【趣の庭】釣り三昧
2008.5.26
「謝るけど反省はしない」

この名セリフには
涙なくしては語れない秘密があった。
オヤジ5人組が嵐のなかでイサキ釣り

樋口 正博
写真2
翌朝、午前4時起きなのに、
夜更けまでオヤジたちは盛り上がった


 南伸坊著に『さる業界の人々』(ちくま文庫)という本がある。さる業界というのは、エロ本業界のことである。一冊でも多く売れるものを作ろうと、この業界の編集者たちは死力、体力、痴力の限りを尽くしている。
 下着売り場でパンティーの透け具合を詳細に調べたり、モデルの女の子をひたすらホメちぎって脱がせて、きわどいポーズを取らせたり…。あまりにも過激にやりすぎて、当局から呼び出しを受けて始末書を何枚も書いたり。
 そうした、涙なくしては語れない伝説の名物エロ雑誌編集者がかつてはいた。たとえば、白夜書房で『写真時代』という過激写真雑誌の編集長だった末井昭氏。「つり丸」の親会社であるサン出版で、ゲイ雑誌『さぶ』を創刊した櫻木徹郎氏。

『さる業界の人々』には、SさんとS君という伝説的なエロ雑誌編集者が登場する。じつは、Sさんが櫻木、S君が末井である。さんと君の違いは、南伸坊のひとつ年上だからSさん、ひとつ年下だからS君。
 櫻木さんは現在、タコの介の直属の上司だから毎日顔を合わせている。ちなみに「つり丸」の発行人である。末井さんとは、『ダカーポ』(マガジンハウス)という、いまでは廃刊になってしまった雑誌のインタビューで会っている。たしか20年以上昔のことだった。

写真1
『さる業界の人々』(南伸坊著・ちくま文庫)
絶版だが、アマゾンの古本で入手可能


 取材のテーマは「始末書」だった。末井さんの作る『写真時代』は、荒木経惟(アラーキー)の過激な写真で圧倒的人気を誇っていた『写真時代』は、それゆえに当局からは常に睨まれていたのだ。そして、ちょくちょく呼び出しをかけられて桜田門に出向くのである。
 行き先は地下一階の保安一課風紀一係。そこで、係官は付箋の貼られた『写真時代』を開いて「まずいでしょ。事件になりますよ。行きますよ」と脅す。末井さんは平身低頭謝りまくって、なんとか始末書で収めてくる。
 これはだれにもできる芸当ではない。両者があうんの呼吸でコトを収めていく過程というものは、一種の名人芸ですらある。
写真2
嵐山さんが、嵐のなか良型のイサキを釣った

 そこで、タコの介はたずねた。
「そんなに何回も始末書を書くと、もう絶対にしません、ごめんなさいと全面降伏する気にはならないんですか」
 すると末井さんはニヤリとして、
「謝るけど反省はしない」
 という名セリフを吐いた。この言葉を聞いたタコの介は、「やった、これでインタビューは大成功だ!」と内心ガッツポーズをしたものだった。
『ダカーポ』には「謝るけど反省はしない」の名セリフが大きくタイトルとなって載った。
 末井さんとはそんな思い出がある。でも、たった1回のインタビューである。タコの介のことなど覚えていないだろう。

写真2
伸坊さんも苦心の末にイサキをゲット

■「あっ、それ思いだした」

 ところが、『さる業界の人々』に登場する櫻木、末井、伸坊の3人と嵐山光三郎さん、タコの介とオヤジ5人が、同じ船に乗って南房でイサキ釣りをすることになってしまったから大変だ。
 前夜は船宿で大酒盛り大会になった。そのときに、タコの介は末井さんに言った。「もう覚えていないかも知れないけど、昔、『ダカーポ』という雑誌の取材で末井さんに会ってます。『写真時代』の猥褻写真の始末書の件で……」
「あっ、思いだした。『謝るけど反省しない』って書いたでしょう。あのあと大変だったんだから。人のいいあの係官を怒らせてしまって」
 そうだったのか。覚えていたのか。
「だって、あんな名セリフ、放っとくはずがないじゃないですか。書きますよ絶対に(笑)」
 かくして、酔っぱらいオヤジの夜は更けていくのだった。翌日の釣果? 誰のせいかは知らないが、ものすごい嵐のなか、5人でイサキ3匹。全身ずぶ濡れ。沖釣り初の末井さんは「おれ、もう死ぬかと思った」と震えっぱなしだったのだ。末井さんには2度ご迷惑をかけてしまった。

写真2
末井さんはゲロを吐きながらも
オアカムロアジを釣った。エライと思う


 
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。通称「タコの介」(嵐山光三郎命名)。
 
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