目のOLにちがいない。コノヤローめ。こっちが釣りしてんのに、指なんか噛んでんじゃねえや》(「つり丸」06年2/1号)

 本人はうらぶれた寒船で、寒さに震えて凍死寸前になってカワハギ釣りをしていたのだ。鼻水をたらし、頭は波をかぶってびしょ濡れ。「早く揚がらないかな…」ともいえずに、嵐山さんは悶絶していた。このときはたった1枚のカワハギを釣っただけで終わった。
 
「もういやだ。もうカワハギなんか!」
 と、嵐山さんはあのときを思いだし、その後何回もタコの介に訴えていた。
 だが、天気がよくて、ぽかぽか陽気で波静かで、そこそこ釣れるなら、「いまでも行きたい。すぐに行きたいカワハギ釣り」なのである。

写真
嵐山さんがカワハギに焦がれて書いてしまった
著書『カワハギ万歳!』(PHP新書)

 なにしろ、嵐山さんには『カワハギ万歳!』(PHP新書)という著書がある。カワハギへの熱い思いをこめた1冊である。それほど恋いこがれたカワハギなるである。

■奇人、変人、怪人、テレビ人
 入り乱れての釣行前夜

 そこで、タコの介は2年間という歳月をかけて、満を持して最高のカワハギ釣りができるステージをご用意した。しかも、今回は中年ワルオヤジも3人セットにして。  以前、南房総・乙浜港の「海人丸」で嵐の中の荒波特攻隊と化してしまった戦友たちである。すなわち、シンボー(南伸坊・イラストレーター)、スエイ(末井昭・「白夜書房」取締役編集局長)、サクラギ(櫻木徹郎・「つり丸」発行人)の面々。

 ここに「釣りビジョン」のディレクター、小野貴晃がADの大槻を従えて、カメラを担いで参入してきた。つまり、嵐山御大を筆頭とした不良中年男たちのカワハギ釣りの一部始終を1時間の番組に仕立ててしまえという魂胆なのである。

「つり丸」からもタコの介のほかに、最近、永田文生名人の手ほどきを受けて、メキメキと腕を上げたコンちゃん(近藤加津哉編集部員)もサポート隊員として駆けつけた。向かうは内房・富浦の仕立船専門の「ゆたか丸」。

 面々は夕方6時過ぎ、宿泊先の富浦駅近くの民宿「光崎館」に集結した。嵐山さんを乗せたタコの介のオンボロ車が到着すると、すでに小野がカメラを構えて撮影体勢に入っていた。


写真
カワハギのキモ和えを真ん中に、不良中年たちの宴会が始まった

「光崎館」は新装なってピカピカ。オヤジさんが料理に腕を奮ってくれた。そこに、皿にきれいに盛りつけたカワハギの刺身とキモが出てきた。小野が午前中に勝山港の「宝生丸」でカワハギを釣って調達してきたのだという。「ぼくが14枚。まったく初めての大槻も14枚。悔しいですッ」と小野が言う。

「よーし。上出来だッ!」
 と、嵐山さん以下4人のオヤジたちは、一斉に箸を伸ばして、あっというまに2皿を食ってしまった。「うまいなー。カワハギだぜ。キモ和えだよ」と、スエイがカンゲキした。シンボーがニコニコして食っている。嵐山さんも笑顔が絶えない。サクラギは黙々と食べていた。

 宴もたけなわ。「では、明日のためのカワハギ釣りのレクチャーをしましょう」と、コンちゃんがカワハギの絵を切り抜いてテーブルに乗せ、いま最新釣法の「アワセのいらない驚異のカワハギ釣り」の極意を説明しはじめた。親父たちの頭が集まった。真剣である。

   ひと通りのレクチャーが終わると、オヤジたちは「釣ったも同然」の顔になって、また酒を飲み出すのである。寝たのが午後11時。
(つづく)



 
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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