【趣の庭】釣り三昧
2008.7.28
 次々と出てくる
 タコとアジ料理の逸品


 タコの介は独り占め

樋口 正博   
写真1
テーブルに載せられないほど並んだ、
マダコとマアジの料理


 見ているだけではガマンできなくなった。
「オヤジッ! 早く食わせろ!」
 タコの介は不覚にも、その場で思わず怒鳴ってしまったのだ。
 いま、生きたマダコの足が皮をペロリと剥かれ、真っ白な柔肌をうねうねとよじらせている。その白い柔肌を「割烹さしろ」のオヤジが薄くそぎ切りにしていく。それを身体を密着させるようにして、鈴木幸輝カメラマンが写真を撮っている。
「つり丸」名物の魚料理ページを、今度から「さしろ」のオヤジ、河原井毅夫さんが担当することになった。釣りも魚料理も大好き。しかも、自分の包丁さばきを丁寧に説明してくれる。そんなオヤジの魚料理をこれから半年に渡って紹介する。

写真
オヤジが料理をする、幸輝が撮る

 その撮影現場にタコの介はいる。一応、編集長として撮影の現場を仕切っているのだが、鈴木カメラとかデザイナーの石ちゃんとか、文章を書く盛川徹とか、スタッフはすべて仕事の段取りを心得ているので、タコの介はただいるだけ。出番はない。
 それよりも、「食わせろ!」とか「ウマソー」とか、撮影を中断することばかりしているので、「オヤジ、タコの介がうるさいから、静かにさせて」と徹が言いだし、できたての活ダコの刺身をドンと出してくれた。

写真
絶妙にボイルされた江戸前のタコ
「……!」
 わめいていたタコの介が一瞬で黙った。さっそくワサビ醤油で口にする。
「……!!」
 なにしろ、まだ生きていて、真っ白な柔肌をくらせているのだ。
「くー!」
 噛む歯を押し返す弾力。ほのかな甘み。やはり江戸前のマダコは絶品だわ。思わず、
「ジョッキの生ぁ〜!」
 と、ノー天気に叫んでいた。タコの介がタコを食う。

写真
外は熱が通り、中は生という絶妙なタコ刺し

 オヤジはそのあいだにも、次々とタコ料理を作っていく。その手際のいいこと。 「活造り(生タコ)」のほかに、「マダコのしゃぶしゃぶ」「タコの刺身」「タコの酢の物」「タコと長芋のかき揚げ」「タコ飯」と、わずか1時間ほどで、タコづくし料理ができあがった。
 で、タコの介はというと、テーブルひとつを占領して、撮影が終わった一品を次から次へと試食していくのである。ビールが進む。いいんだろうか。真っ昼間から、こんな贅沢三昧で。と、思いながらも、ひとりで宴会を堪能しているのである。
 その間、撮影スタッフは黙々と仕事をしている。優秀なスタッフに恵まれたタコの介は幸せ者である。

写真
タコの優しい甘みが広がるタコ飯

■今度はアジ料理のこれでもか攻撃だ

「オヤジ、さすがにタコばっかりだと、ちょっと飽きるなぁ。次のメニュー作って!」
 わがままなタコの介が、また余計なことをほざいている。ここは真剣勝負の料理撮影現場なのだ。
「オヤジ、タコの介を黙らせて」
 と、また徹がいう。徹だって早く撮影を終わりにして、タコの介のテーブルいっぱいに並んでいるタコ料理をビールとともにヤリたいのだ。
「はいよ」
 オヤジはアジの料理を始めた。新連載のオヤジの料理ページのタイトルは「できる料理人の絶品釣魚メニュー」にした。第一回目は「マダコ・マアジ」の2種類。ともに夏が旬のうまい魚とタコだ。

写真
熱々のアジの塩焼きを頬張る幸せ

 まず出てきたのは「マアジのお造り」。刺身はまずは素材の新鮮さが一番。ついで大事なのは包丁さばきだ。銀色に光るアジの肌にサッサッサと美しい飾り包丁が入った。
 タコの介はその切り身を醤油にサッとつけると、醤油の表面にじんわりとアジの脂が広がった。ほうばると、さわやかな夏の味が広がり、そのあとに甘みが追いかけてくる。
 続いて「アジのタタキ」「アジのなめろう」「アジの塩焼き」「アジの唐揚げ」「アジの南蛮漬け」「アジの天ぷら」「アジの天丼」「酢締めアジの押し寿司」「アジの煮付け」と、アジのこれでもか攻撃が続いた。「酢じめアジの押し寿司」を食べたところで、
「もうダメ、もう食えない」
 と、ギブアップ宣言。
「あのね。べつにタコの介が全部試食しないでいいんだよ。俺たちがあとで楽しむんだから」
 と、幸輝さんがファインダーをのぞき込みながら、ポツリと言った。そりゃ、そうだ。
「早く終わって食べようね。待ってるからね」
 あー、昼のビールは酔いが早い。こんな贅沢があと5回もできるのか。これでいいのか?

写真
アジと酢はよく合う。
酢じめにしたあと押し寿司にした「酢じめアジの押し寿司」
 

 
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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