【趣の庭】釣り三昧
2007.10.09
Vol.4釣の方がずっとエクスタシーを感じるよお化けよりももっと怖い話です
樋口 正博
 

 中央道の八王子ジャンクションから、開通なった圏央道に入った。トンネルが連続する。鶴ヶ島ジャンクションからは関越道。そして上信越道を軽井沢、長野と抜けて新潟県・上越へと向かう。まだ秋の気配はない。


 
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「わっはっは。どうです、極上の干物が完成。篠原船長(左)ありがとね」
 

 嵐山光三郎さんと上越の海で秋のマダイ釣りをする。
 マダイ釣りというのは沖釣りをする人にとっては一種の憧れであり、究極のターゲットでもある。姿形の良さ。食べて絶品。そしてマダイを釣るには手練手管がいる。釣りの面白さがすべて凝縮されている。
 だから、全国にマダイ釣りのファンは一番多いし、しかも釣法も多種多様。
 沖釣りでいま一番主流の釣り方は「コマセマダイ」である。ビシにコマセのオキアミを詰めて、8mもの長いハリスの先にオキアミ1匹をハリに付ける。水中でビシを振ってオキアミをまいてマダイを寄せて、ハリの付いたオキアミを食わせる。

 

 簡単といえば簡単。難しく考えれば限りなく難しくなる。で、釣り人の多くはマニアックな性癖を持っているので、簡単な釣りをひねくり回してややこしくして、わざと難しくして仕上げていくのだ。
 「つり丸」にはそういう変人奇人がいっぱいいて、仕掛けやら道具やらをひねくり回して「これは画期的な仕掛けだ。だれにも教えないけど、ちょっとだけ『つり丸』に教える」と、まるでぽん引きのオヤジみたいにすり寄ってくるのだ。
 そんないかがわしい情報を振り分け、またはわざとその誘いに乗ったりして、沖釣り専門誌の「つり丸」は、「スクープ! タイ釣りに革命的仕掛け登場!?」とやって、大向こうをうならせる。

 

 そんなスクープのなかに、マダイバリのチモト(糸を結ぶハリの端)に浮力のあるパイプやビーズを付けて、水中でちょっとハリに付いたエサを不規則に動かして、マダイにアピールさせるという「フロートビーズ釣法」というものがあった。これをドカンと「つり丸」で紹介するや、その反響は恐ろしいものがあった。
 まず、「そのビーズはどこで手にはいるのか?」という問い合わせが殺到した。さらに、釣具店からは「もう売り切れてビーズがない。どこか在庫のあるところを知らないか」と泣きついてきた。その状態をみたメーカーが、そのまんま「フロートビーズ」という名称でビーズを新しく売り出した。
 そして、編集部には読者から「フロートビーズ釣法で大ダイが釣れた」「初めて5枚ものタイが釣れた」「自分だけ釣れて、ほかはボウズ。なんで釣れるんだと船長に問いつめられた」という情報がつぎつぎと舞い込んだ。
 こんなとき、「ああ、釣り雑誌をやっていてよかったな」という編集者魂を揺すぶられるのだ。

 

 「樋口さん。また新しい釣法を発見したよ!」
 で、今回は9月下旬に上越に走ったのだが、「フロートビーズ釣法」を提案したのが、その「さとみ丸」の篠原弘船長なのである。
「樋口さん。また新しい釣法を発見したよ。今回のはね、『フロートビーズ釣法』の進化形。特徴はね、潮が速すぎて釣りにならなかったり、釣り座が潮の向きで不利な場所であっても釣れる。むしろ、不利な状況ほど釣れるというやつです」
 怪しい。怪しすぎる。
 こんなとき、「えっ? そんな虫のいい仕掛けなんかあるの? どんなの、教えて教えて」とがっついてはいけない。
「ふーん、また変な妄想してるんじゃない。まっ、がんばってよ」
 と、相手にしない。すると、
「なに言ってるんですか。前回の『フロートビーズ釣法』だって、爆発的な人気だったでしょう。今度はもっと凄いんだから、あのね、かくしくしかじかでね。それでも、こういうときにはこうしてね。ほかで釣れてないのに、ガバガバ釣れちゃうわけですよ。そしてね…」
 と、延々と船長の話は続くわけである。

 
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港のレストハウスで、干物の撮影用にススキの葉を集める嵐山さん
 

 篠原船長は36歳と若いのに、その操船センス、釣りに対する情熱は並外れている。ある種の天才といってもいいか。だから、46時中、釣りのことばっかり考えている。そのために、奥さんは2度家出をして、常連の釣り客の仲介でこの前ようやく奥さんが無事2回目の帰還を果たしたばっかりだ。
 「最初は半信半疑だったですよ。それでね…」気がつくと、まだ話してる。
 その「画期的な仕掛け」とやらを、嵐山さんと一緒に試そうじゃないかと、ぼくたちは上越をめざしたのだ。
 ところが、釣りの当日になって天候が変わった。午前中は強風で出船できない。予報では午後に収まるということなので、午後船に乗ろうということになった。だが、昼から強風に土砂降りがミックスして嵐になるという。とうとう嵐山が嵐に負けた。

 
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急遽、マダイ、メバル、サワラ、アジなどが大量に集められた
 

 「どうするんだよ。忙しいスケジュールを空けて上越くんだりまで来たんだよ。どうするんだよ。どうするんだよ」
 と、嵐山さんはタコの介(ぼくのことを嵐山さんはこういう)を責め続けた。追い詰められたタコの介は窮余の一策、思いつきで叫んだのだ。
 「よーし、今回は『釣らずに開く』で行く。シノハラ、魚を用意しろ。タイだメバルだ。アジにサワラだッ!」
 嵐山さんが「つり丸」に連載しているタイトルは「釣って開いて」。船上で釣った魚を片っ端から開いて船上干しにして、それを肴に酒を飲もうという、釣り師極上のコンセプト。魚が釣れなかったら、釣らずに開くしかないじゃないか。ということで、連載始まって以来初めての「釣らずに開く」ことになったのだ。
 港で大波にあおられる「さとみ丸」に飛び乗って、釣り座に跨って魚を開いたのだ。午前中のまだ雨が降らない時間に。
 これはこれで楽しい。嵐山さんはいう。
 「釣らずに開くのも楽でいいなぁ。今度またやろう。タイとヒラメでやろう。タコも干そう」
 冗談じゃありません。釣らないと商売にならないのです。

 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。
 
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