【趣の庭】釣り三昧
2007.04.23
Vol.2  長井名人シリーズVol.1 震えた話
樋口 正博
 伊豆下田の船宿でのこと。永井さんは大口を叩いている、ある釣り人と出会った。その人は北海道からイシダイを狙って通っているという熱心なイシダイファンだった。  「 オレはよー、イシダイなんかイヤになるほど釣ったよ 」  
  そんなに釣ったのならもう釣るなよ、と永井さんはそのいけ好かない大口氏に言いたかった。で、2人は船で沖に出た。そしたら、その大口氏が3キロのイシダイを釣った。  さすがは大口を叩いているだけあって、ちゃんと釣るな、と永井さんは思った。だが、その大口氏が突然震えだしたのだ。しかも、全身をガクガクさせるほどに。さらには、その姿勢のままでがっくりと腰を抜かした。みると小便まで漏らしている。
「 どうしたんだ! 」 と永井さんは相手の身体を支えたが動かない。しかたなく、船は港に猛スピードで戻った。  その人が起きてきて 「 すみませんでした。オレはでかい口を叩いてたけど、イシダイを釣ったのは初めてなんです 」 という。 「 聞くとね、そのイシダイを釣るまでに十何年かかっていたらしいよ。それを聞いて、オレはそいつの気持ちがよくわかったよ 」
 永井さんが初めて三浦半島の磯でクロダイを釣ったときには、握っていた竿を離せなくて困ったという。 「 手の指が固まって動かないんだ。うれしくて、興奮しちゃってね。やっと竿から手を引き離して、次のためにハリにエサを付けようとしたら、これがまったくダメ。手が震えて話にならない 」  それを聞いていた若い釣り師が言った。
「 いまもハリにエサ付けにくいよね、永井さん 」
「 え?」
「 ほら、老眼で 」
「・・・・・」
写真
千葉県・外房・大原沖で
永井名人が釣った3キロのマダイ
 
永井裕策 マダイ釣りの名人。「つり丸」に「永井流 独創 マダイ釣りの真髄」を好評連載中。酒が 飲めない陽気なおじさん。
 
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樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
沖釣り専門誌「つり丸」編集長。最近は釣りよりも魚料理に興味が傾いてしまった。毎月一回、嵐山光三郎さんと連載「釣って開いて」の取材に出かけるのが、おもな釣り取材となっている。
 


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