【趣の庭】釣り三昧
2007.06.25
Vol.4釣の方がずっとエクスタシーを感じるよお化けよりももっと怖い話です
樋口 正博
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 これは、ある程度年配の沖釣り師ならたいていは知っている、とても怖くて哀しい話である。

 いまから30年近く前のこと。場所は伊豆の伊東の先の寂しい国道135号線。永井裕策さんは夜更けにこの道を走っていた。釣りのために伊豆下田に向かっていたのだ。

 永井さんはちょっとびくびくして走っていた。当時はいまよりずっと車は少ない。永井さんの車の前後には一台の車も走っていなかった。
「俺は前から聞いていたんだ。夜中にこの辺をひとりで走るとあいつが出るってことをな」と、永井さんは遠くを見つめる目で話し出した。
 「あいつ」というのは、幽霊とかお化けといったたぐいの、ありがちな陳腐なものではない。れっきとした生身の人間だ。
 深夜の暗闇の国道に人間がヌッと現れたら、それは怖い。だが、永井さんが警戒していたのはもっと怖い人間だった。
「着物を着たオカマが出るんだよ」

 ここで、固唾を飲んで聞いていた人たちがプッと笑った。
「あはははは…」

  「ばか、笑い話じゃないんだ。本当に怖いんだから。深夜、国道に出るオカマってのは」そのオカマは、いまどきのオカマのように美しくもなんともない。ただのゴツイ顔をした男だという。

 なんで深夜に現れるかというと、男が欲しいからだ。そこで待ち伏せをして、男がひとりだけで運転している車を狙って道に飛び出してくる。ある意味、命がけの行為だ。
 その場所は特定できない。というのも、国道135号線をかなり移動するからだ。
 「だれかに乗せてもらって、いろんなところで下ろされるからね」

 ところで永井さんだが、幸運か不幸か、これまで深夜のオカマのことは知ってたが、実際に遭遇したことはなかったという。その代わり、彼の友人が出会ってしまった。
 「よせばいいのに、そいつは車を止めてしまったらしいんだ。そしたら、やつはするりと助手席に入り込んで、いきなり友人のチンポをにぎってきたというんだよ」

 この光景を見てきたように、以下に紹介しよう。
「なにするんだッ!」と、友人はびっくりして大声を出した。それを聞いたオカマは突然豹変した。
 「うるせぇ!」と、いきなり男になって怒鳴りながら、助手席のドアを開けて逃げていったのだ。チラリと見えたそのオカマの後ろ姿には、やむにやまれぬ業を背負った哀愁が漂っていた。
 この国道を夜走るのは、いまも昔も釣り人しかいない。したがって、この話は釣り人の間ではかなり知れわたっていた。永井さんがこう言って話を結んだ。

 「俺があいつに出会ったら、男なんか漁らずに釣りをやれって言うな。釣りは男なんかより数段エクスタシーを感じるからと、な」
 
永井裕策 マダイ釣りの名人。「つり丸」に「永井流 独創 マダイ釣りの真髄」を好評連載中。酒が 飲めない陽気なおじさん。
 
樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。
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