【趣の庭】釣り三昧
2008.7.28
 灼熱地獄のタチウオ釣り

 苦闘の果てに見たクーラーの中身は?

樋口 正博   
写真1
これが東京湾の絶品釣魚のタチウオです。
釣り上げるのに大汗をかきました。


 今年も真夏の祭典がやってきた。熱中症にやられるか、食い渋りで悶絶するか。東京湾のタチウオ釣りである。どっちにしても「命がけ」のLTタチウオ釣りだ。なにしろ、タコの介は昨年この釣りで熱中症になって船上ダウンをしているのだ。
 水分補給もしていたが、何しろ船上は日差しから逃れる場所がない。動きが緩慢になったかと思うと、頭痛と吐き気がしてきてへたり込んだ。初めての体験だった。
 その熱暑のなかのタチウオ釣りがまた始まった。横須賀の新安浦港の「村上釣舟店」から出船。正午までの半日船である。
 今年の夏は雨が少なく、熱暑の毎日である。当日も太陽はギンギラギンに照りつけていた。
 前日は絶好調で、30本、40本は釣れるのではないかという予想だった。今回もタチウオ名人の永田怪人が同行してくれた。永田怪人がいれば万全である。
 釣れているので平日でも結構なお客さんが乗っていた。しかもタチウオ釣りが得意な船宿のおかみさんもいる。
 出船した船は一直線に東京湾を南下した。周辺にもフルスピードで走る船がいる。目指す先は千葉県寄りの大貫沖である。到着してびっくりした。
「すげー!」
 と嵐山御大が絶句した。なんと20隻以上の釣船が船団を作っている。しかもごく狭い範囲のなかでひしめき合っているのだ。
 まさにテールツーノーズ。船の舳先が接触寸前である。
 タチウオは別名幽霊魚と言われていて、神出鬼没。頭を海面に向けて群れで立ち泳ぎしているのだが、なにが気に入らないのかあっという間に群れが消滅する。
 船長は魚探とにらめっこをして、そのタチウオの群れを追いかけるのだ。したがって、密集した船団が右往左往する。
「水深は20m。底から水面まで探ってください」
 と宮下?寿船長から開始のアナウンスだ。タチウオのタナが底から水面までということは、全部ということだ。それほどタチウオは動きが早く、どこにいるいるか分からない。
 
写真
「ほら、いまのがアタリ」「分からん」
永田文生怪人が付きっきりで指導する

 嵐山さんが期待の第1投目。エサはサバの切り身。スルスルと仕掛けが落ちていって、20mでフッと糸がフケて止まった。このあとは竿をシャクッてはリールを巻いて、水面まで探ってくる。
 タチウオはまた悔しいことに、エサ取りの名人である。あの鋭い歯をもった面構えから想像もできないほど、巧みにエサだけをかすめ取っていく。これが釣り人をしびれさせる。つまり、上手な人とヘタな人の釣果が歴然と違ってくるのだ。
 このテクニカルなところが、釣り人を心を熱くするのだ。

「嵐山さん、
   ぼくの竿を持ってくださいッ!」


 釣れない。ただエサだけが取られる。タチウオはいるのだが、活発にエサを食わない。ちょっとしゃぶって、先端だけをかすめ取っていくのだ。このとき出る微妙なアタリが分からなければハリ掛かりさせることはできない。
 永田怪人も苦戦。タコの介はまったくダメ。嵐山さんもアタリが分からない。船中でも釣れてない。ほかの船も釣れてない。太陽が容赦なくジリジリと襲いかかる。懸念していた消耗戦に入ってしまった。
 それでも永田怪人はポツポツと釣りだした。船宿のおかみさんはさすがである。船中ではトップの釣れっぷり。おかみさんはキャディーのように全身を衣類で覆い、大きなつばの帽子で日焼けを完全防備している。
 竿先を上下に動かす誘いの幅を変えたり、リールで巻き取るスピードに変化を付けたりしても、なかなかアタリがでない。
写真
タコの介がなにも注文しないのに、
「釣れませーん」の顔をした嵐山さん

「どうしたらいいんだぁ?」
 と、嵐山さんが叫んだ。永田怪人は言った。「魚はいるんですよ。ただ、水深が20メートルと浅いので、この大船団で攻めているとすぐにスレてしまうんですよ。だから、アタリにしても小さい。それにしっかり食わない。ちょっとさわる程度。アタリがわかったら、とにかくあわせてください。待っていたら、エサをとられるだけです」
 いつものように永田怪人は冷静に状況を判断している。だが、タチウオ釣りに慣れない嵐山さんは、微妙なアタリを見つけられない。これは慣れの問題なのである程度仕方がない。竿をひったくるようなアタリなど今回はまったくないのだ。
 永田名人が嵐山さんにアドバイスをしているのだが、なかなかハリ掛かりしない。
 そのときだった。真剣に釣っていたタコの介にタチウオが掛かった。無言で水面近くまでタチウオを寄せていたタコの介は、グッと竿を嵐山さんに突き出した。
「……!」
「竿、持って! 釣り上げてください」
 タコの介はそういって、竿を嵐山さんに押しつけるとカメラを取り出した。タコの介が釣ったタチウオを嵐山さんが取り込む。写真を撮る。これはヤラセではない。その経緯は全部正直に説明するからだ。
 なんにもタチウオを持った写真がないと、記事にしにくい。万事心得た嵐山さんは満面の笑みを浮かべて釣ったタチウオをつかんで写真に収まったのだ。
 難しい。タチウオは。でも、こんな面白い釣りはない。しかも、その味といったら。もう、脂ノリノリで塩焼きにしたらジューッと脂が滴って、その上品な白身は甘さがたっぷりだった。  嵐山邸に帰ってクーラーを開けてびっくり。タチウオが20本以上も入っていた。たしか、タコの介が2本、嵐山0だったのに…。そう、永田怪人と船宿のおかみさんがそっとタチウオを入れておいてくれたのだ。  ありがとうね! 嵐山さんはタチウオを近所に配った。 「また、市長選挙を意識して、市民の歓心を買ってるんですね」  とタコの介がポツンと言った。

写真
沖揚がりの船上。
「嵐山さん、釣れませんでしたぁって情けない顔をしてください」
というタコの介の注文でこんな顔に
 

 
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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