【趣の庭】釣り三昧
2008.08.25  
  休日にはたったひとりで
釣りに行く


雨でも嵐の日でも

樋口 正博  

写真1
いまや休日は園芸に凝っている(玄関先のルドゥーテ)

 以前だと、ポッとできた休日には必ず釣りに出かけていた。タコの介は家族サービスをずっとおろそかにしていた。したがって、家族もタコの介に期待しない。
 なにしろ、レジャーランドみたいなのは苦手で、東京ディズニーランドにも行ったことはない。家族はしかたなく、タコの介抜きで何回もでかけている。
 いまでは娘たちも大きくなって、気まぐれに「映画見に行こうか」と誘っても、「えぇー! いいよ。趣味合わないしぃ」と却下されてしまう。もはや、いまさら家族にすり寄っても手遅れなのだ。
 
 休日、ひとりで出かける釣りは、ヘラブナ釣りが多かった。ひたすら巨ベラを求めて富士五湖の河口湖に通っていた。雨が降ると嬉しい。巨ベラが警戒心を解いて岸近くに寄ってくるからだ。
 岸辺のアシの切れ目に入って釣り台をセットし、19尺の長竿を継いでひたすらエサ打ちを繰り返す。早朝の湖面はもやに包まれ、「ギョギョギョ、ギョギョチ、ギョギョチ」とオオヨシキリがしきりに縄張りを主張している。
 ウキはまだ動かない。タコの介はじっとウキの動きを見つめている。
 
 エサ打ちから2時間近くたった午前8時近く、ウキのトップがフワリと揺れた。まだまだ。ようやくヘラが寄ってきた。だが、エサを食うまでではない。
 じっとガマンをして、再びエサ打ちを繰り返す。もう少し。あとわずかで食うはずだ。この頭の中になにもない状態になりたくて、タコの介はたったひとりで早朝から竿を振っているのだ。
 
写真
休日は釣りもせずにバラづくり<宴(うたげ)>


「なんでこんな日に、釣りに来たんだよ」

 という時間を持てたのは、いつのことだったろうか。もう2年以上前の話だ。その間に、休日の釣りはヘラブナ釣りから海の沖釣りに変わった。だが、その沖釣りに出かけるのも、仕事での取材がほとんどだ。
 ただ思い出すのは、暮れの30日に東京湾にひとりでタチウオ釣りに出かけたことだ。年末で休日に入っていた。正月を郷里で過ごす予定だった。久しぶりに兄弟の家族も集まる。
 ここはひとつ、とびきり旨いタチウオを釣って、みんなにタチウオ料理を振る舞おうと、柄にもないことを考えたのが間違いだった。
 当日は強風に雨。なじみの船宿に駆け込んだら、「なんでこんな日に来たの? だれもいないよ」と若船長に言われてしまった。たしかに、この嵐のなかを釣りしようという酔狂な人はいない。

写真
休日のキャンプはネコと戯れる


 諦めて帰ろうとしたら、酔狂がもう一人来たのだ。
「……うーん」
 若船長は2人の酔狂をしばらく睨んで、「出るか!」と、やけ気味に言った。  われわれ3人は大きな船にポツンと乗って、荒れ狂う東京湾の荒波に出船したのだ。えてして、こんな嵐のときには、思わぬ釣果が出るのだが、そんなことはなかった。10時を過ぎても酔狂2人はタチウオは釣れない。船長が、「もう、帰ろうか。やっぱり無理だよ」と、マイクで怒鳴った。そうだな。そう諦めかけたときに、タコの介以外の酔狂に1本の太いタチウオが掛かって、空を飛ぶようにして船内に取り込まれた。

「なんだ、釣れるじゃん!」
 元気を取り戻した船長がやる気になった。だが、それは海の気まぐれにしか過ぎなかった。酔狂2人はお地蔵さんのようになって、雨風のなかで沈黙してしまったのだ。
「今度こそ上がるぞ!」
 船長の最後通告でちょん。われわれは暮れの寒い日に、荒れ狂う東京湾で全身ずぶ濡れになってタチウオ釣りをした。鼻水まみれ、手はかじかんで、股は水漏れして歩くのも内股で気持ちが悪い。
 だが、なぜかタコの介の心は晴れ晴れとしていた。船長、そして見知らぬ釣り師。みんな戦友のような連帯感があった。孤独で寂しい釣りでも、自分のなかを見つめるような釣りができたとき、タコの介はまた行こうと心に誓うのだ。  で、いま? 時間ができても釣りにはいかず、郷里に走っては両親の介護と庭いじりをしているタコの介なのです。

写真
休日の晩酌はとっておきのマダイの干物を焼く。酒は冷酒。
 

 
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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