【緑の庭】牧野植物園便り

2011.4.4  

Makino Botanical Garden News


大きな花を重そうに連ねる小さな草

愛媛県の赤星山で出会う
夏井 操


  春の登山道を行くと、シソ科のラショウモンカズラMeehania urticifolia (Miq.) Makinoに出会うことがあります。

  私は愛媛県の赤星山で見たのですが、日本では本州、四国、九州の山地で見受けられます。分布は韓国、中国、ロシアでもあります。

鬼の腕に見立てる?

  ランショウモンカズラは日本のシソ科植物のなかで一番といえるほど大きな花を重そうに連ねた小さな草で、その名前の由来を初めて聞いたとき、私はぎょっとしました。

  和名を漢字で書くと羅生門葛です。羅生門の近くに生えていたのか、というとそうではないようです。

  牧野博士は和名の由来について「この太い根棒状の花冠を、かの渡邊綱(わたなべのつな)が羅生門で切り取った鬼の太い腕に見立ててこれをそう呼んだのではないかと思う」という説を唱えています。

  渡邊綱は平安時代中期の人物で、大江山で酒呑童子を退治したり、羅生門で鬼退治をしたりと、かなりのツワモノだったようで、現在もその武勇伝が能や謡曲で語り継がれています。

  それはともかく「と思う」ということは牧野博士が和名をつけたのではないということ、すなわち、すでにそう呼ばれていたということです。

  学名に(Miq.)とあるのはドイツの植物学者ミクエルMiquel(1811-1871)が1865年に発表したものを、牧野博士が1899年に別の属として分類し直したことによります。


赤星山のラショウモンカズラ

  ルリチョウソウの名も

  牧野博士と同世代で東京帝国大学の植物病理学教授であった白井光太郎博士は、水谷豊文の『木曾採薬記』(1810年)のなかでルリチョウソウという名前を見つけており、昭和2年の植物研究雑誌で「ラショウモンカズラの一名」と記しています。岩崎灌園の『綱救外編』(1825年)に出ていたとあったので、牧野文庫で調べてみると、「ラセウモン ルリ蝶サウ」との記述がありました。

  また、『備中植物誌』を著した吉野善介は、昭和7年の同誌で、鬼の腕の説を牧野博士の説と断ったうえで、「(ラショウモンカズラは)ルリチョウソウという一名もあるらしい。    

  岩崎灌園(江戸後期の本草学者)の描いた『日光山草木圖』に出ているが、あるいは日光地方の方言かもしれない。その花の色や形から瑠璃鳥に見立てたものであろうが、この名の方がはるかに雅馴でラショウモンカズラのような怪奇的な名はこの優麗な草花を現すにふさわしくないようである」と遠慮しながら述べています。

  ここでルリ蝶ソウは瑠璃鳥草に替わっていますが、確かに鬼の腕に似た花といわれるより、木漏れ日のなか、瑠璃色の鳥が群れ遊ぶようすをイメージした方がふさわしいでしょう。


植物園のラショウモンカズラ

園芸品種が花壇を飾る日も

  牧野博士は昭和6年の同誌に「日本の園芸家に望む」と題し、ぜひ日本の野生植物を品種改良して西洋に負けない優秀な新花をつくりだしてほしい、と訴えています。

  シランやキエビネ、カワラナデシコやユキノシタ、シモツケソウなどを例に挙げ、その中にラショウモンカズラも改良の見込みありと思う植物として挙げていました。

  中にはイカリソウやホタルブクロなど、すでに品種改良が進み、現在、華やかな園芸品種が流通しているものもあります。牧野博士が想像した花は徐々に具現化してきており、ひょっとしたらラショウモンカズラの園芸品種が花壇を飾る日もくるかもしれません。

(高知県立牧野植物園学芸員)

▼インフォメーション

■開催中企画展ご案内

 ○3月5日(土)〜7月3日(日)
志国高知 龍馬ふるさと博
「五台山花絵巻 弐の巻 〜和蘭(オランダ)の春〜」
http://www.makino.or.jp
高知県立牧野植物園

 牧野植物園は、高知県が生んだ植物学者・牧野富太郎博士の業績を顕彰する施設として、昭和33年(1958)に、高知市五台山に開園した施設です。平成11年11月には「牧野富太郎記念館」が開館しています。
 園内には博士を生む土壌となった高知県の植物を中心に、博士ゆかりの植物など約3,000種が四季を彩られています。
 また、植物園機能とあわせて、貴重な資料を紹介する展示、研究、生涯学習の場を提供する施設などを収めた博物館が同居する総合施設は、国内では他に例がないと思われます。さらに、景観に配慮した環境保全型建築の方向性を示す優れた建築物として全国的な評価を受け、第13回村野藤吾賞をはじめ数々の賞を受けています。

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