【緑の庭】牧野植物園便り

2011.12.6  

Makino Botanical Garden News


甘み強く、酸味のバランスもよい、それに大粒

長崎で食して、その実を持ち帰る

牧野博士が田中氏の自宅でそのビワを写生
夏井 操

 
 植物園の植物分類学者と一緒に仕事をしていて思うことは、分類学者がいう植物はすべて同等であるということです。
 例えば、私は山の野草が好きで、華美な園芸品種は興味が半減したり、果物や野菜を植物扱いしにくかったりするところがありますが、私の周りの分類学者たちは野菜も果物も、花卉も、野草も、すべてが植物学の範疇なのです。
 牧野博士もじつにさまざまな植物に学名をつけていて、命名植物のなかにはチリメンハクサイや、ワサビ、キンカンといった身近な食べものが目につきます。
 今回は博士が何度も随筆に書かれているビワの品種の話です。


冬に咲くビワの花

■田中氏は上野動物園の設立などに尽くす

 牧野博士が、東京で行われた勧業博覧会を見学するために初めて上京したのは1881年。その時に明治政府博物局の田中芳男氏を訪ねています。
 田中氏は、日本最初の理学博士である伊藤圭介氏に植物を学んだ博物学者で、東京上野の動物園や博物館の設立に力を尽くした人物。後に男爵の称号を授かっています。
 当時牧野博士は19歳、田中氏は43歳でした。ちなみに伊藤氏は当時78歳で、98歳まで生きており、牧野博士にとって伊藤氏は神のような存在だったことでしょう。


ビワの花

■長崎で見つけ、自宅に庭に種を巻く.

 さて、その田中氏の名前がついた“田中”というビワの品種があります。1879年ごろに田中氏が長崎を訪れた時、食べたビワ(唐ビワの一つだろうと思う、と牧野博士は述べています)の実が大型でおいしかったため、種子を持ち帰り、自宅にまいたものです。よく育ち、1887年ごろには実がなるようになりました。
 牧野博士はそのビワを写生してほしいと頼まれ、田中邸に赴いたことがあります。その実の着色図を描いたのですが、田中氏は牧野博士に食べろとは言いませんでした。「図を描いてやったのだから、その実の一つ二つくらいは食えと言ったとてよさそうなものだが」と回顧しています。
 牧野博士はこう考えました、田中氏は食べたビワの種子を門外に持ち出されるのを恐れたのではないか、と。


蜜を吸うメジロ

■現在も生産される

「抜け目なく極めて用心深い先生」「用意周到、深謀遠慮に警戒した」と察したのでした(遺稿『我が思い出』より)。大の大人が、ビワを食べていいと言わず、またそれを著書に書き残し、ちょっとおもしろいやりとりではありませんか。
 その後、そのビワの種子は頒布され、田中ビワは、生産されるようになりました。甘みが強く、酸味もバランスよく、大粒であるということで現在も生産されていますし、また“大房”や“希房”といった品種の母種としても活躍しています。
 昭和7年発行の『植物研究雑誌』第8巻第5号に、牧野博士は「田中枇杷の称は何時までも保存し、同先生の世人に対しての厚意と親切とを記念してよいと思う」と書いています。牧野博士による田中ビワの記述はいくつも残されています。田中ビワが世に出る前に、一口食べてみたかった牧野博士でした。

(高知県立牧野植物園学芸員)




▼インフォメーション

■企画展ご案内

 ○開催中○7月16日(土)〜4月8日(日)
「植物を知ろう!」
http://www.makino.or.jp/
内容/植物は、わたしたちの暮らしに役立つだけでなく、唯一の生産者として地球上のすべての命を支えています。本展では、身近な植物をテーマに、植物の受粉の仕組みやタネの飛ばし方など、植物たちの知恵や工夫を、春夏秋冬を追って紹介します。観察したり、模型をさわったり、工作をしたり、体験しながら植物のことが分かる企画展です。
観賞料/無料(但し、入園料が必要です)

12月23日(金)〜25日(日)
「常夏のクリスマス」
http://www.makino.or.jp/
高知県立牧野植物園

 牧野植物園は、高知県が生んだ植物学者・牧野富太郎博士の業績を顕彰する施設として、昭和33年(1958)に、高知市五台山に開園した施設です。平成11年11月には「牧野富太郎記念館」が開館しています。
 園内には博士を生む土壌となった高知県の植物を中心に、博士ゆかりの植物など約3,000種が四季を彩られています。
 また、植物園機能とあわせて、貴重な資料を紹介する展示、研究、生涯学習の場を提供する施設などを収めた博物館が同居する総合施設は、国内では他に例がないと思われます。さらに、景観に配慮した環境保全型建築の方向性を示す優れた建築物として全国的な評価を受け、第13回村野藤吾賞をはじめ数々の賞を受けています。

リンク
 
 
 


トップページ会社紹介著作権についてお問い合せ
Copyright (c) Flying Garden Rights Reserved.