【趣の庭】釣り三昧
2008.6.23
鍋を囲んでマハタの夜は更ける…

若い女性に囲まれて

樋口 正博
写真2
こんなことがあっていいのでしょうか。
タコの介が若い女性に囲まれている!


 静岡県御前崎の沖に金洲(きんす)と呼ぶ好漁場がある。御前崎港から高速遊漁船で約1時間で到着する。
 大型マダイ、ヒラマサ、カンパチ、ワラサ、ブリなどの青物が釣れる。さらには40cmにもなるジャンボイサキ、アオダイ、ヒメダイなど、釣り師にはパラダイスのような高級魚が釣れるポイントであり、漁師にとっても金になる瀬である。なにより「金洲」という名前の由来が「金になる場所」という意味があるのだ。

 タコの介は指折り数えて待っていた。編集部員のケンを。銭洲に取材に行っていたケンからケータイが入っていたのだ。
「樋口さん。お土産いっぱいありますからね。ジャンボイサキでしょ、ヒラマサでしょ。ワラサも、アオダイもあります。でも、なんといっても一番はマ・ハ・タ。『弥助』でハタ鍋やりましょう。速攻で持って帰りま〜す!」

 ケンは別名「鉄砲玉ケン」と呼ばれている。沖釣り専門誌の「つり丸」は月2回発行。つまり2週間で1冊作る。1週間で関東、東北、北陸、伊豆、伊豆諸島などに編集部員が散らばって釣り取材をして、残りの1週間で編集作業に没頭して毎月1日と15日に発刊しているのだ。
 で、「鉄砲玉ケン」は、最初の取材期間の1週間、土日を入れて9日間は編集部を出たっきり帰ってこない。予定表のホワイトボードは取材日程でまっ黒状態だ。

■「ケンが帰ってくるぞ!」

 ケンの帰りを待ちわびているのは、ほかにもたくさんいる。いつも魚を持ちこむ小さな居酒屋「弥助」の常連たちは、ケンの動向を詳しくチェックしている。タコの介のところには「まだ、ケンは帰ってこないのか」とケータイが入るくらいだ。
 なんといっても、新鮮でホントの天然物の高級魚が食べられる。いくら汚くて小さくて、常連さんしかいなくて、オヤジが頑固ですぐけんかをしても、「弥助」では夢のようにとびきり旨い魚が食えるのだ。
 
 今回は、ケンも力が入っていた。旨い魚が釣れたので、知り合いの若い女性とそのまた知り合いの若い女性、そのまた知り合いの若い女性を大量に「弥助」に待機させていたのだ。
 そんなことは知らないタコの介は、普段はオヤジに占領されている「弥助」に、若い女性軍団が大量にいて、度肝を抜かれた。
 しかも、そのなかの何人かは、タコの介の顔をじっと見つめている。そしてニコッと笑顔をこぼす。
 ナンダ、何なんだ。
 
写真2
上品な脂が芥子粒のように浮かぶ。
白い身のマハタはプリプリ。じんわりと甘みが広がる


 そこにケンが重いクーラーを持ってきた。さあ、大宴会の始まりだ。
 魚をさばいて料理するのが大好きな「弥助」のマスターは、無言でマハタの下ごしらえを始めた。マハタは丸まると太り3m、50cmを超えていた。マスターはコヤツと格闘している。
「マスター、野菜炒めと冷や奴ね!」
 魚と格闘しているときのマスターを知らないKYオヤジが、余計な注文をした。
「いま、ダメ。なんにも作らないからね!」
 とその酔オヤジはマスターに睨まれて、スゴスゴと退散。
 しばらくして、「さあ、出来たよ。脂ノリノリのマハタの鍋だ!」とマスターが叫ぶと、「うわーッ!」と、女性陣の歓声がわき起こった。鍋にみんなが群がった。
   「うっ、美味しすぎー!」
「これ、本当に魚なの? 上品な鶏肉みたい」
「もー、幸せ。ありがとうタコの介さんッ!」
「えっ?」
写真3
「どんどん食って。いっぱいあるからね」
ケン(右)は女性にはとびきり優しい


 ここに集まった女性たちは、「つり丸」を読んでいてタコの介のことを知っていたのだ。どうりで、「弥助」に入ったときにフレンドリーな視線に囲まれたわけだ。
 タコの介が編集長として「鉄砲玉ケン」をコントロールして仕事をスムーズにさせていることを常連客たちはみんな知っている。だから、ケン以上にタコの介を大事にしてくれているのだ。
「いや、そうじゃなくて、タコの介はデスクワークばかりだから…」

 それにしても、上品な脂が芥子粒のように浮いて、マハタの白い身はなんと深みのある味なんだ。それに、一緒に多くの気持ちのいい人たちの鍋を囲む幸せ。
「ケン、また釣って来い。すぐ釣って来い!」


 
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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