【趣の庭】釣り三昧
2007.11.05
樋口 正博
 
 ぼくがその、名手と言われた永田文生(52歳)と初めて会ったのは、2000年の10月だった。「つり丸」が創刊されて間もないころだ。
 場所は東京湾きってのカワハギの名船といわれる「巳之助丸」。「巳之助丸」は神奈川県の三浦半島の先端、久比里・夫婦橋にある。
 
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金髪の怪人、永田文生
 

 夫婦橋には、ほかに「山下丸」「山天丸」という船宿があって、この3船はすべてカワハギクリークの定宿になっている。
 永田と会ったきっかけは「つり丸」でカワハギの名手の技を紹介するという短期連載の取材だった。「巳之助丸」に「常連さんのなかで名手を紹介してください」と頼んで、永田と出会えたのだ。
 メガネをかけ、一見気むずかしいサラリーマンといった印象だった。だが、カワハギの話をはじめるとマシンガントークになった。カワハギに関する情熱がほとばしる。
 当時のぼくの記事を見ると、『永田文生45歳。会社員。「久比里・夫婦橋三船」のひとつ「巳之助丸」に通い始めて25年。その独特の「アタリを取る」釣法で抜群の釣果を誇る。新しいカワハギ釣りの理論家』とある。

 
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良型のカワハギを釣った永田
 

 カワハギ釣りというものを知らない人のためにひとこと。カワハギはキス釣りやハナダイ釣り、磯釣りなどで、巧妙にエサをかすめ取る外道として嫌われる。別名「エサ盗り名人」。そして食べては絶品といわれるほど旨い。とくに旨いのはキモ和え。
 だが、カワハギそのものをターゲットにすると、これほどシビレル相手はない。なにしろ、あの小さなおちょぼ口でエサのアサリを吸い取るようにむしってしまう。その間、竿先に魚信などでないから、釣り師は知らない間にエサを取られっぱなし。
 この難問のカワハギを、なんとかハリ掛かりさせようと釣り師は熱くなる。そこでテクニカルなカワハギ釣りが進化した。当然、釣れる人と釣れない人の差は天と地も違う。名手が80枚のカワハギを釣っても、隣りの初心者は3枚も釣れれば御の字。といったようなシビレル釣りなのだ。

 
 で、永田だが、そのときは自分の理論を論理的に語り、そして実践して見せた。ぼくの印象としては、永田はただの名手ではなく、その自分の釣りをほかの人に正確に伝えられる釣り師というイメージだった。
 以来、永田とのつきあいは続いている。永田はその後、会社をやめてなんの仕事をしているか分からないこともあった。個人トレーダーをしているとも聞いた。そして、髪の毛はキンキンの金髪になって、容姿もますます怪しくなった。人なつこい笑顔はそのままに。
 今年の8月、「つり丸」で嵐山光三郎さんがタチウオ釣りをするときに、アドバイザーとして永田に来てもらった。嵐山さんは永田の特異な風貌にびっくり。そして、さらにマニアックな釣りを展開する永田を見て驚愕した。「沖釣り界には、まだこういう不思議な人間がいるんだな」としきりに感心していた。
 そして今年の秋、かなり衝撃的なことが起こった。永田は「巳之助丸」通いをやめて、三浦半島各港、そして内房方面へといろんな船宿を歩き出したのだ。永田には親衛隊ともいえる釣り仲間がいて、毎日のようにブログで情報交換をしている。
 永田がある船宿で釣りをすると、それまで15枚くらいがトップだったのが、65枚という数字が突然でる。それを見た仲間やその知り合いが翌日どっと押しかける。船宿は突然ふってわいた事態にただただ驚くだけだ。
 

 こういうことがこの秋各地で起こった。これはカリスマ性のある永田ならではの現象で、とうとう船宿の船長から「あの、永田さんがウチにきてくれないかなぁ」という電話を「つり丸」編集部に入れてくるほどになった。
 こうした「突然ラッシュ」ともいえる前兆は前にもあった。永田はカワハギのようなテクニカル系の釣りが大好きで、ほかにはタチウオ、アオリイカ、マルイカなども守備範囲にしている。
 なかでもマルイカ釣りはこの2、3年過熱気味のブームで、毎年のように仕掛けの新開発や釣法が進化している。永田もこの流れのまっただ中にいて、今年は三浦半島の先端の剣崎松輪港のある船宿に通ったからもう大変。
 それまでマルイカ釣りはあんまり得意ではなかったその船宿に、ぞくぞくとマルイカファンが殺到した。たしかに、毎日の釣果が必ずホームページに出るので一目瞭然。しかも、トップに永田の名前が連続して出るので、永田ファンともいえる釣り師は気が気ではない。時間をやり繰りしてその船宿にやってくる。
 とうとう、その船宿はマルイカ名船の仲間入りをしてしまった。もちろん、稼ぎも莫大なものになった。

 
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ほんのわずかな時間に永田が釣った
 

 同じ現象はカワハギでも起こっている。湘南の江の島近くに腰越港という港がある。ここは例年、カワハギ釣りをさせてくれる。ここにやってくるのは、熾烈なカワハギ釣りのテクニックを磨く人たちではなく、ごく一般の釣り人たちである。釣果は15枚前後がアベレージ。
 だが、このエリアのカワハギの魚影は濃い。なぜかというと、根がたくさんあって、しかもカジメなどの海藻が繁茂している。そういう場所なのでカワハギが温存されている。こういう場所での釣りは油断していると根掛かりが頻発して釣りにならない。仕掛けやオモリがいくらあっても足りないのだ。
 だが、この秋「つり丸」の取材で永田がここの船に乗ったから大変。一気に74枚という数字が出てしまった。しかも、永田が「つり丸」で根周りや海藻のなかを攻略する方法を解説してしまったから、カワハギフリークが殺到した。
 ほかの船は3、4人の釣り人が乗っているだけなのに、その船宿は2船出して満船。隣りの船宿にお客さんを回す事態になってしまったのだ。
 永田のいいところは、そうして注目されたり、船宿から「来てくれ」と言われても、釣りをするときには必ず船代を払って乗っていることだ。つまり、この業界にありがちな特定の船宿との癒着はない。
 ブログやホームページを活用した現代のカワハギ釣り。情報が飛び交い、釣り師もそれに釣られて右往左往する。船宿はもっとビックリ仰天する。沖釣りの先端ではそんな現象が起きている。

 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。
 
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