【食の庭】食道楽
2010. 6. 14

Enjoy four seasons with fine food


皮膚の老化もSTOP!

身も皮もすべて食べられる夏魚

金関 亜紀    
 


グロテスクな顔とは裏腹にあっさりした白身で栄養満点。


 コンコンチキチン、コンチキチン…と祇園囃子が聞こえてくると、食べたくなるのが鱧(はも)。グロテスクな顔からは想像できない淡泊な白身は昔から多くの人に愛されてきました。その鱧はどうして京料理のひとつになったのでしょうか。

■祇園祭りと鱧料理の縁

 梅雨入りし、じめじめした時期になったけれど、それも明ければ夏。ということで、今の時期から食の市場にでてくるのが鱧ですね。鱧というと高級魚というイメージが強いが、そのなかでも京都の夏料理というべきでしょう。夏の京都といえば祇園祭が全国的に知られていますが、観光にその時期京都に行かれた方も多いのではないでしょうか? 祇園祭りは“ハモ祭り”と別称があるほど、その時期に有名旅館やお店などの食事でだされるのが鱧をつかったお料理です。なんと京都の中央卸売市場では一年のうち、祇園祭のある7月の16日、17日の両日がが一番高騰する時期なのだとか。昨年はキロ当たり4000円以上もの値が付いたものもあったそうです。
 鱧料理が京料理といわれるようになったのはいつ頃からでしょうか。それは簡単。活きのいい鮮魚を京都まで運ぶ技術がなかった時代、生きたまま京都まで運ぶことが出来た数少ない魚であったからだそうです。そのため、他の地方では食べようとも考えられなかった鱧を当時の京都の料理人たちが美味しく食べられるようになるのか苦心しながら研究し、今の鱧料理の技術が生まれました。


職人技といわれる“骨切り”。シャリシャリという音が聞こえてくると夏の到来を感じます

■その魚!凶暴につき!

 鱧は 見た目でもわかるように鰻やアナゴと同じ、 ウナギ目ハモ科ハモ属の部類にはいります。西日本各地に生息し、そのなかでも和歌山県や徳島県、愛媛県、山口県、長崎県などから多く出荷されています。そのため東日本の人にとっては鱧といってもあまり馴染みの薄い魚でしょう。鱧はやや平べったい円筒形で、尾に近づくほど平べったさを増します。背ビレと尻ビレはそれぞれ尾ビレへと境目がなく、連なっています。腹ビレはなく、ウロコもほとんどありません。お腹は銀白色、口先は細長く深く避けた大きな口には鋭い歯が並びます。かなり怖い形をした魚なので、昔から手をだす人が少なかったのかもしれませんね。今でこそ鱧は高級魚といわれていますが、昔は惣菜魚だったようです。詳しい生態はわかっていませんが、生息地も熱帯域を中心に世界に8種、日本には鱧の他、スズハモとハシナガアナゴの3種が分布しています。昼は砂泥底や岩陰に潜み、夜になるとエサを求めて動き出す夜行型。海老や蟹などの甲殻類や、イカ、タコ、魚類を鋭い歯で捕食します。その鋭い歯は危険そのもの。鱧漁は底引き網や延縄漁です。その網で引き上げられた鱧の前に手をだすのは禁物です。間違いなくいきなり噛みつかれるそうです。素人さんがつりあげたとき、よく指を噛まれるという事故がありました。あまりに危ないので、漁師さん達も釣り糸から鱧を外さず、糸を途中から切ります。そのため、市場に入荷した鱧の口には糸の切れ端が下がっている様子をよくみることができます。魚料理には生きている魚の頭の後ろに深く包丁を入れ即殺する活〆がありますが、鱧の場合は活〆した後でもまだ噛みつくことがあるとか。とにかく凶暴な魚であるということは、しっかり知っておくべきです。

■鱧料理は腕がいる!

 さてそんな正体不明の鱧ですが、やはり夏がくると鱧料理を食べてみたいと思いますね。鱧料理というと“鱧そうめん”、“鱧天ぷら”、“鱧寿司”などがあります。しかし鱧という魚。この調理は本当に難しいということは有名。何が難しいかというと、それはあの「骨切り」です。この作業、一般の家庭では到底無理。この骨切りは昔から「三寸を二十四に包丁する」といわれているそうです。それは4mm弱の間隔。しかも皮を切らないで残す作業。これは専門家の作業でないと無理。鱧の骨を切っているところに近づくと「シャキン、シャキン、シャキン」と骨を切る金属音がリズミカルに聞こえてきます。そして素晴らしいスピードの包丁さばき。まさに職人芸です。関東ではあまりみかけませんが、関西を歩くと骨斬り済みの鱧が店頭に並んでおり、家庭で鱧料理をつくるときはその鱧を購入するそうです。 鮮度の良い骨切りハモが手には入ったら、さっと湯通しして氷水で締める湯引き、ハモの落としというのが定番です。これは梅肉ダレで。そして鰻のように蒲焼きするのもいいですね。しかし、鰻の様に焼くとNG。強火の遠火で短時間に焼くのがコツです。外側はカリっと内側はシットリとする様のがコツ。白焼きしただけでワサビ醤油というのも美味しい。湯引きしたハモを細く切ってサラダ風というのも女性は大好きだと思います。


天ぷらや揚げものにしてもおいしい鱧。ぷりんとした食感がたまらない。

■梅雨を飲んでうまくなる!
 鱧パワー全開で夏バテ知らず
 

 夏=鱧といわれる云われのなかで、鱧は昔から「梅雨の水を飲んでうまくなる」といわれます。これは鱧が産卵期を迎える入梅時から脂が乗り始め、身が柔らかく美味しくなるから。そして産卵後、体力が回復して再び食欲の増す秋にはさらに脂が乗って2度目の旬となります。この時期の鱧は“松茸ハモ”、“金鱧”、“名残鱧”と呼ばれているのです。まるで初がつおと戻りがつおの関係に似ていますね。鱧は鰻の仲間にはいります。鰻というと栄養豊富は皆ご承知のとおり。もちろん鱧も栄養満点で、とりわけ多い栄養素には、カルシウム、良質タンパク質、鉄分、DHA、EPA、リン、ビタミンB1、B2、コンドロイチンなどまさに栄養の固まり。特にコンドロイチンやEPAには皮膚の老化防止に役立つことが知られています。皮から骨まで捨てるところのないハモです。すべて食べ尽くせば夏バテ知らずになるのは間違いなしでしょう。


暑くても鍋もいい。さっぱりしてて歯ごたえがあって、一度食べるとやみつきになる風味はまさに夏の王者



金関 亜紀
(かねせき・あき)
 1974年、香川県生まれ。九州や山口で考古学に携わり、民俗学などに関心をもつ。東京の編集プロダクションや出版社勤務を経て、フリーランスに。現在、東京−香川を往復する生活を続ける。一年に地方や離島に出かける回数は30回以上。土地の食材や酒、祭りなどのフィールドワークを行っている。共著に「日本全国うまい焼酎虎の巻」(エイ文庫)がある。無類の酒好き。雑誌やネットなどでお酒のコラムをはじめ、離島の島ネタなどを執筆中。現在は各地の居酒屋で旬の食材と地酒を求めて放浪中。

 

 
 


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