【趣の庭】釣り三昧
2007.06.25
Vol.4釣の方がずっとエクスタシーを感じるよお化けよりももっと怖い話です
樋口 正博
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もう仲間だ、離さないぞ。似顔絵だ。もらってくれ

 

 釣りを続けていると、忘れられない人と出会う。嵐山光三郎さんにとって、八丈島の名船頭、マッちゃんはそんな一人だ。彼がいるおかげで、八丈島での釣りがまったく違う次元になる。
 色黒、朴訥、奥さん、美人。
 昨年、嵐山さんはマッちゃんの「松令丸」に乗って、見事15・4キロを筆頭に2本のヒラマサを釣り、マッちゃんと抱き合って喜んだ。しかも、その大マサはいまわの際に、太い尾びれで嵐山さんの股間をビンタするというおまけが付いた。
 嵐山さんがヒラマサを手にできたのは、一にも二にもマッちゃんの操船術があったからだ。彼はほかの船頭が絶対に行かないポイントをたくさん知っている。そして、黒潮の速い流れのまっただ中でも、船を定位させてポイントを外さない。

 
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嵐 山さんが釣った腹太の9キロ弱のカンパチ
 

 事実、その翌日、ほかの船頭の船に乗って同じヒラマサ釣りをしたのだが、船頭は潮の流れに船を止めることができずにまったく釣りにはならなかった。
 そのマッちゃんに再び会いに行ったのは今年の7月26日のことだった。今回はカンパチ狙いである。マッちゃんがニコニコしてわれわれを迎えてくれた。だだ、「海水温が急に高くなって、カンパチはまったく釣れない」という。
 「ええっ!」
 マッちゃんの船にさえ乗れたのなら、カンパチでもヒラマサでも釣ったも同然と思っていた嵐山さんが絶句した。今回、嵐山さんはどうしてもカンパチを釣りたかった。というのも、「今度、八丈島でカンパチを釣ってくるから、料理屋に集まるように」と、編集者、芸術家、その他20人近くの知人友人に集合を掛けていたのだ。
 「だから、そういう約束は絶対にしてはいけないって言ったでしょう」と、タコの介(私のことを嵐山さんはそう呼ぶ。酔うと真っ赤っかになるからだそうだ)は思わず叫んでしまった。それを聞いていたマッちゃんがポツリと言った。
 「よし、明日は絶対に釣らせてやる!」

 
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妻の由美さんは言ったそうだ。「大切にするのは妻でしょう」
 

 そして、その言葉通りに、マッちゃんは嵐山さんに9キロ弱のカンパチを釣らせてくれたのだ。その夜は寿司屋で盛り上がった。もちろん、マッちゃんもいた。島焼酎を飲むほどに朴訥だったマッちゃんが饒舌になった。なんと、島育ちだと端から思っていたマッちゃんは、埼玉県熊谷市出身だということが判明した。島に来て30年。今年が50歳なのでちょうど20歳のときだ。
 それまで長距離トラックの運転手をしていたマッちゃんは、八丈島に釣りに来て、そのまま島にとりつかれて島民になってしまったのだという。漁師をやりながら釣りを覚え、そして遊漁船専門の船頭になった。いまでは島一番の腕利き船長だ。
 「釣りはじいちゃんに教わった。荒川でアユやウナギ釣りをした」
 と八丈島の船頭がいう。頭のなかで埼玉の荒川でウナギ釣りをしているマッちゃんをどうしても想像できないのだ。
 感激した嵐山さんは、マッちゃんの腹にサインをした。「由美さん夫を大切にしようね」由美さんはマッちゃんの美人妻なのだ。もう、マッちゃんがいる限り、嵐山さんの八丈島は特別の特別なのだ。

 
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樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。
 


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