【食の庭】食道楽
2009. 6. 29

Enjoy four seasons with fine food

vol.11 鰻と蜆

万葉集にも詠まれている

夏を乗りきるための土用の食材 鰻&蜆

金関 亜紀
 

 梅雨もあけ、暑い夏が近づいてくると、どうも体の調子が狂ってくる。そんなとき、食べたいと思うもののひとつに鰻があります。
 そもそも、どうして暑い夏に、鰻を食べるようになったのでしょうか。
 『土用の丑の日』近くになると、「鰻をいただきましょう」という宣伝文句が飛び交います。いつのまにか「土用の丑の日=鰻を食べる」という習慣になってしまった私たち日本人。どうせならしっかり意味を知ったうえで、食べるほうがおいしさも倍増するかもしれませんね。


苦みのある甘いうなぎの肝は疲労回復効果抜群

■昔から夏バテ食材だった!?
 「石麻呂に 吾物申す 夏やせに よしと云うものぞ 鰻とりよせ」。なにやら古典文学の時間のようなはじまりですが、実は日本最古の歌集、『万葉集』十六巻で大伴家持が詠んだ、夏バテの歌なのです。
 1000年も前から夏の暑さにバテたら鰻を食す、ということは自然の流れだったのでしょうか。
 もちろん今では鰻は年中食べられるので、どの季節でも美味しいですが、天然ものはやはり夏。清流で捕まえる天然鰻はなんと黄金に輝いているという情報もあり、この天然ものに出会えるのは、宝くじに当たるに等しいそうで、食いしん坊はいつか食べてみたいと、指をくわえてチャンスをうかがっています。

 鰻にはどんな栄養があるのでしょうか?タンパク質、ビタミン、ミネラルがバランスよく含まれており、鰻の表面がヌルヌルしているのはムコプロテインという糖タンパクの一種。これが弱った胃腸の粘膜を保護し、消化吸収を助けてくれます。
夏の暑さでダウンの元となる食欲不振を解消し、夏バテから栄養不足となることを防いでくれるのです。
 さらに鰻の肝に多く含まれているビタミンAには消化器や呼吸器、目の粘膜を強化する効果をもっていて、胃腸の病気や風邪の予防、夜盲症にも有効です。
鰻のビタミンAはレチノールと呼ばれ、野菜のカロチンと違って、全て体に吸収できるという優れもの。ほかにもビタミンB2やビタミンE、それにEPA(エイコサペンタエン酸)、DHAも豊富に含まれ、動脈硬化、疲労回復、老化防止に効果があるスーパー食材なのです。      
 そんな鰻を昔は、滋養食品として位の高い人が薬変わりに食していたという記録も残っています。大伴家持も暑い夏を乗り切るために鰻をせっせと食べていたのかもしれませんね。

■平賀源内はコピーライターだった?
 土用の丑の日に鰻というスタイルはいつ頃始まったのでしょうか。有力な説では江戸時代、平賀源内が馴染みの鰻屋からどうすれば鰻が売れるかと相談を受け、源内の発案で「土用の丑の日に鰻を食べると厄が落ちる」というような宣伝をはじめたことから始まったそうです。
 今でいうCMですね。日本人の流行に飛びつくという性質は昔からあったようで、またたく間に日本全国に土用の丑の日には鰻を食べるということが広がりました。


鰻の裁き方は、関東は背開き。関西は腹開き。調理方法は、関東は鰻は焼き上げ、関西は蒸し焼き。

 では、丑の日とはなんでしょう。丑の日の「丑」は十二支の丑です。土用(季節の変わり目を土用という)の中で、その丑の日にあたる日をさしています。年によっては夏の土用の丑の日が二回ある年もありますが、一般的には夏土用の最初の丑の日が鰻を食べる「土用丑」と称するようになっています。もちろん、二回目の丑の日も鰻を食べていいのですが、日本人の性格なのか、一度経験すると、もういいや〜という気風で、あまり盛り上がっていませんね。


二枚貝のなかでも蜆は味がよくでる貝として下ごしらえには欠かせない存在

■鰻だけじゃない! 精のつく土用の食材
 土用の食べ物では、土用蜆(しじみ)、土用餅、土用卵などの言葉が今も残っています。鰻だけじゃないの? と驚かれる人もいるでしょう。でもこれは土用の日に「う」の付く食材を口にすると病気にならないというという風潮もあったようで、今も各地に伝わっています。
 蜆がどうして「う」の付く食べ物にはいっているのかわかりませんが、蜆もしっかり夏の食材で、鰻よりはるか昔、縄文時代から食べられ、日本人の食生活にどっぷり馴染んでいます。
 蜆には「黄疸に効く」「母乳の出をよくする」「寝汗によい」など、各地で経験に基づいたさまざまな健康にまつわる言い伝えがあり、一般家庭になくてはならない貝でした。
 最近では、「二日酔いに蜆汁」といわれるほうが多いですね。蜆は、利根川河口や宍道湖をはじめ、北海道から九州まで各地の汽水湖(淡水と海水が混じり合った湖)の河口域に生息し、ヤマトシジミ、セタシジミ、マシジミなど種類がありますが、私たちが食べているのは、ヤマトシジミです。そんな蜆には「土用蜆」「寒蜆」の2つの呼び名があり、なんと旬が夏と冬の2回。アミノ酸を筆頭にカルシウムや鉄分、ビタミンB12などのビタミンB群も豊富で、とくにミネラルについては、ほかの代表的な貝類と比べて多くもっています。


鰻丼とオムライスがジョイントした和風オムレツ。とろりとした卵の食感と鰻のタレがよく合う。ちなみに土用の丑の日の食材に土用の卵という地方もあり。

 「二日酔いには蜆汁」といわれるのは、蜆にバランスよく含まれる必須アミノ酸にあります。お酒を飲み過ぎて肝臓の肝細胞が損傷した箇所を必須アミノ酸が補給するという役目をもっているのです。つまり、肝細胞の主成分であるたんぱく質が合成され修復してくれるというわけ。
 肝臓だけでなく蜆の栄養効能は様々な方面で研究され、アミノ酸のうちタウリンが肝細胞の再生をうながしたり、肝臓の解毒作用を活発化させることもわかってきました。さらに糖質は即効性の高いエネルギー源であるグリコーゲン主体なので、肝臓の疲労回復を早めてくれるそうです。昔からの蜆健康説はあながち嘘ではないようです。


酒呑みにとって朝の救世主、蜆汁。 弱った胃腸や肝臓をいたわってくれる。

 土用の食材に選出されているものは、今回紹介した鰻や蜆のように栄養バランスがすばらしく、人間の健康を補強、補修してくれるものばかり。鰻でいえば、蒲焼きや鰻丼が一般的ですが、最近では鰻丼とオムライスをコラボレーションしたメニューなど食べ方もあるようです。
 夏本番に向けて、夏バテにならないように土用の食材を上手に食べてこそ、健康な生活が送られる! ということになりそうですね。汗をかきつつ、ちょっとつまみに鰻をいただく……という光景は、夏ならではの健康方法といえるでしょう。



金関 亜紀
(かねせき・あき)
 1974年、香川県生まれ。九州や山口で考古学に携わり、民俗学などに関心をもつ。東京の編集プロダクションや出版社勤務を経て、フリーランスに。現在、東京−香川を往復する生活を続ける。一年に地方や離島に出かける回数は30回以上。土地の食材や酒、祭りなどのフィールドワークを行っている。共著に「日本全国うまい焼酎虎の巻」(エイ文庫)がある。無類の酒好き。雑誌やネットなどでお酒のコラムをはじめ、離島の島ネタなどを執筆中。現在は各地の居酒屋で旬の食材と地酒を求めて放浪中。

 

 
 


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