【趣の庭】釣り三昧
2008.7.14
 嵐山御大、南伸坊、
 老人ホームへ突入


 ごま塩頭の逆襲が始まった

樋口 正博   
写真1
船上で釣ったスルメイカを食う。
思わずニマッとして笑いが止まらない


 先日、嵐山光三郎、南伸坊とでスルメイカ釣りにでかけた。場所は三浦半島の長井漆山港。沖釣りの世界ではイカ釣りの港として知られる。嵐山さんはイカ釣りが大好き。というよりも、イカを食うのが大好き。
 スルメイカは船上干しといって、釣った端から船上で開いて干すのが常道。名人クラスになると、船がポイント移動のため走り出すとすぐに包丁でイカを開き、スルメ状態にしてホイホイと干していく。
 それはまるで、主婦が洗濯物を干すように、動作にまったくのよどみがない。見事なもんだ。これは長年のイカ釣り人生がなせる技だ。干す作業を修練しようとしても、まずイカを釣る技術がないとまったくできない。
 釣れる人しか習得できない技術。これは、究極の名人技である。
 だから、イカ釣り専門の船宿には、それなりにみんなに認められたイカオヤジたちがいるのだ。年季が入っている。

 というような、イカ釣り世界の真実とはまったく関係なく、嵐山は行く。ズンズンと行くのだ。「シオカラぁ〜、シオカラぁ〜」と叫びながら。新鮮スルメで自家製塩辛を作って食いたい。その一心なのである。

写真1
やるときはやる。釣りは真剣勝負だ

 で、なんで伸坊さんがわれわれのバタバタ釣行に加わったか。ちなみに伸坊さんはイラストの巨匠である。嵐山さんは画聖ミナミと呼んでいる。じつは、伸坊さんとは哀しい過去がある。
 前回の6月27日、南房・乙浜港「海人丸」で、好調に釣れているイサキに行った。嵐山さんが「つり丸」で連載している「嵐山光三郎のつり道楽」の取材釣行である。だが、猛烈な雨風の嵐。それでも海人船長は果敢に出船して、われわれは見事討ち死になったのだ。

「もう、死ぬかと思った」
 全身ずぶ濡れになって、はあはあしながら、ミナミ画聖は船を降りたのだ。目標ひとり30匹のイサキが、4人で3匹という貧果。
 で、次回はリベンジだということで、長井港のスルメイカになったのだ。


嵐山画 「つり丸」連載「嵐山光三郎のつり道楽」

■お姉さまが言った。「ご入居ですか?」

 ところが、宿泊する予定だった長井港近くの「湘南人材育成センター」に行ってハプニングが起きた。
「ジジイの俺たちが、人材育成センターに泊まるのか」
 と、ごま塩頭の嵐山さんとミナミ画聖が、ふらふらと受け付けに行く。ここは、昨年オープンしたばかりの真新しいセンターで、受け付けにはにこやかな笑顔でお姉さまが待っていた。お姉さまは、やさしく尋ねた。
「ご入居ですか?」
「……!」
「たしかにご入居だけど、部屋あるの?」
 と、嵐山さんが念を押したから、話はさらにややこしくなった。

 お姉さまは、ここぞとばかりパンフレットを取り出して説明を始めた。パンフレットをのぞき込んだ2つのごま塩頭が顔を見合わせた。パンフレットには、「24時間看護師が常駐。全室オーシャンビュー。要介護者25人あたりに職員1人以上配置。介護付有料老人ホーム」とある。
 タコの介はこのとき、駐車場に車を駐めていて、ごま塩頭2人だけが、ふらりと老人ホームの入口を入ってしまったのだった。
「おい、どうする? ご入居するか?」
 嵐山さんとミナミ画聖は、一瞬だが真剣に悩んだとふり返る。
 宿泊施設は6階にあって、入口は別で隣りだったのだ。

 翌日のスルメイカ釣りは順調だった。「つり丸」編集部員のイカ狂い、コンちゃんが奮闘して、3人で30数杯を釣り上げた。
「よし、干そうか!」
 嵐山さんの一声で、次々と開いたスルメが船上に渡したヒモに吊されていく。スルメのスダレだ。
 そのうち、ミナミ画聖がスルメの刺身を作り出した。身が厚くモチモチして甘く、絶品である。2つのごま塩頭が頭を寄せ合って刺身を食いだした。
「おい、タコの介。ビールはないか!」
 釣りなどどうでもよくなった嵐山さんが、叫んだ。
 「ありません!」「シュン…」
 
写真
ごま塩頭オヤジが叫んだ。
「早く焼けッ! ビールはまだかぁ!」


 船を降りて、港で七輪を取り出し炭をおこした。できあがったばかりの生干しスルメを焼いて食うのだ。ジリジリと身が黄金色に焼けて丸まった。香ばしい匂いが立ちこめる。待ちきれずに手を出した嵐山さん。
「アヂヂ、アヂッ!」
 それでも手を火傷しながらスルメをさいて、マヨネーズと一味唐辛子を振りかけほうばると、「うっうっうーー!」と言葉にならない。

「タコの介、ビールはまだかぁ!」
 嵐山さんの咆哮が、トンビが舞う港に響き渡ったのだ。

 
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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